遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
いや……うっかり口走った俺の方が気まずいというか居た堪れないというか(首の後ろに手をやり)
陽太君が純粋なだけの高校生じゃないのは知ってるよ。意外と腹黒いこともね
頼りにしてくれるのは有り難いが、俺ほど優柔不断な人間もそうはいないよ。部外者が無責任なアドバイスをしてるだけだ。八方美人だと前の彼女にも責められたし…
なんだか謎かけみたいだな。出口を塞いだのが俺自身ならその理由は?
出口の外に何があるのか、どんな情景が広がっているのか……それを目の当たりにするのを無意識に忌避してるのか
旋律の類似については俺も気になる。陽太君も何か気付いた点があれば教えてほしい。
俺はその職人と面識がないが……そうだな、そのうち店を訪ねてみようか。星ヶ丘にあるんだろう?
(そういうやりとりは一対一の方がいいと指摘を受け)
返す言葉もないな(肩を竦め)
「弾く」の隠喩を暴き立てるのも野暮だが、俺はそんなに御しやすくないとだけ言っておく。
……ただ美しい音を奏でているだけか、か。額面通りにそう思えたら良かったんだが。
あいつのピアノは蠱惑的すぎた。
まあ君が純真な人間じゃないのは雰囲気でわかる。お互い様だな。
君も時任のピアノを聞いたのか
あいつのCDは今品薄らしいが……ストーカーまがいの熱狂的なファンもいたからな。
悪魔は真の名を知られると途端に力を失い膝下に下るらしいが、あいつが命を絶ったのも案外それが原因かもな
……(僅かに不快げに目を細め)はるか、と。
本名を訓読みにしただけだ。さも当然の如く所有格で呼ばれるのはぞっとしなかったがただのあだ名だ、それ以上でも以下でもない。
君も両親には複雑な思い入れがあるらしいな。俺は恨むほど執着もないが…彼等の在り方が人格形成に関わってるのは否定できない
夫婦は一種の契約形態だ。利害の一致で籍に入るのも珍しくない
俺自身そうならないとは保証できない。根が薄情だから家族をもつのに向いてないと友人にも言われたし…
……ああ、本当に。いちいち縛られている(苛立たしげにため息をつく)
(窘めるかと思った、と嘯く皆口さんに呆れ顔をし)
叱ってほしかったのか?悪い子供だな。
……挑発されて引くのも癪だろう。同情は結構だ。今は自分の事だけで手一杯でね。
(禁断症状は出てないのかとの問いに)
つまらない悪夢を見る位さ。
……ふうん。僕から言わせてもらえば、傍観していることよりも、その意味を理解している事が……貴方と彼の関係性をよく表していると思うのですが。ただの美しい音を奏でているだけだと、普通は思うのでは……
僕も純真無垢だとは到底言えないから、別に平気ですがね
(待って待って、と言ってくれる呉井さんに、哀しげに笑いながら)
そうかな……?そう言うきみは優しさが、僕を絶望させるんだ……斑鳩さんの言う通り、演技の才能かもね。そうやって悲しそうにしていれば、きみのような人が僕に優しくしてくれるから……
興味のある事か……今はどうだろう。僕は何かに興味を持っている人の話を聞くのが好きだ。だからきみの話を聞かせて欲しいな
ピアノは嘘をつかない……ですか。なんとも自信のある言葉だ。僕には自分の奏でる音が真実を語っているとは思えない
時任彼方……ああ。あの天才ピアニスト……。彼の音楽には悪魔的な魅力を感じた。だから僕は聞くのをやめた。成程。麻薬か……(忌々しげに腕をさすり)
あなたはどんな名前で所有された……?
(呉井さんに感情のない目を向けて)
過剰な愛情表現ではないのなら、憎しみなのかな。だけど憎しみと愛は表裏一体とも言う。愛するから傷つけるし、傷つけたから愛せるともいう
……僕も兄にはひどいことをしたよ。し続けた。……兄があれだけの事をされて、まだ人格を保っているだなんて、僕は畏怖すら覚えるよ……(と虚ろな目でどこへともなく視線をやり)
……それとも君も無茶苦茶にされたの……?
義務か。僕の両親も建前を気にする人間でしたね。僕たちに道徳を押し付けて、自分たちは……(そう言いかけて、深く息を吸い、唇を噛みしめた)
(「君には弾けない」と言う斑鳩さんを見て、ふふ、と嬉しそうに微笑み)
冷静な斑鳩さんらしくないですね。子供の悪ふざけを、窘めるのかと思った
(唇に当てた人差し指が、艶やかな動きで線を引いた)
……そうですかあ。貴方を弾けるのはただひとり。でももういないんだ。(にこりと微笑み)気に障ってなんかいませんよ……僕なんかじゃあ貴方を満足させられないから……かわいそうだなあと思って
(頬を掻く呉井さんに、子供のような笑顔を向けて)
あ、そうかな?僕たちそんなにおかしかったかなあ?ごめんね
(そして斑鳩さんが携帯をしまう手に目を落とし)
……今は禁断症状は、出ていないのですか……?
