みんなでひとつの作品を作り上げるのだ!
学園もの、恋愛、バトル、SF、ホラー、コメディ……どんな展開になるかはみんな次第だよ!
連投にならない限り、自由に投稿してみよう!
なにか困ったことが出てきたら雑談掲示板で決めるのだ!
「それって、どういう…」
僕は少年の言葉の意味がわからず、言われるがままに近づいたら近づいたで危険な気がしてたたらを踏んだ。
そんな僕を見て少年はニヤニヤと声をかける。
「どうしたの? 君の大切な人を守るために必要なんだろ? ……もしかして、彼女さんのことなんでどうでも良かったりするのかな?」
「なにを……っ」
やすい挑発だった。しかし、ムッとした僕は思わず一歩を踏み出し……。
「ッ!?」
ピリッと頬に痛みが走る。少し間が空いて頬から液体がつぅ…と流れる感覚。
足元を見やると、先程から点々と続いていた血痕が、散らかしたような血だまりの跡になっていた。
血だまりの後は彼と猫を囲むように半円になっており、まるで彼らを守るための結界が張られているかのようだった。
「いい加減にしろ」
レオはたまりかねたかのように少年に告げた。
これはどういうことなのだろう。
傍らのレオに目を落とせば、彼も状況を計りかねているようで、じっと警戒するように仮面の少年を見つめている。
困惑する僕らとは対照的に、虹色の猫と仮面の少年は、まるで自分の振る舞いを邪魔する相手などこの世に存在しないとでも言いたげなくつろいだ様子でこちらに視線を向けていた。
「『初めまして』……という言葉は正しくないんだけど、まあ便宜的に言っておこうか。初めまして」
くすくすと笑う相手に警戒心を引き揚げながら、僕は乾いた唇を開く。
「君は……その虹色の猫と何か関係が?」
「あるよ。この世で僕に関係ないことなんてないんだから」
謳うように拍子を付けたふざけた口調でそう言うと、少年はひょいと立ち上がって虹色の猫の頭を撫で始める。
「ほら、この子の髭が欲しいんだろう? もっと近づいたらどうだい? ……もっとも、近づけたらの話だけどね」
そっとふすまから中を覗く。
薄暗い灯りが点った和室。
一人の小さな人影。
その人は僕に背を向けている。
机に向かって何か広げているようだ。
そして、猫が……虹色の猫が、その傍らに座っていた。
「あの……君は?」
何か既視感を感じながら。
僕は少年らしい人影に声をかけた。
「やあ。やっと来たね」
ゆっくりと振り向いたその少年は。
猫の耳がついた仮面をつけていた。
見ると床に赤黒い丸いシミが点々と続いている。
続いた先を見やるとある部屋の前でシミの形状が変わり、何かを引きずったような跡になっている。
形状が変わるその先には開きっぱなしのふすまがあった。
あの中に何かあるのは、火を見るより明らかだった。
理解した途端、僕は息が止まる感覚を覚え、心臓がバクバクと暴れだすのを感じた。
ここまで来てしまった以上引き返す訳にはいかない、という強迫観念と、今すぐ引き返して見なかったことにしたい、という恐怖心が僕の中で争っていた。
進もうにも逃げ出そうにも僕の脚はぴくりとも動かない。
棒立ちになった僕にレオはイライラしたように脚に爪を建てた。
「…行くなら行くぞ。奴がいつ現れいつ消えるか予想がつかない以上、ボケっと突っ立ってるだけ時間の無駄だ」
それでも僕の脚は動こうとしない。脚だけではない、指先一つ、動ける気がしなかった。
不意に、ブゥゥンとポケットからの振動を感じた。すっかり存在を忘れていた僕の携帯電話だ。
反射でポケットから携帯電話を出し、画面を見ると、日付は未来の時間のまま。電波は圏外となっていた。
画面は新着メール受信画面だった。
圏外なのに、なぜメールが届くのだろうと考える冷静さは今の僕になく、指が覚えた操作で新着メールを開く。
見たこともないメールアドレスからだった。件名は『無題』。
『ヒトハ イチドシカ シヌコトガ デキナイ』と文頭に見たことのある文面。
スクロールしていくと空白の末に『ハヤク オイデヨ ボク ニジ マチクタビレタ』とだけ書かれている。
まさにホラー映画に出てくるようなメールに、さぁっと背筋に冷たいものが走った。
しかし、携帯電話を弄ったおかげか、身体の硬直がいくらか溶けている事に気がついた。
僕は意を決して血痕を踏まないように気を使いつつ、先の部屋へ向かう。
部屋の前に辿り着き、心を落ち着けるために深呼吸。
「早くおいでってば」
そうしていると部屋の中から、からかうような声が聞こえた。
