柔らかな陽射しが差し込む穏やかな昼。
清んだ空気が周辺を満たしており
野生動物が時折、喉を潤しにやってくる。
ある少女は静かに語る。
「この泉には妖精達がすんでいるの。
貴方に姿が見えないだけで
ちゃんとここに存在しているのよ。」
*昼の雑談トピックです。
*独り言や探索にもどうぞ
でしょうね。
貴女が興味を抱いているのは今の私で
過去の私なんてどうだっていいのだろうし。
聞いてる貴女もつまらない上に、話す私もつまらない。
なら、別のつまる話をする方がずっといい。
…何をしたいかと聞かれると、少し困るけど…。
……願わくば、幸せになりたいわ。
私の大切なと一緒に、極平凡で、穏やかな日々を過ごしたい。
最後の時までずっと、一緒に生きていきたいわ。
そうねえ、あんたの生育環境なんて、長々と聞かされても困っちゃうわ。
正直、特に興味もないし、聞いて面白い話でもなさそうだし。
うん、人間はキレイなものが好きよね。中身が肉ダルマでガイコツでも。
知力、体力、魅力、資力、そこに差があるかぎり、優劣を巡っての争いは生まれるわ。
まー、あたしも、知力の世界ではそこそこのランキングをもらって、大学の飛び級卒業なんてやったんだけどさ。
でもそれは薬屋としてやっていくための手段であって、目的だったわけじゃない。
あんたはどう? キレイになるのが生き残る手段だとしたら、生き残って何をしたい?
まあ、私の生育環境を貴女に詳しく語る気はないけど
極一般的なフツウとは掛け離れたものでしょうね。
けれど、さっき言ったこと自体は
私が人間不信者だということを除いても
普段意識していないと言うだけで
この島の内側にも外側にも溢れている事だと思っているわ。
それが今のフツウの世界よ。
武器や超能力が無くても戦う世界。
美醜の定義は、そうね。
誰かにとっての宝物も、別の誰かにとっては価値の無いガラクタ。
それがフツウで当たり前だし。
「自分が好きになれるかどうか、好きでいられるかどうか」
というのは大事よね。
何を好きでいるか、嫌いでいるかは自分の意思で決めて
自分で責任を負うべきものだし。
ずいぶんと特殊な環境を体験してきたみたいねえ。
いや、それがあんたのフツウだったのか。
あたしはそういう環境で生きてこなかったから、あんたの体験はイメージでしか捉えられない。
そもそも、「美しい」「醜い」の定義なんてあいまいなモンだ。美のイデアなんて抽象論を持ち出してもしょうがないし。
だからあたしは別の尺度を使っている。
「理由が何であれ、自分が対象を好きになれるかどうか」
何かのきっかけで、好きだったものが好きじゃなくなるかもしれないけどさ、そのときにも、不確かな自分が基準だっていう自覚は忘れない。
少なくとも、私自身にとっては大事なことね。
貴女が言うように、汚いものを人は嫌う。
「汚い」という事と「醜い」ということは
別であると私は思うけど
醜いものも同じ様に忌み嫌われる事が多い。
皆が皆貴女の様な感性の持ち主であれば別だけど
残念ながらこの世はそんな風には出来ていない。
醜いものには価値がない。
自分をいい気分にさせてくれる綺麗なもの以外は
見たくもないし聞きたくもない。
自分の気にいらないものに関しては
ありとあらゆる暴力を振るい、排斥しても構わない。
何故ならそれを嫌う自分は絶対的な正義で
自分に嫌われた対象は絶対的な悪だから。
けれど自分もそれと同じ様に
醜い要素を持っているということは認めたくない。
そういった考えの人間が多数をしめている世界で生きていく以上
私自身と私の周囲にいる人たちを危険から遠ざける為に
せめて外見だけでもできる限り綺麗に取り繕っておく必要がある。
それが私の考えよ。
汚いものが嫌いなのは、自然で正常なことよ。
衛生面で問題のあるものにむやみに接近したら、病気の原因になる。
だから汚いものは避けるように、脳に刻み込まれてるんだろうね。
反対に、自分を醜くしたくないっていうのは、すごく人間的な感情ね。
まあ、それも別に悪いことじゃない。
自分の美貌を保つために若い娘をさらって血を搾り取ったとか、そこまで行かなくても、他人に迷惑かける内容じゃなければ、自分磨き、大いに結構なことじゃないの。
人間みんな、皮一枚剥がせば肉達磨で、肉を削ぎ落とせばガイコツで、毎日何度も汚いものを排泄しないと生きていけないけど、それでもキレイって大事?
どっちも。
汚いものに関しては多少感覚が麻痺している部分はあるにしても
好きとはとても言い難いわね…。
汚いものをどうにかしたり
私の守りたいものを守る為なら
汚れることになっても構わないって思っている部分はあるけれど。
文明?あー…。
もしかしなくても、向こうには洗濯機だとか電子レンジだとか
そういったものが普及してなさそうよね…。
汚いものが嫌い? 自分が醜くなるのが嫌い? どっちも?
