「成り行きだが……、ま、放って、は、置けない……な」
前を走るののこを追い抜き、拓郎はボン太に迫った。
いつの間にかボン太の周りには手下の猫たちが集まって、一緒に屋根の上を走ってる。
八百屋を通り過ぎ、薬屋を通り過ぎ、魚屋に差し掛かった。魚屋の前で待ち伏せをしてる悠生の前を、ボン太たち一味と拓郎が通り過ぎた。
「…………」
もう一回言っておくけど、通り過ぎてしまった。
悠生は前を何かが通ったことにも気付かず、猫の絵を描く事に夢中になっていた。
「あ……」
彼は不意に顔を上げた。
「集中……してた……。猫来たら……逃がさないように……気を付けないと……」
のんびりな悠生はさておき、拓郎は携帯で二人の女子に連絡をしながら、ボン太たちをある方向に追い込んでいた。
「この先……、右、に追い込む。その、先に回り込んでくれ」
さっき食べていたコロッケを、右のお店の屋根に放り投げる。ボン太たちは食べ物に釣られ、屋根に上がった。
拓郎も彼らに続き、店の前にあった看板やテーブルを踏み台にして、勢いよく屋根に上がった。
「む……!」
先行するボン太が跳躍して、隣りの屋根に飛び移るのが見えた。
「結構、距離があるな……でも……跳べる!」
頬を両手で叩き、助走を付けてジャンプした。
彼のろっこん『ハイヤードジャンパー』の効果により、飛躍的にジャンプの飛距離が伸びる。普通の人間なら届かない距離でも、拓郎はなんなく飛び越え、隣りの屋根に移った。
「そっちに行った……!」
「おっけー! こっちはもう配置に着いてるよ。任せといて!」
その先で、侑とともに待ち伏せていた刈穂は、ぎゅっと鉢巻きを巻いた。鉢巻きには”猫一直線”の文字。
「ねこいっちょくせん?」
「違うよ、七音さん。ねこまっしぐらだよ」
「ま、まっしぐら……? ええと、どーいう意味があるの?」
「細かいことは気にしちゃダメだよ♪」
刈穂のろっこん『重力コントロール』は鉢巻きを巻く事で発動する。
「さぁ、いっくよー!」
壁に向かって走り出した彼女は、ぶつかる寸前で壁の側面に重力方向を変化させ、側面を地面のように走る。そこから屋根に移動し、ボン太たちの行く手を遮った。
有り得ない方向から出てきた彼女に急旋回、今来た道を戻ろうとした猫は、拓郎と鉢合わせた。
「にゃ~~!?」
「おっと……!」
制服の上着で逃げる猫を捕獲。
そして旋回出来ずに突っ込んできた猫は、刈穂の脱いだベストで同様に捕まえた。
「あ、そっちに逃げたよ、七音さん!」
手下が捕まってる隙に、ボン太を含めほかの猫は足元をすり抜ける。今度は屋根から電柱に飛び移った。
「ぶ、ぶにゃ~~」
ボン太も息を切らせていた。けど、屋根にいる侑を見下ろし、ぶにゃにゃにゃ、と勝ち誇ったように鳴いた。
「ははぁん、電柱ね。そんなところに逃げて勝ったと思ってるのかなー?」
侑はとんとんとつま先で地面を二回叩いた。それが彼女の目覚めたろっこん『エアホッパー』の発動条件。
助走を付けてジャンプ……からの、空中でもう一度ジャンプ。二段ジャンプ。
「つーかまーえっる!」
「!?」
左右の手で、電柱にのぼった猫の首根っこを掴むと、隣りの屋根に着地を決めた。
けれども、ボン太は捕まえられなかった。彼女が迫った瞬間、彼は半ば落ちるように電柱を駆け下りていた。
「……ちぇ、惜しかったなー。ボン太は逃がしたかー。十さん、ボン太は頼んだよー」
「了解ー!」
刈穂は屋根から素早く降りて、ボン太の行く手にまたも回り込む。
「……あ、しまった!」
ベストは捕獲に使ってしまった。
「何か網代わりになるものは……あ、ゴミ置き場のカラス避けネット……!」
しかし近くにゴミ置き場がない。
「ど、どうしたら……」
その時、彼女の目に地面に敷かれた布団が飛び込んできた。
「な、なんでこんなところに布団が?」
それは寝太郎の変身した布団だった。答案を持った猫がすやすやと寝てる。
「使える……!」
眠り猫をころころ転がして、布団を手に入れると、闘牛士のようにひるがえした。
(うわ、何するんだ!?)
そして、飛び込んでくるボン太を包む。
「ぶにゃ~~~ご!」
ぼふぼふと布団の中で暴れるボン太。だが、しばらくすると大人しくなった。よほど布団が心地いいのだろう、すやすや寝息を立て始めた。
刈穂は布団をそっと地面に置き、ののこの答案を拾って確認する。
「……うん。この点数は、見なかったことにしてあげよう……」
屋根の上でも追いかけっこは終わり、侑と拓郎は降りてきた。
「ねぇねぇ見て。先生の家の鍵取り返したよー。これってお手柄だよねー♪」
「残りの答案、も……回収したぞ」
「お疲れさま。お手柄大作戦は成功だねー」
通りを見ると、遠くからののこが走ってくるのが見えた。
「こらぁーー! 陸上部~! 置いてかないでよぉ! 足早過ぎるよぉ~~!!」
ジタバタ腕を振り回す彼女に、陸上部のみんなはくすくす笑って、手を振った。
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