(遙さんに忘れてくれと言われて、んー?と首を傾げて)
そー言われてもぉ。もう聞いちゃいましたし、忘れるのは無理ですよぅ。
それにオレは別に純真無垢でも何でもないから、話しても構いませんって。
歪ませるのが好きっていうのは、うーん…。この場で言うのはやめておきます。
何言ってるんですか、遙さん。頼りないなんて事ないですってば。
オレと弟の事を気に掛けてくれてありがとうございます。
…過激な愛情表現。
とてもそうは思えないけどなぁ(遠い目)
あぁ、すみません。確信めいたものがないと、どうしてもそうなると思うし…。
…んー。自分で塞いだ出口を見過ごしてるというのが本当なら、
出口まで行ったのに塞いだって風にも感じたけど、どーなんでしょう?
へへー、追い返されるどころかお茶もお菓子もご馳走になっちゃいました♪
ありがとー、遙さん。もし弟子入り出来たら、連絡しまっす。
ふーむ…。ピアノの音色とオルゴールの旋律が似てるって気になりますねぃ。
(従夢君から返ってきた言葉に、瞬きをして)
え、待って待って。絶望する才能とか、絶望するふりをする才能とか…。
ソレは気持ちが落ち込んじゃってるって事で、才能とは別だと思うんだけど(汗)
…確かに押し付けは、才能とかそーいう話じゃなくても、困るね、って…いやいや。
そーいう意味で恵まれてるとかじゃなくて、興味ある事を見つけて打ち込んだ方がいいってば。
ん?弟は大切な家族だけど、続柄だけどうこうでっていうのは考えた事ないなぁ…。
ありゃ、キミもうちの弟みたいに厳しい態度とったことあるのん?
………可愛げのある蹴りだったら、どんなによかったか…(溜息)
(お礼を言われて、微笑んで)
優しいかどうかは自信ないけど。どーいたしまして♪
うん、自分の手で色んなものを作ったりするのが、やっぱり楽しい(頷く)
(遙さんと従夢君の様子に気付いて、頬を掻いて)
ええっと、そーいうやり取りは、1対1の時がいいんじゃないかなぁ?
不適切な喩えだったな。子供に聞かせる話じゃなかった(眼鏡のブリッジを押し上げ)
時任は悪趣味な男だった。わざと俺に見せて聴かせて愉しんで…理解した上で傍観してた俺も大概だが
孤独は凡人も共有できるが孤高は天才の在り方だ
絶望するフリをする才能………演技の才能か?
その欺瞞に気付いているなら俺が言うことはなにもない
言葉は呪い……そう、その通り。言葉は毒にも薬にもなる、死後も人を縛り続ける呪いだ
だから俺はピアノを好んだ。ピアノは嘘をつかないから……
時任の言動がどんなに俺や周囲を欺き騙しても、俺だけはそれを見抜ける、否、聴き分ける自信があった
……今はその自信も喪失したがな。お前は特別だと囁かれる事で厭わしさと優越感を同時に抱いていた。
あいつの音楽は麻薬だ。途絶えると禁断症状がでる。
人格は破綻してたが……いや、だからこそ紛れもなく天才だったよ、時任彼方という男は。
(「自分だけのあだ名をつけて所有権を主張する」との言葉に自嘲的に口許を歪め)
俺にも身に覚えがある。
心理学の話になるが、幼少時の人格形成に両親は否応なく関与する
俺の両親は義務だけで一緒にいたからな。互いへの関心が希薄だった。
だから君や陽太君のように身内に特別な感情を持てるのを意外に思うよ
……俺にとってその対象は友人だった
愛情の反対が無関心なら憎しみの反対もまた無関心なのかな。興味深いね
(妖しく微笑む従夢さんと対峙、瞳の体温を下げて凝視。酷薄な笑みを浮かべて)
君には弾けないよ。俺を弾ける人間はただ一人だけで、そいつはもういない
……似ているのは否定しないが、時任に比べたらまだ可愛げがある。気に障ったらすまないが。
(肩を竦める仕草をして白衣のポケットに携帯をしまう)
(呉井さんと斑鳩さんの話を聞きながら)
三角関係……か。恋人との倒錯的な営み……ですか。ふうん……
(と言ってピアノを見つめ)
悪趣味か……
(呉井さんの言葉に、目を合わせず気だるげに言葉だけ返します)
……そうかな。そうかもしれないね。僕にもし才能があるとすれば絶望する才能かもしれない。絶望するふりをする才能か……
まあ、がんばってみるよ
才能なんてものは、望んで手にいれるものではない。他人の艶羨など不愉快な雑音だ。天才であり続けなければいけないというのは凡人から押し付けられた贖罪だ。生まれながらの罪びとのように、その罪を延々と
懺悔させられる。自分だけで行うそれを大衆にさらされて、まるで公開処刑だ……
僕はそういう意味では恵まれていると思うよ……
……そう。君にとって弟さんは大切な肉親なのか。弟だという続柄だけだって理由じゃないのかな……?
