遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
……ふうん。僕から言わせてもらえば、傍観していることよりも、その意味を理解している事が……貴方と彼の関係性をよく表していると思うのですが。ただの美しい音を奏でているだけだと、普通は思うのでは……
僕も純真無垢だとは到底言えないから、別に平気ですがね
(待って待って、と言ってくれる呉井さんに、哀しげに笑いながら)
そうかな……?そう言うきみは優しさが、僕を絶望させるんだ……斑鳩さんの言う通り、演技の才能かもね。そうやって悲しそうにしていれば、きみのような人が僕に優しくしてくれるから……
興味のある事か……今はどうだろう。僕は何かに興味を持っている人の話を聞くのが好きだ。だからきみの話を聞かせて欲しいな
ピアノは嘘をつかない……ですか。なんとも自信のある言葉だ。僕には自分の奏でる音が真実を語っているとは思えない
時任彼方……ああ。あの天才ピアニスト……。彼の音楽には悪魔的な魅力を感じた。だから僕は聞くのをやめた。成程。麻薬か……(忌々しげに腕をさすり)
あなたはどんな名前で所有された……?
(呉井さんに感情のない目を向けて)
過剰な愛情表現ではないのなら、憎しみなのかな。だけど憎しみと愛は表裏一体とも言う。愛するから傷つけるし、傷つけたから愛せるともいう
……僕も兄にはひどいことをしたよ。し続けた。……兄があれだけの事をされて、まだ人格を保っているだなんて、僕は畏怖すら覚えるよ……(と虚ろな目でどこへともなく視線をやり)
……それとも君も無茶苦茶にされたの……?
義務か。僕の両親も建前を気にする人間でしたね。僕たちに道徳を押し付けて、自分たちは……(そう言いかけて、深く息を吸い、唇を噛みしめた)
(「君には弾けない」と言う斑鳩さんを見て、ふふ、と嬉しそうに微笑み)
冷静な斑鳩さんらしくないですね。子供の悪ふざけを、窘めるのかと思った
(唇に当てた人差し指が、艶やかな動きで線を引いた)
……そうですかあ。貴方を弾けるのはただひとり。でももういないんだ。(にこりと微笑み)気に障ってなんかいませんよ……僕なんかじゃあ貴方を満足させられないから……かわいそうだなあと思って
(頬を掻く呉井さんに、子供のような笑顔を向けて)
あ、そうかな?僕たちそんなにおかしかったかなあ?ごめんね
(そして斑鳩さんが携帯をしまう手に目を落とし)
……今は禁断症状は、出ていないのですか……?