二階の廊下は予想していたよりも長かった。
蜘蛛の巣や茶色い染みに覆われ……そして、あまり視界に入れたくない類の虫が這いまわる中で、どこかから差し込んでくる月明かりはいかにも頼りない。
その不気味な雰囲気にゾクゾクと悪寒が走るのを感じながら、意を決して一歩踏み出そうとした……その瞬間、レオの訝しむような声が聞こえてきた。
「まて、静かに」
「……何かあったのか?」
頭に入り込んできたその言葉に足元を見下ろすと、レオは床のある一点をじっと見つめていた。
「これは……人間の血液だな。しかもまだ固まっていない」
その言葉の意味を理解するのと同時に、レオの苛立ちとも困惑ともつかない声が頭に響いた。
「誰かがいるみたいだな、今、この家に」
闇の中目ばかり光る異様な光景に足がすくむ。
猫に足を取られそうになりながら壁を探る。
あった、スイッチだ。
空き家だから無理かと思ったが、意外にも電気がついた。
ようやく落ち着いてあたりを見渡す。
虹色の猫なら目立ちそうだが、視界の範囲内には見つからない。
僕はレオに尋ねる。
「猫同士、話わかるだろ? 聞いてみてくれないかな?」
レオは仕方ないといった様子で、そばの猫に向かって鳴き声を上げた。
「二階の寝室で見かけたってさ。いくぞ」
いよいよ虹色の猫に会えるのか。
僕は猫を踏まないよう気をつけながら歩き出した。
床がギシギシ軋む。
ドアを開いた瞬間、獣独特の匂いが鼻をついた。
それ当時に、僕は思わず目を疑った。
視界に入るのは猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫、猫。
大勢の猫達が、空き家を我が物顔で専有していたのである。
僕が唖然としている間にも、にゃー、にゃーお、と声を上げながら足の間を数匹の猫がすり抜けていく。
「おいおい、聞いてねぇぞ」
と、大勢の猫達を避けたり、視線を合さぬよう反らしたりしながらレオは呻いた。
「気配のわりに数が多すぎる」
レオは小さな鼻ををムズムズさせた。
「猫は人よりも気配を消すのが上手いとか?」
レオは、わけも分からず、まるで見当はずれなことを言う僕の足をはたいた。
「猫である俺が猫の気配を感じることが出来なくてどうすんだ」
呆れたように言うレオ。
「まぁいい、探すなら進むぞ。…この空き家は、何か妙だ」
レオは先導しろと言わんばかりに、偉そうに僕に指図した。
人気のない道を僕は足早に駆けていく。
人間よりもずっと体の小さいレオに何か文句を言われるかと思ったが、野生の肉食獣を思わせる流れるような身のこなしを見る限り、いらない世話だったようだ。
公園を抜け、こちらの世界に来た時に使った電話ボックスを更に通り過ぎた先に、その空家はあった。
築数十年は経っていそうな老朽具合にも関わらず、その屋根だけは幾度も塗り直されたように鮮やかな色を保っているという不思議な建物だ。
町の名物、とまで言ってしまうと大げさかもしれないが、この近辺で知らない人間はいないだろう。
都市伝説や怪談の舞台にはうってつけに違いない。
「……ここにいるのか、虹色の猫が」
「まあ、猫のたまり場というのは違いないようだな。気配がする」
ピクピクと髭を動かしながら、相変わらずの仏頂面でレオが呟いた。
空家とは言えに勝手に他人の敷地に入っているところを見つかれば、悪くすれば警察沙汰だろう。
無論僕の家にも早急に連絡がいくわけで、そうなってしまえば一巻の終わりである。
僕は数回の深呼吸を挟むと、意を決して玄関のドアノブへと手をかけた。
メールの返事を待ちながら、茜のジュースを買った。
僕のも買おうとして、ちょっと考えて水にした。
コンビニの外でレオが待っている。
僕だけジュースを飲んでいるわけにもいかないだろう。
その時茜のほうから着信音がした。
急いで向き直った僕に、茜はウインクする。
「来たよ」
そして携帯を見る。
「割と近くだな。公園裏の青い屋根の空き家のあたりだって」
「ありがとう!」
その空き家なら僕も知っている。
「あ、おい……」
お礼もそこそこに、僕はコンビニを飛び出した。
「言うか言わないかって言われたら…『言えない』な。ごめん」
僕はチラッと足元のレオを見やった。
当然だ、とでも言うようにレオはフンッと鼻を鳴らした。
「……そうか、一樹がそう言うならそれでいいよ」
茜は結局理由を聞くことが出来ず、一瞬表情を曇らせた。
しかし、『言えなくてもいい』と言った手前、茜は自分を戒めるように己の両頬をパシンと叩く。