僕はどちらかと言えば君の弟のような態度をとってしまっていたから、何も言えないな
蹴るなんて可愛げがあるじゃないか
……それだけだろ?
きみは、無理だとあきらめてい無さそうだね
(ゆっくりと顔を傾け、呉井さんの方を見て)
構わないよ、別に。きみは優しいね。ありがとう……
(ため息をするような発生で物憂げに呟きます)
(イヤホンジャックを褒められて嬉しそうにする呉井さんを見ながら、少し微笑み)
そう。きみはほんとうに、それが楽しいんだね……うらやましいよ
言葉は呪いですよ……ひとは知らずそれを使う。一番初歩的なものは名を呼ぶ事ですね。自分だけのあだ名をつけて、所有権を主張する
良心を観測する装置ですか……ならば僕は悪であればいい
両親は絶対的ですが、あれに影響を受けたとは思いたくはないですね。憎む程の価値もない
僕を覚えている人たちか……福音でも刑罰でもなく、それは罠だ
あなたちの優しさは、僕の罪の意識を緩慢にさせる……まるで麻酔みたいに
……(風が吹いたとき、ゆるりと、口元が妖しく歪む。すうっと、斑鳩さんを真っ直ぐ見つめ、呪文でもかけるかのように語りだします)
……
ふふ。僕は貴方と共感できると思っていたけれど、貴方のご友人の方が僕に近いようだ
僕はあなたを弾いてみたくはあります
どんな音色を奏でるのか、聞いてみたいなあ……
(細く白い指を滑らかに動かして、鍵盤を撫でるように弾く)
(そしてくすりと微笑する)
三角関係……ああ、言われてみれば。
ピアノと向き合うあいつの傍らにいるといつも見てはいけない場面を見せられてるような疾しさを覚えた。愛人とのプライベートを覗き見ているような…頭を押さえこまれて、見たくもない倒錯的な営みを覗かされてるような……
……高校生を相手に何を言ってるんだ俺は。忘れてくれ。
時任は俺の顔を歪ませるのが好きな歪んだ性癖の持ち主だったからな。
それに類する事は言われたよ、何度も。悪趣味の極みだ。なんで友人をやってたんだか……気の迷いにしては長続きしたな
ショック療法は試し済みか。それならもう俺が意見できる事はないな。頼りなくてすまん
……話を聞いてると随分とバイオレンスな弟だな。それはもう彼流のスキンシップなんじゃないか?
過激な愛情表現という奴だ。可愛いじゃないか
同じ所をぐるぐる回ってるように見えるか?まあ、自分でもそんな気はしてた(苦笑いし)
進んでるのか戻ってるのか……迷路を抜け出す気があるのかないのか
案外自分で塞いだ出口を見過ごしてるだけかもな
邪険に追い返さず話を聞いたということは、その人物も君の事を憎からず思っている証拠だ。弟子入りが叶うよう願っておくよ。
……その木原という人物に一度会ってみたいな
このピアノの音色は知人のもつオルゴールの旋律に似てるんだ。
ひょっとしたら彼女が捜している職人と同一人物かもしれない
(「痛かったですかね?」という深雪さんの発言に首を振り)
そんな事はないさ。俺にはない感性だったから新鮮だった
音を奏でる為に生み出されたのにただ朽ちゆくのみというのは確かに虚しいね
木原一颯……(記憶の襞をなぞるように目を眇め)……聞いた事がないな。生憎とそちら方面には疎くてね。友人なら知っていたかもしれないが
その人物がこのピアノを手掛けたのか
……職人の使命は作品を世に送り出して完結する
その末路にまで責任を負う義務はないが……行く末を見届けられないのは少し、寂しいかもな
(自分の言葉が好きだと言われ苦笑いし)
死んだ友人がな……時任と言うんだが、俺によくピアノを聴かせてイメージを羅列させたんだ
この演奏を語彙の限りに喩えてみろ、と。謎かけみたいだろう?その癖がぬけないんだ、未だに
(「指を見ただけでそこまでわかるのか」との問いに)
いや、今のは勝手な想像だ
よく整えられた爪といい、繊細で潔癖そうな指をしてるからそんな音を奏でそうだと思ったまでだ
君の幼馴染とやらは手厳しいな。だが的を射ている。
……共感は押しつけるものじゃない。ましてや理解は強制できない。
俺は持たざる側の人間だが、同情で共感してもらっても嬉しくない。かえってみじめになるだけだ。
わからないならわからないでいいじゃないか、わかったフリをするほうがより残酷だ。
言葉は呪いか。賛成だ。言葉は心を縛る、カタチがないから一層厄介だ
神とは良心を観測する一種の装置かもな。君のお兄さんが神を信じ続けるのは無垢な精神の表れか、それとも…
確かに子供にとって両親は絶対的だ。物心つく前後の影響は計り知れない。
……君が抱える事情は知らないが。
君が君である事を忘れても存在が消滅する訳じゃない。
君を覚えている人間がいる限りは。
