遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
面白い偶然です。少し感傷的な気分で寂しい場所に足を運んだらピアノがあって、今は高校に通っていた。僕はそんな理由……
僕も運命だなんてものは信用しない。偶然に特別性を持たそうとしているだけ。言葉は呪いだ。名前をつければ形になる
ええ、僕はカトリックです。正しくは両親が、ですが
そうですか、斑鳩さんのご友人も……
信仰は、魂で行うものです。表面的な振る舞いでは計り知れない。彼らが対話するのは神は目に見えないが、その魂に住まう
僕の兄も今だに神を信じています。表向きは全くそんなふうに見えないけど
僕が良く引くのは、『行けども行けども』や『深き淵より』や『光と闇の行き交う巷』ですかね
家では違うものを唄わされていましたが、僕は神を心から愛せなくて。子にとって両親は絶対的なもので、神に等しい存在なのに、彼らが信じられなければ、彼らの信じるものも信じられない。神は僕を救ってくれないし、罰も与えてくれない
(呉井さんの作品を見せてもらって)
これは材質は……樹脂かな?翅の表現が素晴らしいですね。精巧だ。壊れてしまいそうな美しさがありあますね……
(呉井さんを見て)
彼が、これを……やはり作品を見るのは面白い
才能はある、か。そうはっきりと言われると嫌な気がしないね。持たざる者の苦しみか……僕にはそんなもの、他人からの評価を求める者の嫉妬にしか聞こえない。本当に好きなものを、ただ好きという理由だけで才能もなくやり続けられる人間を僕は知っている
好きでい続けるのは呪い……そうかもしれません。ならば好かれる事は呪われている事か……
人は自分以外の人間にはなれない、僕は僕であることすら、危うく忘れそうになる……
ピアノ専攻なのか、ピアノが好きなんだね。それとも別の理由?
(深雪さんに笑顔を向けられ、少し戸惑いがちに怒ったような口調になります)
……気にされるような程でも、ないよ。僕は時々、どうしようも無くなってしまう時があって、今はそういう気分なだけ
作曲するのか、珍しいと言いながら、君はその部類?
デジタルでもやるのか。多才だな。君の作った曲も聴いてみたいね。きみの音。どんなふうにきこえるのかな……?
弔い、或は報復……。彼は貴方にとって重要な存在だったのでしょうね、その彼にとっては貴方がどうだったか知りませんが……
生きている者同士で束縛し合うのも滑稽ですね……そうすることが、僕も愛だと誤解していた
人間というものは愚かしい