商店街にあるラーメン屋『猫島軒』。
猫島軒の一人娘、畑中 華菜子(はたなか かなこ)は、店の前にテーブルを置いて餃子を包んでいた。
そしてその前で、ののこは出来立ての餃子をはふはふ食べていた。
「……でね、そのボン太って猫が先生のカバンの中身を持ってっちゃったんだよ」
「アイヤー。またボン太は悪さしてるアルか。困ったもんアルなー」
華菜子は肩をすくめた。
「でも教頭先生もお間抜けさんアルなー。商店街の住人なら猫さんに盗まれるなんてヘマしないアルよ」
「へぇそうなんだー」
「そうアル。どんな時でも油断をしてはいけないネ」
「ふぅ~ん。じゃそれは?」
「?」
ふと足元を見た。魚屋さんに届けてもらったスチロール箱に首を突っ込んで、食材を猫たちが食べていた。
「アイヤー! 何パクついてるアルか!」
しっしっと追い払う。
「あーもう、新鮮な”しらす”を届けてもらったばかりだったのにナー。これじゃあ『しらすラーメン』作れないアルよぉ」
「なにそれ美味しそうー」
「いちおしメニューアル。今度食べるヨロシ」
ため息を吐いて、遠巻きにこっちを見てる猫に目を向けた。
「餌はいつも野良猫さんたち用のお皿に”煮干”を置いてるじゃないアルかー」
「にゃ~~~ん」
「猫さんたちグルメアルねー。やっぱりお魚は新鮮な方がいいもんね……って、盗人ダメアルよ!」
「にゃ~~~ん」
ふと、ののこは猫たちの中に、本をくわえてる猫がいることに気が付いた。
「あー、本持ってる猫がいるー!」
「あれも先生から盗んだものアルかな。ほら、残りのしらす持って行くヨロシ。その代わり、本をよこすネ」
本を取り戻し、表紙をまじまじ見つめる。
「『猿でも治る音痴治療法』……なにアルか、これは?」
「教頭先生の本だよ、たぶん」
「あのイケメンがこんなの読むアルかねぇ? まぁいいネ、返しといてアル」
そこに、陸上部の七音 侑(ななね ゆう)が通りかかった。
「おっ、お店の手伝いに精が出るねー、ラーメン屋さん。手伝いの合間に、猫の餌付け?」
「餌付け、と言うか、勝手に持ってかれてるアル。困ったものネ」
「あー陸上部の人だー。部活の帰りなの?」
「うに、部活の友達がそこのスポーツショップでシューズ見たいって言うから、一緒に来たんだ」
シューズを見ていた十 刈穂(つなし かりほ)は、ののこに気付くと店から出た。
店の前でコロッケをほおばっていた志波 拓郎(しば たくろう)もこちらに気付いて手を挙げた。
「……で、ええと野々さんは、部活……はしてないんだよね。こんなとこで何してるの?」
「うーんとね、それがさぁ……」
ののこは事情を説明した。
「へぇ教頭先生が……けどそれって、教頭先生の貴重品を取り返したら絶対褒められるよねー、うふふ♪」
「まさか猫探しを手伝う……気か?」
「もしかしたら、陸上部の待遇がよくなるかもよ、志波くん」
「そう上手くいくかなー。あの先生、そういう依怙贔屓はしなさそうな気がするよー?」
刈穂は言った。
「うーん、でも、きっと先生のおぼえはよくなると思うよ♪」
噂をすればなんとやら、黒崎先生が疲れた顔でそこにやってきた。
「すこし見ない間にすごく疲れてますね、先生ー」
「ああ、野々さん……。大きな猫を大人しくさせるのに手間取ってしまってね……」
「大きな……ねこ?」
「ところで先生、猫に持っていかれたものはどのぐらい取り戻せたんですかー?」
侑は尋ねた。
「ああ、ええと、財布、時計、携帯電話は戻ってきただろ……」
「これも!」
ののこは音痴矯正本を見せた。
「あ、ああ、うん……。それも」
先生は気まずい様子で本を受け取った。
「それから……家の鍵はまだ戻ってきてない。答案は大分戻ってきたけど、まだ数枚戻ってきてないかな」
「あのー、私の答案はあった?」
「野々さんのは見つかってないけど……」
「ううう」
「あ、あれ!」
刈穂はふと、ぼてぼて通りを歩くボン太に気付き、指差した。
その口には一枚の答案が。点数のところをくわえてるので点は見えないが、名前欄には”野々ののこ”とある。
「あー! それ私の!」
「ぶにゃ?」
ののこはボン太を追いかけて走り出した。陸上部も顔を見合わせ頷くと、彼女を追いかけた。
「うにっ! 陸上部お手柄大作戦開始ー!」
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