俺も、彼らも(陽太さんと深雪さんを一瞥)他にもいるんじゃないか?それが福音か刑罰かはわからないが。
そう、だな。あいつは俺にとって無視したくてもできない存在だった
あいつにとってはどうだかわからないが……どうだったんだろうな、本当の所は
俺はあいつの執着心と独占欲が怖かった。所有格で語られるのにいらついた。
だから……したのかもしれない(途中、風が吹いて声が消える)
(遙さんから時任さんの話を聞いて)
相変わらず、聞けば聞くほど…な人だなぁ…(汗)
だけど、遙さんだけは、間に入る事ができた、と。
んー、何だか三角関係みたい。
疎遠になる切っ掛けを作ったのは、元を辿ればオレですから…。
平行線も元をただせば二本の直線かぁ…。
オレはその直線から逸れたけど、せめて別の形で共振できるようになりたいですね。
あ、不意打ちとかショック療法は、実はもうやった後でして。
弟はオレには容赦無いから、思い切り蹴り飛ばしてきてー…後は察して下さい(汗)
うーん。遙さんの話を聞いてると、思い出の不変を望んでるような、打ち破りたいような気持ちが
いっぱい混ざって、出られなくなってるような…。
いや、この世に存在するなら…って言ってるから、待ち望んでるって言った方がいいのかな。
……。(じっと自分の手を見た後、すぐに向き直って)
いえ、直し方は教えてもらえたんですけど、弟子入りはできてなくて。
でもいつかそうなれたらいいなって思ってます。
ん、いい刺激になれてるならよかったでっす♪
(従夢君の打ち込めるものがないという言葉に)
んーと…。多分だけど、まだ見つかってないか、気付いてないか…。
それか最初から「無理」って諦めてるからかも?
って、オレが言うのも変だけど、どうも…キミの話聞いてるとそんな気がして。
不適切な言い方してたら、ごめん。
うん、兄弟っていっても、どーしても合わないってあると思うし、
絶対仲良くしないとって決まりはないっていうのはわかる。
でもオレは、弟がしがらみになってるとは思ってないからさ。
やっぱり仲直りしたくて、あがいてるんだ…(苦笑)
(深雪君がピアノを聴かせてくれると言ってもらえて)
やった♪んじゃ、深雪君の予定が空いてる時によろしくねぃ。
ええっと、どーいうの作ってるかというと、ってすでに遙さんが見せてる…!
(イヤホンジャックを見てくれた深雪君と従夢君に微笑んで)
うん、そーいうのも作ったり、カワイイ系やキモこわ系も作るよぅ。
翅の部分は色や質感を出すのに苦労したから、褒めてもらえて嬉しいわー♪
あ、深雪君って元々島外から来たんだっ オレも7月に引っ越して来たから同じだねぃ。
って、卒業したら留学…。せっかく知り合えたのに淋しくなるなぁ…。
(木原さんの名前が出て瞬きをして)
深雪君の家にあるピアノ、木原さんの作品だったんだ
そっか…。なら、このピアノも製作者は木原さんって事になるのか…。
面白い偶然です。少し感傷的な気分で寂しい場所に足を運んだらピアノがあって、今は高校に通っていた。僕はそんな理由……
僕も運命だなんてものは信用しない。偶然に特別性を持たそうとしているだけ。言葉は呪いだ。名前をつければ形になる
ええ、僕はカトリックです。正しくは両親が、ですが
そうですか、斑鳩さんのご友人も……
信仰は、魂で行うものです。表面的な振る舞いでは計り知れない。彼らが対話するのは神は目に見えないが、その魂に住まう
僕の兄も今だに神を信じています。表向きは全くそんなふうに見えないけど
僕が良く引くのは、『行けども行けども』や『深き淵より』や『光と闇の行き交う巷』ですかね
家では違うものを唄わされていましたが、僕は神を心から愛せなくて。子にとって両親は絶対的なもので、神に等しい存在なのに、彼らが信じられなければ、彼らの信じるものも信じられない。神は僕を救ってくれないし、罰も与えてくれない
(呉井さんの作品を見せてもらって)
これは材質は……樹脂かな?翅の表現が素晴らしいですね。精巧だ。壊れてしまいそうな美しさがありあますね……
(呉井さんを見て)
彼が、これを……やはり作品を見るのは面白い
才能はある、か。そうはっきりと言われると嫌な気がしないね。持たざる者の苦しみか……僕にはそんなもの、他人からの評価を求める者の嫉妬にしか聞こえない。本当に好きなものを、ただ好きという理由だけで才能もなくやり続けられる人間を僕は知っている
好きでい続けるのは呪い……そうかもしれません。ならば好かれる事は呪われている事か……
人は自分以外の人間にはなれない、僕は僕であることすら、危うく忘れそうになる……
ピアノ専攻なのか、ピアノが好きなんだね。それとも別の理由?
