酷く荒れ果てた礼拝堂。
争いの跡が色濃く残されており
床には割れたステンドグラスの破片が散乱している。
教壇の下には隠し扉があり
そこから地下室へと降りられる様だ。
中央にぽつりと佇む薄汚れた天使像は
どこか泣いている様にも見える…。
(冴来さんの言葉を聞いてから、もう一度天使像を見上げ)
『どうなのでしょう。ただ少なくとも、ここで祈った人の為に涙しているようには見える気もします』
『私には悲しいようにもとれましたけれど…』
『救われたのか、後悔してるのか…この天使像はどっちも示しているように感じてしまいそうです』
『全員がなかなかそう行動には移せないですからね…』
『分かっていても神様などに縋りたくなってしまいますよ』(苦笑)
(目を開け、天使像を見上げ)
どうして泣いているのかは分からないけど
泣いている様に見えるよね…。
悲しいからか、嬉しいからか…。
…貴女には、どっちに見える?
最近は祈る事が趣味みたいになっているからね…。
祈ってばかりでは駄目なことは分かっているんだけど…。
(苦笑して
(ひとしきり時間が経った後に静かに祈りを終えると、天使像の方に顔を見上げる)
【この天使像…遠くで見た時は気づかなかったですが…。
こうして近くで見ると、心なしか泣いているようですね…
祈りを込めた人の想いを、酌んでいるのでしょうか】
(ふと後ろを振り向くと、同じように祈っている冴来さんを見る)
『先輩も一緒に祈っていたんですね』
………。
(小淋さんの祈る様子を見て
共に祈る様に静かに目を閉じる)
『それは案外、お互い様かもですね』
『私もその子には色々と拠り所にさせてはもらった事もありましたからね』
(ウサギの方は目を瞑ってむふーとした様子)
……………
(静かに目を閉じると、両手を合わせてそっと祈る)
黒ウサギの方は嫌がる様子も見せず、素直に頬を寄せられる)
そう…。その子…捨て子だったんだ…。
いいご主人様に拾われて、その子は幸せだね。
(微笑んで
この子は天使だから、きっと貴女の背を押してくれる筈。
抱かせてくれるの?
…貴女のご主人様がお祈りする間
少しだけ私の腕の中にいてね。
(差し出された黒兎を受け取り、頬を寄せる
(抱きかかえた黒ウサギに視線をおろし)
『もうすぐ家に迎えて一年くらいにはなるでしょうか』
『当時捨てられてたこの子を迎えたのが中学の時でしたから』
『今となっては私の数少ない家族の一人ですよ』(もふもふ)
『後押ししてくれるだけの力は、貸してくれるのですね』
『では私も少しだけ…出来ればこの子を少しだけ抱いていてくれますか?』
『大人しい子なので、暴れたりはしませんから』
(お祈りに向かうために、抱えている黒ウサギを冴来さんに差出し)
貴女は大丈夫な気がするけど、一応、ね。
気をつけなきゃいけないのは寧ろ、私の方かな…。
貴女とその子、仲がいいんだね。
結構長い間飼っているの?
近づけるかどうかは、分からないけど…。
少なくとも、遠ざかることはないと思うよ。
前に進む為の力は得られるんじゃないかな。
(小淋さんに場所を譲る様にそっと天使像の前から離れる)
『そうですね。別段悪い印象は受けない気もするのですが』
『飲みこまれ過ぎてしまわないようには気をつけますよ』
(ガラスが落ちているかもと言う言葉に)
『確かに ここだと足の踏み入れ場が悪そうですね』
『もうしばらくだけこの子は抱いていないといけませんね』
(再び黒ウサギを抱きかかえる。ウサギの方も割と慣れた様子)
『縋ってでも叶えたい願い…ですか』
『ここで祈れば、その願いに少しは近づけるのでしょうか』
(しばらく考えるような表情をした後に、少しずつ天使像に近づく)
魅力的、か…。
…うん、そうだね。
その魅力に飲み込まれない様に気をつけてね?
(黒兎を地面に降ろす様子を見て)
ここ、硝子が落ちているから
若しかすると怪我をしてしまうかも…。
可愛い兎に怪我をさせるのは可哀想…。
さっき終えた所だから大丈夫。
ねぇ、貴女に願い事はある?
実在しているかどうかもわからない様な存在に
縋ってでも叶えたい、強い強い願い事が…。
(天使像を見つめ、目を細める)
『教会に呼ばれて、ですか』
『でも確かに足を踏み入れた時に不思議な場所だと思いました』
『どうしてそう思ったのか、私にも分かりませんが』
『どこか不思議な魅力があるような気がして』
(ふわりと微笑み、抱えていた黒ウサギを地面に下ろす)
(お祈りと聞いて、奥にある天使像を見ながら)
『そうでしたか。もしかしてお祈りの最中だったのでしょうか?』
『邪魔をしてしまっていたようならすみません』(汗)
若しかしたら、この教会に呼ばれて
迷子になってしまったのかもね。
(微笑んで
私は…。
…神様にお祈りをしていたの。
どうか、迷える魂をお救い下さい、ってね。
…!
(人の気配があった事に少し驚きつつも、冴来さんの姿に少し安堵する)
『こんにちは、冴来先輩』
『その、仰る通りで。散歩の途中で少し迷い込んでしまったみたいです』(小さく苦笑)
『先輩こそこのような場所でいったい何を?』
……誰?
(背後から感じる視線に振り向き
小淋さんの姿を認めてぱちくりと瞬きする)
…小淋?変な所で会ったね…。
どうしたの?迷子にでもなった?
………………
(たまたま足を踏み入れたのか、教会の入口前で立ち尽くす。
傍らにはペットなのか、小さい黒ウサギを抱えている)
【少し迷い込んでしまいましたが…まさか九夜山付近にこんな場所があったなんて。
すっかりボロボロみたいですけれど、誰かが足を踏み入れた跡が…?】
(そっと奥の礼拝堂を覗いてみる)
……。
(祈り終えたらしく、顔をあげて天使像を見つめ
泣いているかの様に見える像の姿に切なげに目を細める)
…泣かないで…。
(組んだ手を解き、右手を伸ばして
そっと天使像の目元を指で拭う)
……。
(天使像の前に立ち、静かに祈りを捧げている)