それは桜の咲く季節の、とある放課後のこと。
海の向こうに沈みかけた太陽のおだやかな光で、旧市街にある寝子島駅は夕陽の色に染まっていた。
駅前には下校中の生徒がたくさん。楽しそうに話す笑い声、ふざけあう姿、いつもどおりこの時間は賑やかだ。
その中に、寝子島高校の教頭・ 黒崎 俊介 先生の姿があった。背が高くてハンサム、そして仕事も出来る黒崎先生は、早々と仕事を片付けて駅前をさっそうと歩いてる。
「ーーうん?」
ふと目の前に、一匹の大きな猫がいるのに気が付いた。なんだかふてぶてしい顔をした太った大きな猫だ。
「君も家に帰るところかい?」
黒崎先生が笑いかけた途端、その猫は見た目に似合わない素早さで、先生の鞄をひったくった。
けれども先生は余裕の表情を浮かべたままだ。
「……イタズラ好きな子だな。さ、いい子だからその鞄を返しなさい」
驚かさないよう手を伸ばすと、デブ猫は先生の手をネコパンチでビシバシ叩いた。
「うわあああっ!」
流石の先生も驚いて、飛び退く。
「ぶにゃ〜〜ご」
デブ猫のひと鳴きに呼び寄せられて、たくさんの猫が集まってきた。猫たちは鞄に頭を突っ込んでもぞもぞ探る。お財布やら、本やら、携帯電話やら、家の鍵やら、鞄に入っていたものをそれぞれくわえると一目散に走り出した。
「ま、待つんだ!」
慌てて追いかける黒崎先生、けれどもすってん転んで、あいたた……気が付けば逃げられてしまっていた。
この先生、顔はとってもハンサムなのに運動はてんでダメなのだ。
「あれー、何してるの、教頭先生?」
途方に暮れる先生の前に、駅から出てきた新入生の 野々 ののこ が声をかけた。
「の、野々さん………」
先生は実は……とののこに事情を話した。
「……噂には聞いていたけど、お目にかかったことがなかったから油断していたよ。たぶんあの猫が"ボン太"だな」
「ボン太?」
「商店街のボス猫さ。食べ物やキラキラしたものは特にだが、なんでも持っていってしまうイタズラ好きな猫だそうだ」
「へぇ、そうなんだぁ~」
「さて、日が暮れないうちに探さないと。確かボン太たちの縄張りは商店街のほうだったな。生徒たちの話では、杜の湯にも時々出没するとか……」
「もりのゆ?」
「ああ、この先にある銭湯だよ。ボン太たちは意外と綺麗好きなようだね」
追いかける先生だが、走り出すとすぐにまた足がもつれ、すってん転んで倒れた。
この先生の運動音痴ぶりじゃ、捕まえるのは大変そうだ。
「……しょうがないなぁ。私も手伝うよ、先生。私、猫とはすぐ仲良くなれるんだから」
「そ、そうかい。助かるよ」
任せとけと胸をはるののこ、とその足元に、一枚の紙きれが飛ばされてきた。
不思議に思って拾い上げると、みるみるののこの顔が青ざめた。それは入学してすぐ新入生に向けて行われた学力テストの"答案用紙"だった。
どうやらさっき猫たちが漁った先生の鞄から出てきたもののようだ。
「答案の一部、その……あまり成績が芳しくなかった生徒の答案を預かっていたんだ。それぞれの担任の先生に指導するために整理しようと思ってたんだけど……ああ、やっぱり何枚か持っていかれてしまってるな」
「こ、困るよぉ! 人様に見せられる点数じゃないもん!」
「いや、野々さん。まだ整理してないから、君の答案があるとは限らないよ」
「ぜったいあるよぉ!」
「……そ、そんなに自信がないのかい?」
「どうしよう……!」
きまぐれな猫のこと、答案をぽいと商店街のド真ん中で捨ててしまうとも限らないだろう。
ののこは下校中の生徒たちに大きな声で呼びかけた。
「みんな、猫捕まえるの手伝って!」
■担当ゲームマスター
■ゲームマスターコメント
初めまして、今回プレシナリオを担当させて頂きますゲームマスターの梅村象山です。
プレイヤーの皆さんと一緒に楽しいシナリオを作れればいいなと思います。よろしくお願いします。
シナリオの舞台になるのは、寝子島駅から参道商店街、それから杜の湯になります。
黒崎先生の持ち物をくわえていってしまった猫たちは大体この辺りを根城にしているようです。
猫たちの中には、杜の湯の中にまで入り込んでるやつらもいるようですが、
もちろん、男湯に入れるのは男キャラだけ、女湯に入れるのは女キャラだけです。
銭湯のルールでは、ですけども。
今回、アクションの書き方の例を載せておきますので、
アクションの書き方がよくわからないと言う人は参考にしてみてください。
■アクションの例
【例1】
・プレイヤーの目的・意図
みんなと楽しくシナリオを盛り上げたい。
・キャラクターの目的・理由
猫に持ってかれた俺の答案用紙を回収しなくちゃ!
・キャラクターの行動・手段
げげっ、答案用紙持ってかれたってマジかよ。
あのテストはほんと自信ないんだよ。
返ってきたら母ちゃんに見せる前に焼却炉に持ってこうと思ってたもん。
母ちゃんに見られたら何言われるか……あ、この時間、母ちゃん商店街で買い物してるじゃん! やべーよ!
母ちゃんに見つかる前になんとかしないと!
そうだな、ボン太たちは食べ物とか光り物に弱いって話だから、それで釣るのはアリかもな。
やっぱ猫の大好物と言ったら魚かな。刺身は俺のこづかいじゃ厳しいから缶詰で勘弁。
商店街の屋根の上にのぼって、釣り竿にツナ缶ひっかけて、猫釣りと洒落込むぜ。
さぁーて、運良く俺の答案(……を持った猫)が釣れるといいんだけどなー。
【例2】
・プレイヤーの目的・意図
とにかくシナリオで目立ちたい!
・キャラクターの目的・理由
困っている人に手を貸すのは当然だし、女湯に入りたいのも当然だ!
・キャラクターの行動・手段
女湯に逃げた猫も捕まえないとな。これは誰かがしなければいけないと思うんだ。
本当はこんなことしたくないんだけど、しょうがないよな、うん。しょうがない。
きっと皆もやりたがらないだろうし、この俺が進んで調べに行くよ。本当はしたくないんだけどね。
え、顔がにやけてるって? き、気のせいだよ、きっと。
ここは俺のろっこん『永遠の王国』の出番だな。
明らかに腐ってるものを食べた時、5分間だけゴキブリに姿を変えられるこの能力。
これを使って女湯に忍び込んで猫を捕まえるぞー。
猫の狭い額にフライングボディアタックだー!
……って、ゴキブリじゃ猫に勝てないよ! た、助けてー!!
■スケジュール
▼参加申込み・アクション投稿の受付期間
▼リアクション初回公開予定日
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