(深雪さんに笑顔を向けられ、少し戸惑いがちに怒ったような口調になります)
……気にされるような程でも、ないよ。僕は時々、どうしようも無くなってしまう時があって、今はそういう気分なだけ
作曲するのか、珍しいと言いながら、君はその部類?
デジタルでもやるのか。多才だな。君の作った曲も聴いてみたいね。きみの音。どんなふうにきこえるのかな……?
弔い、或は報復……。彼は貴方にとって重要な存在だったのでしょうね、その彼にとっては貴方がどうだったか知りませんが……
生きている者同士で束縛し合うのも滑稽ですね……そうすることが、僕も愛だと誤解していた
人間というものは愚かしい
あっ、なんかピアノのこと擬人化してるみたいでちょっと痛かったですかね……(恥ずかしそうに)
優しい……のかな。楽器は使ってナンボだと思うので。使ってもらえないのはやっぱり悲しいと思います。
(製作者について聞かせてくれと言われ)
木原一颯さんって言うピアノ職人の方の製作ですよ。
今はもうピアノ作ってないみたいですけど、有名な方だから耳にしたことあるんじゃないですかね?
ヴェネツイアの絵葉書……そういえば木原さん、ずっとヴェネツイア在住だった気がします。
俺は斑鳩さんの言葉好きですよ。すっと耳に入ってきてイメージが頭に湧いてくる。心地いいです。
(音色の喩えに一瞬目を見開き)指見ただけでそこまでわかるんですか?
天才なんて言葉は他者が評価するときに使うもんだと思ってますが……才能はあると自負してます。
まあ、あの……前に幼馴染に『君は持たざる者の苦しみが理解出来ていない。皆が君と同じように出来ると思うな』なんて言われたことあるので、それ思い出しちゃって……。
(呉井さんにピアノを聴いてみたいと言われ、一瞬嬉しそうな顔をするもすぐ引き締め直す)
お、おう……!いつでも聴かせてやるよ。同じ学校だし、機会はいくらでもある。
工芸やってるのか。指先の器用さも頷けるな。どういうの作ってんだ?
(言った傍から斑鳩さんが出した蝶のイヤホンジャックを見て)
へー、すげぇ。こういうの作ってるのか。センスいいな(素直に感心し)
(心強いと言われ)そ、そうか……なら良かった(もごもご)
あー、俺元々島外から来たしな。それに留学志望だし。どの道この島にいるのは卒業までだな。
(皆口さんに対し)
おう、芸術科の音楽専攻。専門はピアノ。
頭で思っていても、それを行動に移すのは難しいからな……。
別にお前のこと臆病者だなんて思わねぇよ。むしろそんなメンタル強い奴中々いねぇだろ、今の世の中。
まあ目の前にいる限りは気になっちまうな(ニヤッと笑い)
クラシックは俺も専門だ。
ピアニストで作曲まで手を出してる奴のが珍しいんじゃねぇか?
俺は曲も作るけどな。DTMとかも齧ってるし。ネコフェスで自作曲演ったしな。
君もピアノを弾くのか。クラシックは俺も好きだ。あとはジャズとか……古い洋楽を少し
ピアノを弾ける人間が三人そろうのも面白い偶然だ。おまけに全員が寝子高生ときた。
作為的というかなんと言おうか……皮肉めいたものを感じるね。夢想家なら運命とでも呼んだかな
……俺個人はその言葉に懐疑的だが
聖歌……ということはキリスト教徒かな。俺の友人もそうだった。敬虔なカトリック教徒でね…とてもそうは見えないエキセントリックな振る舞いで周りを振り回したが
どんな讃美歌が好きなんだい?
(「どんな物を作るか見てみたい」との従夢さんの発言に少し考え、陽太さんと見比べつつ携帯を取り出す)
以前陽太君に貰った蝶のイヤホンジャックだ。精巧にできてるだろう?特に翅の表現が秀逸だ
http://rakkami.com/item/detail/343
(兄弟の確執について言いよどむ従夢さんを眺め)
……彼も心に鬱屈を抱えてるらしい。この遊園地は道に迷ったモノを導く負の力場なのか?(小声でひとりごち)
何かを生み出せるのはそれだけで才能だ。俺も君と同じ、何かに打ち込める情熱など持たない種類の人間だ
何かを好きでい続けられるのも才能のうちだが、時にそれは呪いにもなる。
才能に縛られて自滅する人間も多い。
……何も生み出せず直せなくても卑下や自重には値しない。俺が言うのもおかしいが……それはただ、そういう人間だったというだけだ。
所詮人間は自分以外の人間にはなれないんだから。君も俺も、な(口許を歪め、陰のある笑みを覗かせ)
全てを捧げる覚悟があるものなど持たない人間の方が圧倒的だ
俺自身の為にピアノを弾いてる訳じゃないというのは慧眼だ。実際その通り……俺がピアノを弾く理由は弔いに尽きる
でなければ、身勝手に生きて死んだ男への報復だな
……死んだ人間に縛られ続けるのも大概だが……思えば生きてる頃からそうだった
生きてる人間同士で束縛し合うのも滑稽さではいい勝負だがな
霧生さんは、8組か。芸術家か……それでピアノを?