そしてふぅっと息を吐き、改めて僕に向かい合った。
「分かった、ちょっと聞いてみる。出来る限りの協力もする。他ならぬ一樹の頼みだ。遠慮は無用だぜ」
約束通りジュースは奢ってもらうけどな、とカラカラと彼女は笑った。
申し訳ないとは思いつつ、それでも快活に笑う彼女の笑顔に僕はホッとした。
「そりゃ構わないけど……」
言い淀むような素振りを見せた後、茜は深い溜息を吐きながら言葉を続けた。
「まあ、何と言うか、あれだ、もやもやしたのは好きじゃない。取り敢えず探す理由だけは聞かせてくれ……いやこの際それも言わなくていい。言えないなら『言えない』と、そうはっきり言ってくれるだけでいいんだ」
中学生にはやや不釣り合いな、静かな物言いだった。
煮え切らない僕を諭すように語る茜の様子に、思わず全然関係の無いことを口にしてしまう。
「お前、何か大人っぽくなったな」
「なっ、いきなり何だよ!」
……大人びた様子から一転、慌てた口調で返す茜に、僕は思わず笑みを浮かべてしまう。
「褒められたら照れるところは昔からだけどな」
「いや、照れるっていうか、別に一樹じゃなきゃそうでもないっていうか……て、んなことどうでもいいだろ! で、言うのか言わないのかどっちだよ!」
「い、いやその……」
僕は少し迷った。
しかしここまでくれば、ごまかしても仕方ない。
「うん……探している。どこにいるかなんて、知らないよね?」
コンビニに着いた。
のんびり飲み物を買う気分ではないな、と思っていると、茜が不意に言った。
「そういえば、あたしの友達が知ってるって言ってたな」
「えっ?!」
「興味なかったし話半分に聞いてたから、さっきまで忘れてたくらいだけど」
「……教えてくれ!」
「そうだな……どこかに、猫のたまり場があるんだって。そこで見かけたっていったけど、場所まではわからない」
女子中学生のたかが噂、だ。信じられるかどうか。
だが、これを逃したら手がかりはないだろう。
「頼む……その友達に聞いてみてくれないか? 飲み物おごるから」
彼女が助かるためなら飲み物はおろかなんでもする。
だがそれを気取られては怪しまれるだろう。
僕はつとめて軽い感じで言った。
へぇ、そんな都市伝説があったのか、と返事をする。
そんな噂は聞いたことはなかったけれど、うわさ話に敏感な女子中学生なら知っててもおかしくない。
幸運と不幸どっちか…。
運勢の振れ幅が大きくなるということなのか?
運命を変える力がある猫だから、そういう事象が起きても不自然では無さそうだ。
僕が虹色の猫を見つけてひげを貰ったとして、彼女を助けることが出来れば幸運、失敗すれば不幸ということになるだろうか。
運命を捻じ曲げようとしてるのだから、ちょっとした幸運又は不幸では済まなさそうではあるが。
先行きに不安を覚えて知らず知らずにしかめ面になった僕を、茜は見逃さなかった。
「もしかして…その猫を探しているとか?」
普段であればぶっきら棒な口調ながら色々と話を振ってくる茜だが、今はいつも以上に目つきを鋭くさせて黙っている。
知らない人間が見れば十中八九怒っているようにしか見えない姿だが、それだけ真剣に思い出そうとしてくれているのだろう。
僕は邪魔にならないよう黙ったまま、最寄りのコンビニに通じる道を歩いていく。
茜が再び口を開いたのは、看板の文字が読める位までコンビニに近づいた時だった。
「……思い出した。この辺りの中学生の間で流行ってる都市伝説だよそれ」
「都市伝説?」
僕が聞き返すと、茜はバツの悪そうな顔を見せる。
「悪い、ここまで引っ張っておきながら別に面白くもない話なんだけど……虹色の猫を見かけると幸運が訪れる、または不幸が訪れる、ってありきたりな噂だ。幸運と不幸どっちかが訪れる、ってそれ結局何にも言ってないのと同じじゃんて友達と盛り上がったんだ」
痛みをこらえて僕は言った。
「いや……なんでもないよ。僕も寝つかれなくて、飲み物でもと思ってさ」
そして、だめもとで聞いてみた。
「ねえ、虹色の猫って聞いたことある?」
「虹色の猫?」
茜がぽかんとした。無理もない。
「なんか聞いたことあるな……」
今度は僕がぽかんとする番だった。
「知ってるの?」
「どっかで聞いたことあるな……とりあえず、歩きながら話そうか。思い出すかもしれない。飲み物、買うんだろ?」
僕はそのまま茜についていくことになった……
僕は今までのことをすべて洗いざらい話したい衝動に駆られた。
春奈先輩が死んでしまったこと、公園で出会った少年と虎猫、猫の姿に変化するふしぎな飴。
