酷く荒れ果てた礼拝堂。
争いの跡が色濃く残されており
床には割れたステンドグラスの破片が散乱している。
教壇の下には隠し扉があり
そこから地下室へと降りられる様だ。
中央にぽつりと佇む薄汚れた天使像は
どこか泣いている様にも見える…。
(苦笑を浮かべつつ)
嫌いってわけではないんだけど、ちょっと”妹”とこじれちゃってね。
…寧々子さんは家出するほど
元の場所が、嫌いなの?
今はシーサイドタウンのビジネスホテルに泊まってるわよ。
きっとまだ寝子島にいることまでは知らないと思うけど。
なるほど…。
隠れんぼも中々、大変よね。
今は何処に住んでいるの?
八千穂は…使用人よ。
私、実のところ家出みたいなものなのよ。あの子は優秀だから今までの棲家は半年満たないうちにみつけられちゃったし、2回くらい連れ戻されそうになったことがあるわ。
八千穂…。それってだあれ?
寧々子さんのお友達?
この島には観光。しばらくは滞在するつもり、八千穂に見つかるまではね。
ええ。
使い方を誤って、取り返しが付かなくなってからじゃ遅いし。
私は大丈夫。気にしないで。
まだ時間が許すなら、寧々子さんのお話をもっと聞きたいわ。
寧々子さんは何をしにこの島へ?
どうあれ、力っていうのは使い方を間違えないように、お互い気をつけなきゃね。
あ。
私ばっかりゴメン。冴来ちゃんは時間大丈夫だった?
…うん。
こんな力で得た好意なんて、所詮は紛い物だもの。
それは、私の欲しいものじゃない。
どうなのかしらね…。わからないわ。
ただ、この力がどんなものであれ
積極的に行使する気分にはなれないわ。
良い風に使うこともできるって
言ってくれる親友もいるけれど…。
なんだかね…。
その力は、その気持ちを後押しするものかも。
そう、安心した。人の気持ちを操作して好きになってもらっても仕方ないものね。
そもそも”洗脳”と貴女はいうけど、そういうのとはちょっと違ったりして?
一緒に遊んだにしろ、味方になったにしろ、少なからず冴来ちゃんのことを好意的にみている人だから
そうしてくれたと考えるんじゃ駄目?
いいえ。
私、好きな人はいるけど恋人はいないわ。
それに…あの人にろっこんを使ったことは、一度もない。
ふぅん。愛してっていうのは”彼氏”さんに?
(少し悪戯っぽく笑いながら)
一緒に遊んでとか、味方になってとか…。
知っていること教えてとか、話しかけないでとか…。
…愛してって、お願いしたこともあったかな…。
洗脳、ね。
(ちょっと何かを考えるように下唇の下に親指を添える)
ちなみに今までどんなお願いに使ったの?
私の力は…。
私が人にお願いごとをしたとき
相手にその願いを叶えたいと思わせることが出来る。
そういう力。
一言で言うと…洗脳、かしらね。
…そっか。まぁ、姿形が変わったところで実際の時間が戻るわけでもないんだけど、ほんとよく分からない、まさにそれよね。
冴来ちゃんのはどんなの?
そういった噂があるというだけだから
それが真実かどうかはわからないけれど
寧々子さんの心にある「過去に戻りたい」という願いが
若返りの力として表れたのかもしれないわ。
…神様って、親切なのか不親切なのか、よくわからないわね。
自分の願い、か…
これは思い出の品というか、戒めというか…
つまり、私のろっこんは「昔に戻る」ってことかしら。