そう。ありがとう……思い詰めてるかもしれないけれど、僕は大丈夫だよ……何も決定的な行動をする勇気もない臆病者でもあるから、こんなところで寂しそうなふりをしてるだけ……
だから気にしないでほしい……というのは無理か
ああ……僕もピアノを引くよ。聖歌やクラッシクを。自分で作曲はしない。創造する才能が無くてね
君の演奏を聞いてみたいな。君は自分で曲を作ったりする?
この島では不思議な事が多いですね……
そうですか。異常な状態を体験すれば、自然と親近感が沸くものです。粘土細工ですか……そうですね、見てみたいですね……呉井さんがどんなものを作り出すのか、その心の内に僕は興味があります
作るうちに手先が器用に、ですか……それは羨ましいですね。呉井さんは何かも作ったり、直したりするのが、単純にお好きなんでしょうね……それが羨ましいです。僕は何か情熱を打ち込めるものがないから
僕はピアノと話は出来ないし、何かも模倣するのは得意なのだけれどね
何かを好きでい続けられるのは、才能なのかもしれない
僕にそれができないから、なにも生み出せないし、治せない、のかも……
……兄弟だからって、何も仲良くしなければならないという法則もないのだから、別に気にする事じゃない
ただのしがらみにしかならないのであれば、そんなものは……
すみません、僕が意見するような事ではないですね
全てを捧げる覚悟があるもの……ですか。それならばほんの限られたものしか資格は無いでしょうね。この僕にも、斑鳩さんにもそれがないという事なのでしょう
斑鳩さんは、ご自身のためにピアノを弾いているわけではなさそうです。……貴方の言葉に影響を与え、死してなお貴方を縛っているその友人……
……
いえ……忘れてください……
……信じられるものがあるのなら、まだ……
外国からの留学生が多いのが寝子校の特色だな
俺は本土の高校を出たんだが、島外からの進学者が大半を占めるのは自由な校風に惹かれての事なんだろうね
(陽太さんの呟きを聞き咎め、複雑な表情で)
……あいつはピアノの愛人だったからな
恋人と呼べるほど誠実な間柄じゃない。もっと淫らで享楽的な……それでいて誰も間に入れなかった。
俺以外は。
弟さんとは相変わらずか。……そういえばスランプの時期があったと聞いたな
おおらかでのびのびとした今の君からは想像しにくいが……
俺には兄弟がいないから上手いアドバイスはできないが、弟さんと疎遠になったきっかけについて、心当たりはあるんだろう
避けられてるなら話し合いは難しいかもしれないが……
ショック療法を試してみたらどうだ?アポイントメントなしで待ち伏せするとか
平行線も元をただせば二本の直線、ピアノ線なら同じ波長で共振する。
正攻法は分が悪い。近付いた分だけ離れるなら不意打ちで逃げ場をなくしてやればいい(意地悪そうにほくそえむ)
なるほど、楽器との対話か。
君の言う通り、最初は好奇心から始まる。邪念や雑念など入る余地はない。
資格が何だと小難しい理屈をこねるのはただ俺が臆病だからだ。
……ひょっとしたら、自分の手で幻想を壊してしまうのが怖いのかもな。
理想であり幻想であり偶像……俺にとってはそれら全てを包括する存在だったから。
同じ水でも真水と塩水では雲泥の差、塩水を呷れば喉の渇きはいや増すだけ。
(目を伏せ)……俺の理想の音は既に失われてしまった
何で代用したらいいか、仮にできたとして、そうすることが正しいかもわからない
でも……あいつを超える音がこの世に存在するなら、聞いてみたい
身近に職人が?弟子入りしたのか
本格的に修行を始めたんだな。目標に向かい着々と邁進していて頼もしい
知り合ったのは偶然だが、陽太君と出会えた事で俺も少し考え方を改めたよ
ここを見つけるまでは職場と家の往復で一日が終わっていたからね……話してるといい刺激になる
寝子高の芸術科は、確かに幅広いですねぃ。
外国出身の人も結構多いし、色々刺激的で楽しいですよぅ♪
(遙さんの言葉に、ほんの少し目を伏せて)
そっか、あの人も…でしたか。
なら、どうして…。
ん?あぁ…一時期弾けなくなった事はありましたけど、もう大丈夫、でっす。
といっても、弟とは、相変わらず…ですけど。
頑固だからなぁ…。誰に似たんだろ。父さんかなぁ…(はぁ、と溜息)
(弾く資格についての皆の言葉に耳を傾けて)
んー…。ピアノもだけど、楽器って…まずは「触れたらどんな音がするんだろう」っていう
興味から始まるのかなぁって思ってた方なので。
資格がどうこうっていうのは、オレの頭の中にはありませんでした。
ピアノも他の楽器も、触れて始めて『音』という形で返事をしてくれてるし。
って、何だかややこしい事言ってるような気がしてきたぁ…(汗)
(従夢君に器用と言われて、へへーと照れ笑いをして)
うん、一応。小さい頃からちょこちょこ粘土細工や部品とか弄るのが好きで、
そーしてる内に、段々と手先が器用になってきたんだぁ。
(同じく、遙さんの方を見て)そうそう。知り合ったのは、数か月前♪
ここって変わった事が起こるから、色々と縁ができてねぃ。
修理の方は、身近に詳しい人がいたり、職人さんに教わったりしながら頑張ってるよぅ。
(深雪君の話を聞いて、嬉しそうに笑って)
深雪君、ピアニストなんだっ
どんな曲弾くのかなぁ、聴いてみたい♪
ううん、オレは物作りや修理とかを頑張りたくて。
工芸の方に力を入れてるんだぁ。
プレッシャーというか、応援してもらえるのは励みになるし、心強いよぅ☆
うん、卒業前には直って……って、もしかして卒業したら引っ越すのん??
