遊園地の敷地内にある野外音楽堂
石造りのステージでは嘗て手品やお芝居、ヒーローショーが演じられていたが、今は演者も観客もなく静まり返っている
ステージには壊れたピアノが一台打ち捨てられている……
僕は・・僕にできることは少ないかもしれないけど。
それでも貴女の苦しんでいる姿を見て見ぬふりはできないよ。
僕は君の・・(一瞬、言いよどみ
友達だから。
それに自由に生きることに権利だなんて必要ない。
過去を常に贖罪しながら生きられる人も誰ひとりいない。
それは仕方のない事なんだよ・・冴来さん。
僕ら人間て弱い生き物なんだもの。
まず、貴女自身をほんの少しだけ。許してみたら?
もうこれ以上、責めなくてもいいんじゃない?
…そう。
あの人は本当はずっと遠い世界で生きる人で…。
きっと、私なんかには想像もつかないくらいに
重い大切な何かをいくつも抱えて…。
あの人が私を遠ざけ様とするのは、
本当に私を思ってくれているからだと
分かっているけど…認めたくないの。
大好きなの。…愛しているの。
あの人がどんなに汚れた人でも
私は、ずっと、ずっと一緒にいたい、のに…。
(ふるふると弱々しく首を振り
私に、自由に生きる権利があるのかどうか…。
それは責任から、過去から逃げることにはならないか…。
私にはとても、判別がつかない…。
闇に独りで閉じこもって、それでも願うの。
いつか光を、って…。
許されていいわけがないのに…。
この子がまた音を奏でられる様になったら
この子を欲しがる人が現れて
この子をここから連れ出してしまったりするのかしら…。
それは、寂しいわ…。
それならいっそ、壊れたままでいて欲しい…。
あら……迷子ですの?ふふ、うっかりさんですこと。わたくしも人の事は言えませんが
確かに朽ちるがまま放置されているのは可哀想ですわね。腕のいい調律師がいれば直せるのでしょうけど……
冴来さんの悩みについてはわたくしは綺麗言しか言えませんけれど。
ねむるさんのおっしゃる通り、辛い時は立ち止まり流れに身を委ねてみるのもいいかもしれません。
前に進むだけが人生ではない、時には振り返り立ち戻るのもまた勇気ですわ
多分、冴来さんが助けが欲しい人・・
その人のにも理由があるんじゃないかな?
傍に居てもいいと言えない、なにかそんな理由があるんじゃないかな・・
僕が言えることはひとつだけ。
諦める必要なんてない・・ただ常に前を見据え続ける必要もない。
いつか、僕に見せてくれたように自由奔放に生きていいんだよ。
考えるのが辛い時は、思考を止め感覚で生きてみて・・
答えなど端から無くて悩めば悩むほど深みに落ちていく・・
恐らく冴来さんを今、苦しめてるのはそういう類の痛みだと思うからさ。
…私はね、現実なんて見てはいないのよ。
消えない過去に縛られて
甘い夢や希望に追いすがっては
届かないと知って蹲ることの繰り返し…。
祈りは届かない。願いは叶わない。
私自身が一番よくそれを知っているのに
諦める事が出来ないの。
前を見据える事も出来ずに、
光に怯えて、闇に逃げ込んで
闇の中で独りきりになることにも怯えるの。
人間らしさなんてものは
私には必要ないものなのよ。
それがあるから私は迷って
笑うことすら出来なくなるの。
…手を伸ばせば、私を助けようとしてくれる人は何人もいる。
それも私は、知っているの。
家族や友達、貴方も、そう…。
だけれど、私が助けて欲しいと願うのは
いつでもたった、一人にだけ。
他の誰でもない、たった一人…。
その人も、私を救おうとはしてくれるけれど
傍にいてもいいと、言ってはくれなくて…。
考えれば考えるほど、ぐちゃぐちゃになっていくの。
もっと気楽に生きたいと、願っている筈なのに…。
私はなんて愚かで、見苦しいんだろう…。
あれは冴来さ・・
(哀しげな様子に一瞬動揺し躊躇うも、自分の両頬を叩きゆっくりと歩を進め
・・何もかも満ち足りてる人なんて誰ひとりいないさ。お嬢さん・・
喉の渇きを癒すかの如く救いを求め
もがきながらなお、現実を見据え続ける貴女は
誰よりも人間らしい。少なくても僕はそう思うけどね・・あ。
(自分がクサイ台詞を言ったことに気づき、顔から火を出し)
い、いや・・え、えと。ピンチの時は駆けつけるっていったからね。
oO(ほ、ほんとは迷い込んで偶然出会っただけだけどね・・)
あれは…ねむる?
こんなところで何をして…。
…。
(ステージ上から声をかけようとするが
小さく首を振り、思いとどまる
ねぇ、貴方を直してくれる人は…。
ずっと一緒に、いてくれる人は
もう、誰も、いないのね…。
私も…。私も同じなの…。
誰も私と、ずっと一緒にいてくれないの…。
独りきりなの…。さみしいの…。
誰をどれだけ、愛しても
私がその人を思う程には
誰も私を、愛してはくれないの…。
寂しい…。
私も貴方も、一体何が、足りないのかな…。
(ピアノにそっと身を寄せ、
目をつぶり静かに語りかける
ま、まずい・・迷った。帰り道どっちだろう・・
あれ?柵ってことは建物があるのかな。誰かいるかも、よい・・しょっと!
(雑木林をかき分け、柵をよじのぼり)
っと!あれ・・なんだろうここ。遊園地?
ひとまず休ませてもらおっか。どっこいしょっと・・
(そのまま柵を背もたれにし腰掛け)
あ…。
こんにちは、ゼシカ。
今日の私は鳥籠に閉じ込める側では無く
この遊園地という閉じ込められた一匹の蝶なのよ。
なんてね。
(くすりと笑って
このピアノも、かつては愛されていたはずなのに
誰もここから、連れ出してはくれなかったのね。
この子を愛していた人々も
この子を忘れていってしまったのね…。
なんてなんて、可哀想に…。
(ピアノに悲し気な視線をやり、慰める様にそっと撫でて
ここがイリュージョンランド……草深い山の中の廃墟
まるで白昼夢を見ているよう。
あら……冴来さん?
奇遇です事、またお会いしましたわね(嬉しそうに微笑む)
今日は鳥籠をお持ちではないんですの?
こちらのピアノは壊れておりますのね
残念……私も是非聞いてみたかったですわ
自分では簡単な曲しか弾けませんけれど。
壊れてる…。
弾きたかったんだけど、な…。
(ピアノの様子を調べ、さみし気に溜息をつき
貴方はここで、どれだけの音楽を奏でてきたんだろう…?