酷く荒れ果てた礼拝堂。
争いの跡が色濃く残されており
床には割れたステンドグラスの破片が散乱している。
教壇の下には隠し扉があり
そこから地下室へと降りられる様だ。
中央にぽつりと佇む薄汚れた天使像は
どこか泣いている様にも見える…。
確かに、無理もいけないかもね。
自然と笑えるようになるのが一番いいわね。
人は自信がつくと自然に笑顔になるわ。逆は言わずもがなってところね。
そう思いたいなあ…。
笑顔でいるのは、大切なことだとは思うけれど…。
…ううん。なんでもない。
変わろうとしている気持ちも貴女自身の物なんだから、全く別の自分になることはないんじゃない?
今、傍にいてくれている人達も離れていくことはないんじゃないかな。
だって、面倒くさいって思う自分に付き合ってくれている人達なんだから。
(ニッと笑い)
まぁ、冴来ちゃんとはじめてあった時に「笑顔でいなさい」っていったのも、私自身の経験からなんだけどね。
ううん。ありがとう。
私、寧々子さんはその理想の大人だって、そう思うわ。
変わることは嫌ではないけれど
私が今と変わってしまったら、それは私と言えるのかしら。
なんて、そんな風にも思うのよね。
私が私でなくなってしまっても
傍にいてくれている人達は
変わらず私の傍にいてくれるのかしら。
第一、周りの人達ってそんなに難しく考えてない、なんていうと語弊があるか。
楽しそうに生きてる人は自ら辛い方に捉えることをしてないと思うのよね。だって楽しい方がいいもの。
自分を変えるのは嫌だったけど、そう思うようになって自然と変わった気がする。
無闇に劣等感を感じることもなくなったし、ベタな表現だけど少し世界が明るくなったわ。
…ハッ!?
ご、ごめんね!なんか長々語りだしちゃって!
なにがドライよ、真逆だったくせに…
学生時代の寧々子さんは、私とよく似ているのね。
私も、そんな大人になりたいの。
ううん。ならなきゃいけないの。
変わらなくちゃいけないの。
だから、そうなれる様に
頑張っているつもりではあるんだけど中々難しくて。
今のままじゃいけないって、分かっているのにね。
面倒くさい、ね…
私もそんな風に言われたことあったなぁ…
相手が好意的な言葉をかけてくれてるのに、本当は迷惑に思ってるくせに、とか考えちゃったり、悲観的な言葉や態度で返したり、むしろ、なんで話しかけてくるかな、なんて思ったり。
学生の時の私は本当に面倒くさい奴だったと思うな。
自分が外れてるのが分かっていながら、自分を変えるのは嫌だったり。そのくせ、勝手に劣等感こじらせちゃったり。
人格障害じゃないかと疑ったり。
そしたら、本当は親密になりたいのに、なったゆえに傷付いたときの反動が怖くて他人との接触を避けてる、とか書いてあることにストンと納得しちゃってね。
自分は苦手なだけで嫌いなわけじゃないんだ、って。
だって、誰かが笑顔を向けてくれるのは嫌いじゃなかったんだもの。嬉しいし、安心できた。
そんな相手だって人間だから、嫌なことだってあると思うの。
でも、そんななか私を気遣ったりできる相手に対して尊敬と言うか、感謝を覚えるようになって。
自分もそんな大人になれたらカッコいい、素敵だな~って。
お人好しでない人は
こうして私と一緒にいてくれたりはしないもの。
そういう人は、私のことを面倒くさいだとか
鬱陶しいって思って、逃げて行っちゃうのよ。
あ、ありがと…。
(小声で)だから、そういうのは慣れてないんだけどなぁ…
(赤面した顔を手で扇ぎながら)
お人好しかしら?
私は私自身をドライなほうだって思ってるけど。
まぁ、どちらよりの見方でいるかは個人の自由よね。
どっちにしても、偏りすぎては生き辛いわ。
うん。そのことはね、分かっているの。
だけど、そういう人もいるってことも
覚えておくことも必要だから。
この世界は善人ばかりでもないし
悪人ばかりでもないってこと
ちゃんと理解しておかないと、きっと困るから。
何を善として何を悪とするかも、人それぞれだってことも。
因みに、私の目から見て寧々子さんはいい人に見えるわ。
お人好しで、優しい人。
私、寧々子さんの事が好きよ。
そうね、その点で言えば感情をそのまま表してくれる動物のほうが安心するわよね。
でも、構えてる人間に対しては相手だって構えるものよね。打ち解けようとしてくれていない
人に対して向こうだって打ち解けようとしないのも当然。
私はそれが最近になってようやく分かってきたかも。
ううん、言葉では分かっていても実感したのが最近なのかも。
平気で嘘をつく人「も」いる。どんな些細なことでも嘘をつかない人なんていない。
表は悪人ぽくても、中身はいい人だっている。
ってね。
逆の考え方をすればもう少し社会が明るく見えるようになるかもね。
…私が人を怖がるのは、わからないから。
何を考えているかわからない。
何をしてくるかわからない。
もしかしたら、酷い言葉を投げつけてくるかもしれない。
私を痛めつけて嬲って喜ぶかもしれない。
だから怖い。
人は平気で嘘をつく。
表は善人に見えても、裏もそうであるとは限らない。
だから人は、苦手なの。
うん…。
人がね、怖いの。
昔と比べると随分平気にはなったのだけど…。
だからここみたいな、人気のない場所に逃げ込んで。
でも、一人でいると寂しくて
誰か来てくれないかなって思ったりして。
我儘よね。
人なんて、多かれ少なかれ、みんな我儘だわ。
他人が苦手なの?
実は私もずっと誰かといるっていうのは苦手で、一人の方が好きだったりするんだけど、時折寂しく思う気持ちも間違いなくあったりするのよね。
(苦笑いを浮かべ、頬を掻く)
…結局のところ、わがままなのよね、私。
趣味は…。考え事、かしら。空想とか…。
後はお洒落とか、読書とか。
お喋りも好きよ?
人はちょっと、苦手だけど。
冴来ちゃんはいつもどんなことをしてるの?
趣味ってなぁに?
ありがとう…。でも、大丈夫…。
大丈夫だって、思いたいなあ…。
えっと…他にはどんな話が聞きたい?
もし相談相手が欲しくなったときは言ってね。
…私でよければ、だけど。
うん…。妹の話は…あんまり、ね。