詩的……かな(首を傾げ)自覚はないんだが……言い回しがくどいと指摘された事はある
おそらく指摘した本人の影響だと思うが
こんな廃墟だからこそ集まるとも言える
新品のピアノは音が軽い。このピアノは音こそ錆びて軋んでいるが、そこに至るまでの歳月が蓄積されてる
……一人になりたい時にはいい場所だね、ここは
見つけたのは偶然だが、歩いていると心が落ち着く
(従夢君に質問され、陽太君を一瞥してから)
古い……というほどでもない。会ったのはほんの数か月前だ
それから色々な経験をしてね……この島では妙な事が起きるだろう、一緒に巻き込まれるうちに縁ができたのさ
彼の修復の腕を高く評価しているのは事実だが。
実にユニークな粘土細工を作るんだ、機会があれば見せてもらうといい
弾く資格の有無ね。……私見を述べるなら、見返りを求めず全てを捧げる覚悟がある者かな。
音楽の神は気まぐれだ。努力に見合う成果を返すとは限らない。凡人の献身は徒労でしかない。
それでも情熱を失わず、打ち込み続ける者しか高みに到達し得ない。
あくまで俺個人の意見だ。私見と前置きしたが偏見かもしれない。
……時折わからなくなる。俺が今さらピアノを弾く意味があるのか、弾く事で何か変わるのか
あいつはそれを望んでいるのか……
この試みが無意味でも、停滞した現状を打破するきっかけにはなると思う。
今はそう信じるしかない
(深雪さんの台詞を反芻し)
……「あった」ではなく「いた」、か。なるほど……
俺はただ無機物が破棄されてるとしか思わなかったのに……君は、いや、君達は優しいな。
君の家にあるピアノと?
……面白い、よければ製作者について聞かせてくれないか。知ってる情報だけでいい
少し前までピアノの来歴など気に留めなかったが、陽太君に感化されたのかな。
先日ヴェネツィアの絵葉書を置いていった人物も気になる
……まいったな。そんなにその……気取った言い回しをしてるか?(ばつ悪げに言い淀み、眼鏡のブリッジを押し上げる)
……とるにたらない独り言だ。気にしないでくれ。
リクエストは考えておくよ。
実際聞くまでわからないが……(深雪さんの指を見つめ)冬の湖に張る薄氷のように、繊細に凛冽と、透き通った和音を奏でそうだな。
耳が痛い、か。意外だね。君はどちらかといえば天才の側に属する人間に思えたが
……失言だったな。試す前から諦めるのは俺の悪い癖だ
斑鳩さんと皆口か。
斑鳩さんはここによく来るんですね。確かにここ喧騒から離れて落ち着くというかなんというか……
寝子高は個性飛び越えて変な奴ばっかりですよ(苦笑)
それがいい刺激になってるのかもしれないですけど。
(ピアノに見覚えがあるかという問いに対し)
遠くから見たときは確証なかったけど、近くで見たらやっぱり……製作者が同じなんだと思います。
ここにもいたんだな……二十年も誰にも弾いてもらえなかったのか(悲しげに目を細めピアノを撫で)
斑鳩さん、見た目理系っぽいのに随分詩的な表現するんですね。
ちょっと意外……あっ気に触ったらすみません(慌てて)
(自分の手を見られて)
俺はピアニストですから。実力には自信あります。
それじゃ、直ったら俺の演奏聴いて下さいね。斑鳩さんの好きな曲弾きますよ(ふっと笑み)
(皆口さんに対し)
人違いじゃなくてよかった……。俺は8組だ。
生まれつきって……まあ、会ったばかりの俺が言うのもなんだけど、あんまり思い詰めんなよ。
俺もそんなポジティブな方じゃねぇから説得力ないけどよ……。
(ピアノを見たら懐かしくなったと聞こえて)
お前もピアノ弾くのか?