話したいことは山のようにあった。今まで誰にも言えなかったのだ。
恐らく信じてもらえはしないだろうが、ありえない体験をした後は、不思議と誰かに言ってみたくなるものだ。
僕が口を開きかけると、右足に鋭い痛みが走った。
見なくても分かる、レオが僕の足に噛み付いたのだ。
視界に入ってきたのは、ショートボブの小柄な少女だった。
夜の暗さもあり一瞬誰か分からなかったが、ほどなくその姿が親しい人のものであることに気が付く。
「……茜? どうしてこんな時間に?」
「それは私のセリフだろうよ……いや、私も人のことは言えないけどさ」
肩を竦めて僕の隣にどすんと座る少女は、親友である透の妹だった。
女子らしからぬやや乱暴な口調と、不機嫌そうな切れ長の瞳は人を寄せ付けない雰囲気を放っているが、いつも透と共にゲームをやったりお菓子を食べたりする気の置けない友人だ。
茜がじっと強い視線をこちらに向けながら言葉を続ける。
「コンビニに飲み物買いに行く途中だったんだけどな、お前の姿が見えたもんでさ。んで、どうしたんだ一樹? 買い物や天体観測って感じじゃなさそうだが? ……何かあったのか?」
まず考えなくてはならないのは、7日前僕は何をしていたか? だろうか。
7日前の僕と鉢合わせする行動は控えなくてはならない。
しかし7日前の行動なんてとっさに思い出せない。
いつもの通り、学校に行って、部活に行って……
それなら、町を歩いていて僕と出会う可能性は低いだろうか。
虹色の猫の髭……
これは、まったく見当がつかない。
そんな猫の話なんて聞いたことないし。
図書館やネットで調べても見つかる気がしない。
だったら、やっぱりレオに聞くしかないじゃないか?
せめてヒントだけでも、と思いレオに向き直ったとき、不意に声をかけられた。
「一樹。おい、一樹じゃないか?」
僕は恐る恐るそちらを振り向いた……
最後の一言で、ようやく、やるべきことは掴めた。唯一性については未だ釈然としないが、今すぐに理解しなれけばいけないというわけでも無さそうだ。
しかし、肝心の方法が検討もつかない。
「例えば…僕は何をすれば?」
「聞けばなんでも教えてもらえると思うな。少しは自分で考えろ」
つっけどんに突き放されてしまった。
「7日前の今日」の世界は一見「本来の今日」と何も変わらない世界だった。
本当に7日前の今日なのだろうか? と若干不安を覚えつつ、ベンチに座った。
「よし、成功したな。行くぞ」
首を巡らせて何かを確認したらしいレオはそう言って、僕の方へと顔を向ける。
僕は生唾を呑み込みながら首肯し、思い切って目の前の引き戸を開け、「7日前の今日」の世界へと歩き出した。
レオの先導に従い、公園の中を突っ切って歩く中で、僕とレオは今後の方針について話し合っていく。
といっても、ほとんどはレオの指示を仰いでいるだけなのだが。
「繰り返しになるが、お前がやらなければならないことは二つ。事故を防ぐことと三色の髭を探すことだ。まずは猫の髭を探すことから始めてもらう。せいぜい頑張るんだな。見つけられなければ事故も防げない」
「え、事故を防ぐことと髭にどういう関係が?」
僕の問い掛けに、レオは面倒臭そうな表情を浮かべる。
「お前が知る必要はない……と言ったところでお前のモチベーションが下がったらこっちも困るしな、まあいい説明してやる。虹色の猫が象徴するのは……何と言えばいいかな、そう『唯一性』だ。過去現在未来を通し、どのような時間軸においてもただ一つだけの状態を保持している存在だ。だからどんな手段を使ってもそいつの体の一部である猫の髭を破壊することは出来ない。強度は普通の猫の髭と同程度だが、引きちぎろうとでもすればあらゆる運命がその行為を妨げようとする。だからその特性を使ってあの女の死という運命を強引に曲げるんだ」
本当に教える気があるのか、抽象的な説明を続けるレオに、僕は何とか理解を追い付かせようと頭を回転させる。
「えーっと……普通に事故を防ぐだけじゃだめなの? 話しかけてその場に引き止めたり」
「その場で事故は起こらないかもしれない。だが女の死という運命は避けられない。それは通り魔だったり心臓発作だったりするかもな……死ぬことは運命として確定されているんだ。だがそのタイミングで猫の髭を守ろうとする運命が働けば、女が死ぬ未来は覆るかもしれない……女が死ぬか猫の髭が破壊されるかの二択になれば、必ず猫の髭が守られる未来が優先される、と言えば分かるか?」