「そーら、もう悪さするなよ」
風呂から上がったサンマーマスクたちは銭湯の入口で捕まえた猫を放した。
ほかほかと湯気の立つアレックスはきゅぽんとビン牛乳の栓を抜き、浩哉に渡す。
「……お、俺に?」
「俺の聞いた話では、日本では風呂上がりに牛乳を飲むのが習わしと聞いたが、違うのか?」
「い、いや、ありがとう……(牛乳を奢られるなんて、気まずいな。でも、断るのも感じ悪いよな、うん……)」
三人は牛乳で乾杯した。ひと仕事を終えたあとの牛乳はまた格別だ。
「……ってこりゃなんだ?」
サンマーマスクは入口で転がる謎の物体(縁結びでくっ付いてしまった男子たち)に目を向けた。
「男同士で重なり合って気持ち悪ぃな。あとなんか臭っせぇぞ」
「た、助けてくれ……!」
もぞもぞと動き、グッタリした様子の孝太郎が言った。
「身体がひっ付いて取れないんでござるよ。どうにかならんでござるか」と義吾。
「と言うか、あのー……なんですかぁ、そのマスク?」と璃人。
「ふっ、よくぞ聞いてくれた、俺の名は謎の覆面レスラー『魚神サンマーマスク』……」
「うるせぇ、お前、”平田”だろ! 10組にプロレスオタクがいるって有名になってんぞ!」
孝太郎の臭いにイライラ爆発中の庚は言った。
「ち、違う! プオタじゃない、レスラーだ!」
「どっちでもいいわ!」
そんな彼らの真横を、ボン太と仲間の猫たちがにゃあにゃあ鳴きながら横切った。
「また猫が……ん?」
ふと、猫の来たほうに振り返り、凍り付いた。逢魔が時の夕闇から、ゾンビに座敷童子、ミイラ男とそうそうたる化け物達が、猛ダッシュでこっちに突っ込んでくるのが見えたのだ。
「うわああああああああ!!!」
「ひええええええええっ!!」
おののく彼らを尻目に、化け物達のご一行はまっすぐ向かってくる。
「待て待て、猫待てー!」
「そっちだ、杜の湯の中に入ってったぞ!」
「よーし、袋のねずみだ!」
「ば、バカやめろ! そっちは女湯だって……うわー、待て待て、それこそ通報されるって!」
ミイラ男が必死に止めるのもどこ吹く風、ゾンビと座敷童子は脇目も振らず、女湯に突撃していった。
「な、なんだ……!?」
「あ、またなんか来たぞ」
すこし遅れて白装束の幽霊が息を切らせてやってきた。きょろきょろと辺りを見回す。
「……猫だらけの銭湯、もしかして皆、この中か。出てこーい、幸せの尻尾ー」
幽霊も女湯へ走った。
「……なんだかわからねぇが、とにかく女子がピンチなのは間違いねぇ! うおおおおおお!!」
「御手洗!?」
潰れていた孝太郎が気合いの雄叫びと共に立ち上がった。四人がくっ付いているにも関わらず凄いパワーだ。
そして四人を背に乗せたまま走り出した。
「す、凄い力……!」
「ど、どうしたんだ?」
「わからない。なんだか知らないけど、身体の底から力が湧いてくるんだ……!」
それは今、この瞬間、覚醒した彼のろっこんの力だった。その名も『蓄積された老廃物に対する老廃物再利用機関』、身体に付着した垢などの老廃物を燃料に怪力を得る能力だ。
「うおおおおおおおおおお!!」
力に目覚めた怪力男と都市伝説を追うゾンビ、そして猫……はたして、杜の湯はどうなってしまうのだろうか!?
そう言えば、女湯に入ったきり出て来ない行忠は!?
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