酷く荒れ果てた礼拝堂。
争いの跡が色濃く残されており
床には割れたステンドグラスの破片が散乱している。
教壇の下には隠し扉があり
そこから地下室へと降りられる様だ。
中央にぽつりと佇む薄汚れた天使像は
どこか泣いている様にも見える…。
そっか…。
私は聞いてもらっちゃったけど、冴来ちゃんはあんまり聞かれたくない?
仲はまあ…良いと思う。
だけど最近はお互いにちょっとぎこちなくなってしまってて…。
私が悪いんだけどね…。
あ、私は母様とおしては繋がってるのか…。
へぇー。
なんだか一緒ね。冴来ちゃんのところは仲良いの?
あ…。…うん。
妹がいるわ。
血は繋がっていないけれどね。
どんな、かぁ…。
んー、そうだ。冴来ちゃん兄弟はいるの?
…うん。よかった…。
私の話…。
どんな話が聞きたい?
そうね。
ちょっと考えてることもあるから、その整理がついたら連絡をとってみようかな。
うん、そうしよう。
(穏やかな笑顔で頷き)
よかったら、冴来ちゃんの話も聞かせて?
いいえ。此方こそ。
聞かせてくれてありがとう。
貴女の心が知れて嬉しい。
…寧々子さん。
昔の様にはもう戻れないなんて、そんな事は絶対ないと思う。
だけれど、今のままではきっと、気にしなくていいと何度言っても
八千穂さんは受け入れてはくれないわ。
だって、それだけじゃ不安は拭えないもの。
のんびりお茶会でもしながら
八千穂さんと正面から向き合ってあげて。
耳と心をよく澄ませて、八千穂さんの言葉を。
心を聴いて、受け入れてあげて。
そして、寧々子さんの素直な心を八千穂さんに伝えてあげて。
私、先ずするべき事は、それだと思うの。
というより、そうしてあげて欲しいの…。
やっぱりそうなのかな…。
私もなんとなく、そうなんじゃないかなって思ってるの。
八千穂に気にしなくていいって言う方が無理なのかな…
結局、私が怒ってるのは八千穂じゃなくて、 どうしたらいいかわからない自分になのかもね…
(ふぅ、と息をついて笑顔を作り直す)
聞いてもらえてスッキリしちゃった。
ありがと、冴来ちゃん。
寧々子さんの気持ちわかるわ。
やりきれないわよね。
昔みたいに仲良くしたいのに、どうしてって。
でも私、八千穂さんの気持ちもなんとなくわかる気がするの。
これは私の勝手な想像。
だから事実とは違うかもしれないけれど。
八千穂さんもきっと、寧々子さんと昔のように
仲のいい姉妹に戻りたいのよ。
だけど、そうしない。そう出来ない。
だって、そうすれば寧々子さんまでお婆様に悪く思われるかもしれない。
大切な姉である寧々子さんに、これ以上の迷惑はかけられない。
使用人としていさせて貰えるだけ幸福だ。
自分は本来、いるべきでない存在なのだから
それ以上を望むべきじゃない。
そう考えているのかも。
…私が八千穂さんの立場だったら、きっとそんな気持ちになるわ。
そう! そうでしょ!?
(冴来ちゃんに、ずいっと近寄り)
血とか、どうでもいいじゃない。お互い姉妹として育ってきたんだから!
…もうあの頃に戻れないんだよね…。
私が八千穂とケンカしたワケなんだけど…
八千穂ってすっごく真面目なのよね。私が今までどおりでいいって言ってるのに、”お嬢様”呼びなんてするもんだから怒れちゃって!
何を意固地になってるのか、本当にわっかんない!
(明らかに興奮し始めている)
…血の繋がりって、そんなに大切なものなのかしら。
私にはよくわからないわ…。
おばあさまが怖い方でね、血筋でない人間を孫とは認めないって言って、母様と八千穂を追い出す話になったの。
父様もショックを受けてたけど、その話には反対したわ。
まだ八千穂が学生だったこともあって、自立できる年齢まで使用人としての仕事もさせる、ということで無理矢理おばあさまを納得させたの。
そんな事情が…。
八千穂さんが使用人なのは…。
自分とは血の繋がりがないからと…お父様が、そういう理由で?
ありがとう。
さっき言った八千穂は使用人である前に”妹”なの。…意味が分からないでしょ?
私たち姉妹は周りに比べても仲が良かったと思う。でも以前から疑問に思っていた父様は八千穂を連れて出掛け、帰ってくるなり八千穂は娘ではないって。
八千穂は母様の浮気相手との子供だったの。
ええ。どんな話でも聞くわ。
貴女が、私にそれを望むなら。
有体に言えばそうよね。
私も悪いかもしれないけど、あの子の態度も・・・
(思い出しながらぶつぶつと言い出す)
・・・ねぇ、冴来ちゃん。ちょっとだけ、たいして面白くない話を聞いてもらっても良いかな
…妹、か…。
その…喧嘩でもしたの?