俺の演奏ならいつでも聴かせてやるよ。学校にもピアノあるし。いつでも声かけてくれ。
(呉井さんに芸術科かと聞かれて)
おう、俺も芸術科。音楽専攻のピアニストだ。
呉井も音楽専攻か?ピアノ直せるくらいだし。
あっ、プレッシャーかけちまったら悪いな……。
卒業するまでは寝子島にいるつもりだし。さすがにそれまでには直ってるだろ?(冗談っぽく)
(ピアノを弾く資格がないという言葉が聞こえて)
弾きこなせなくたって、弾きたかったら弾けばいいんですよ。音楽ってそういうもんでしょ。
凡人とか天才って言葉は芸術分野に携わってる者としては耳が痛ぇな……(ははは、と乾いた笑い)
詩的ですね……
ええ、よろしく
運命ですか……
ピアノならどこにでもあるのに、こんな廃墟に集まるなんて……おかしな話です
呉井さんは手先が器用な方なのですね
(斑鳩さんの方を見て)そちらの方にも信用されているようですし
呉井さん自身も彼を高く評価しているようだ
二人とも古いお知り合いですか?
(呉井さんと斑鳩さんのやりとりを見て)
弾く資格……ですか
ならばどんな人間なら資格があるのか……
……どんなに資格があっても、死人にはピアノは弾けません
諦めてしまったものにも……
音楽から造形まで……寝子高の芸術科はジャンルが幅広いな
畑違いの分野と触れ合えて刺激になりそうだが
ピアノに会いに……か。君らしいな。俺に無機物を擬人化するような感傷はないんだが……そうだな、君のような人種にはピアノの気持ちがわかるのかもしれないな。
(声を落とし)……友人がそうだった
何度言わせるんだ?礼には及ばないと(肩を竦め)そこが君の長所でもあるが
演奏にブランクが?前に言ってた弟さん絡みかな
詮索されるのが嫌なら深くは追及しないが
(陽太さんにきっぱりと言われ、諦念の滲んだ落ち着いた居住まいで)
別に卑下してるわけじゃない
ピアノに関してはずっと聴き専だったから、自分が弾きこなすイメージが湧かなくてね
それが凡人と天才の差か
……音の理想が高すぎるのかもな。死人を模範にしても意味がないのに
刷りこみから脱却するのは大変だ
(深雪君に言われて、頷いて)
うんうん、オレも二年だよぅ♪
お?そーいえば、見かけた事あるような…となると、キミも芸術科??
(実家にあるピアノに似てたと聞いて)
そっかぁ。なら、尚の事修理を頑張らないと。
一応、少しずつではあるけど、直ってきてるから。
気長に待ってもらえると嬉しいわー♪
(遙さんに無理はするなよと言われて)
大丈夫です。パタパタ駆け回ったりしてるけど、無理のないようにしてますよぅ♪
ピアノは逃げない、かぁ。
でもよく会いたくなって、ちょいちょい来ちゃうんですよねぃ(ピアノをそっと撫でる)
うぅ、一応手先は器用な方ですけど、そんな風に言われると照れちゃいますよぅ。
でも、そー言ってもらえるのはやっぱり嬉しいので、
遙さん、ありがとうございますって言っちゃいます(へへーと照れ笑い)
ん…。ピアノが大好きっていうのもありますけど、直せるなら直したいですし。
もう一度聴きたい、忘れたくないって強く思ったから、今でもこうしているんだと思います。
オレの方こそ、切っ掛けをくれた遙さんに感謝してるんですよ(柔らかく微笑む)
(従夢君の話を聞いて、手をパタパタして)
ううん、ここってあまり人が来ないからさ。キミこそ、気にしないで。
そっかぁ、キミも懐かしくなって、このピアノに触れたんだねぃ。
ピアノの事、心配してくれてありがとー♪
(弾く資格がないという言葉が聞こえて、くるっと振り返って)
資格がないとか、そんな事ないですからね(キッパリ)
なるほど、君にはそう見えたのか
ならば誰のものでもあって誰のものでもない、と言うべきか。
俺が見つけた時にはすでにこの状態だったから弾いてみようとも思わなかったが、今まで多くの人に演奏されてきたんだろう
降り積もった不可視の記憶が鍵盤を重くしてるのかもしれない
……このピアノは人を選ぶのかもな
俺には弾く資格がないのかもしれない(冗談とも自嘲ともつかぬ笑みを浮かべ)
皆口君か。こちらこそよろしく(軽く会釈)
運命という言葉には懐疑的だが……ここにいる全員がピアノに導かれて集まったというのも面白い偶然だ