好きってワケじゃないけど、商売柄、汚いものにはけっこう耐性あるわよ。
汚いものを観察しないと症例も集められない。
化粧品なんかも扱ってるから、外見をキレイに見せたり良い状態を保ったりする方法も知ってはいる。
ただ、あんまり興味のある分野でもないわね。
衣食足りて礼節を知る、じゃないけど、装飾よりは生活や健康に直結してる方が楽しいわ。
あたしはこっちの方が暮らしやすいわね。科学文明を享受してるし、特にそれへの不満もない。
そうねー…。
それは嫌だわ。とっても嫌。
想像するだけで耐えられない。
そんな見苦しい姿晒したくない…。
(光景を想像したのか不快そうに眉を潜め)
確かに、庵さんは前線に立って戦うってタイプじゃないか…。
向こうの世界と此方の世界だと
どちらが生活しやすいのかしらね。
巻き込まれたらキレイな顔が大変なことになっちゃうよ?
最低限、目が腫れて涙と鼻水が止まらなくなるのは間違いない。
あたし自身がモンスターと戦う気はないわね。
健康と体力はそこそこ自信あるけど、運動能力は特に高いわけじゃないし、剣術とかの戦闘技能なんてあるワケがない。
もしモンスターに襲われたら、それこそ催涙スプレーでも使って逃げるしかないわ。
どっちかって言うと、自分で戦うより、護衛とか素材集めの依頼を出す立場かな。
でも、モンスターの素材で薬を作れるほど、向こうの生態系に通じてるわけでもないしね。
やるなって言われると逆にやりたくなる、っていうのは冗談として
そんな状況には巻き込まれたくないわねー…。
巻き込まれる時は巻き込まれるのだろうけど
せめて自分がそういう状況を作らないようにはしないと。
毒か…。
…庵さんは庵さん自身がモンスターと戦うってことは考えていたりする?
ほら、フィクションの世界なんかだと
毒や薬を武器に戦う薬剤師だとか
偶にでてきたりするじゃない。
パーティー戦闘で使うな。護身用で売ってるんだから。
モンスターがうろつくような塔の中で対人間用じゃ心細いかな、っていう話だから。
客が実際にどう使うかは、こっちには管理できないけどね。
本来の用途以外に使用する場合は自己責任で頼むよ。
ああ、関係ないけど催涙スプレーの缶を火の中に放り込むと、缶が破裂して破片と刺激成分が爆散して周囲がちょっとした地獄絵図になる。
これはあくまで理論上の話であって良い子も悪い子も絶対に真似しちゃいけないのが薬屋のお姉さんとの約束だ。
戦闘用なら、そうねえ。武器に塗る用のマヒ効果とか追加ダメージ効果とかがある毒なんかも作れるんだけど。
流石にドラゴン相手に催涙スプレーだけはね。
ドラゴンを倒す、か…。
催涙スプレーに加え
ヴォーパルの剣でも持っていれば或いは、ってところ?
うーん…。
便利そうではあるけれど、仲間に誤射した時が大変なんじゃない?
詳しい事は企業秘密だけど、刺激成分を絶妙のバランスで配合してあるよ。
ただ、ドラゴン相手だと、効くかどうかはちょっとわからない。ドラゴンって大きいし、体も頑丈そうだし。
人間相手を想定して作った物だから、野盗とか害獣とか小型モンスターなら効くんじゃないかな、ってところだ。
ドラゴン相手に催涙スプレーで立ち向かおうってのは、さすがに無謀だと思うね。
んー、星幽塔専用のゴツい催涙スプレー作ろうかな。塔の外じゃ危険すぎて流通できないレベルのやつ。
安全性を度外視して作るなら、そんなに難しくないんだよ。
催涙スプレーには唐辛子の成分が含まれているって聞いたけど
ドラゴンでもやっぱり唐辛子が目に入ると痛むのかしら。
そうね。お話の中ならともかく、普通に存在するものじゃないわ。
惚れ薬チョコなんてはどこの世界に行ってもある程度の需要があると思うんだけど、あたしの作ってる薬は人間用だからね。エルフやドラゴンにも同じ効果があるかは正直わからないわ。相手の体の造りが、どうなってるかわかんないんだから。
催涙スプレーが意外と売れ線かもね。手軽な防犯グッズ。ああいう単純なものなら、体の造りが多少違っても効くと思う。
んー…。
…いや、こっちの世界でもある事はあるんだけど…。
まあ、普通ではないわねー…。
(こちらの世界にある魔法ではない物理限界を超えた治癒術。
俗に云うろっこんであるわけだが
神魂等を知らぬ一般的な「ひと」にそれを話しても
単なる与太話として聞こえることだろう。)
特殊なものというとさっき話していた
惚れ薬入りチョコレートだとか、そういう類のもの?
薬の機能そのものが違う気がするんだよ。
例えばゲームに出てくる回復薬みたいなのも、星幽塔にならありそうだけど、こっちの世界には、あんな都合のいいもの無い。
飲んだ瞬間に体力が回復してケガが治るとか物理的に不可能だから。
それを超えちゃうのが星幽塔の中でのフツウなんだよねえ。
うちの店の薬のラインナップは特殊なのが多いから、そのへんで当たればいいかなって感じだね。
魔法がある世界でも薬は必要なんじゃない?
ほら、いつでも治癒系統の魔法が使える人が
傍にいるとは限らないのだし。
RPGゲームでだってヒーラー職がPTにいても
多少は回復薬持ち歩くじゃない。
それと同じで。
あら、そうみえる?
まぁ、私は気まぐれ気分屋の飽き性だから。
あまり気にしないで頂戴な。
星幽塔? 行ったよ。
薬局の支店も出してきたけど、向こうだと回復魔法とかあるから、どうなんだろうね。
向こうで面白そうな素材があれば拾って来たいけど、それがこっち、塔の外でも同じように作用するかは分からないし。
それにしてもあんた、話題を変えるの好きね。