遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
外国からの留学生が多いのが寝子校の特色だな
俺は本土の高校を出たんだが、島外からの進学者が大半を占めるのは自由な校風に惹かれての事なんだろうね
(陽太さんの呟きを聞き咎め、複雑な表情で)
……あいつはピアノの愛人だったからな
恋人と呼べるほど誠実な間柄じゃない。もっと淫らで享楽的な……それでいて誰も間に入れなかった。
俺以外は。
弟さんとは相変わらずか。……そういえばスランプの時期があったと聞いたな
おおらかでのびのびとした今の君からは想像しにくいが……
俺には兄弟がいないから上手いアドバイスはできないが、弟さんと疎遠になったきっかけについて、心当たりはあるんだろう
避けられてるなら話し合いは難しいかもしれないが……
ショック療法を試してみたらどうだ?アポイントメントなしで待ち伏せするとか
平行線も元をただせば二本の直線、ピアノ線なら同じ波長で共振する。
正攻法は分が悪い。近付いた分だけ離れるなら不意打ちで逃げ場をなくしてやればいい(意地悪そうにほくそえむ)
なるほど、楽器との対話か。
君の言う通り、最初は好奇心から始まる。邪念や雑念など入る余地はない。
資格が何だと小難しい理屈をこねるのはただ俺が臆病だからだ。
……ひょっとしたら、自分の手で幻想を壊してしまうのが怖いのかもな。
理想であり幻想であり偶像……俺にとってはそれら全てを包括する存在だったから。
同じ水でも真水と塩水では雲泥の差、塩水を呷れば喉の渇きはいや増すだけ。
(目を伏せ)……俺の理想の音は既に失われてしまった
何で代用したらいいか、仮にできたとして、そうすることが正しいかもわからない
でも……あいつを超える音がこの世に存在するなら、聞いてみたい
身近に職人が?弟子入りしたのか
本格的に修行を始めたんだな。目標に向かい着々と邁進していて頼もしい
知り合ったのは偶然だが、陽太君と出会えた事で俺も少し考え方を改めたよ
ここを見つけるまでは職場と家の往復で一日が終わっていたからね……話してるといい刺激になる