酷く荒れ果てた礼拝堂。
争いの跡が色濃く残されており
床には割れたステンドグラスの破片が散乱している。
教壇の下には隠し扉があり
そこから地下室へと降りられる様だ。
中央にぽつりと佇む薄汚れた天使像は
どこか泣いている様にも見える…。
祈る人はいつだってステキだと思っているヨ
自分の弱さをサラけ出せテ、目に見えないナニカを求めているんダ
まだ目の開いていないコドモが母親を探すようニ、可能性を掴もうとモガイている事ダカラ
ずっと昔というケド、サキサンは今もテンシ様じゃないのカイ?
ボクよりずっと年下だと思うけどナ、コウ見えてボスコフは19才ナンダヨ
アハァ、アリガトウ。日本語はまだまだ勉強途中ダケレドネ
モット自分を誇らしく思うべきダヨ。サキサンは日本人に見えないけど
日本人らしい引っ込み思案なんダネ? 肌はボクと同じくらい白いし、
ソノ髪の色だって自然の色に見えたカラ。 ココだとチヤホヤされるんじゃないカイ?
貴方はこの教会と天使様のことも美しいって言ってくれるのね。
嬉しい…。ありがとう。
天使様は、この世界が好きなの。
だから、人に忘れられてひとりぼっちになってしまっても
この世界の幸福を、ずっと祈ってくれているの。
この間、天使様がそう私に教えてくれたわ。
私と天使様が似ている様に見えるのは…。
私も今よりずっと昔に、天使だったからかもしれないわ。
うん…。
貴方ってきっと、優しい人なのね。
そんな風に言ってくれる人って、中々いないもの。
ヒトリキリにナレル場所ハ、誰にでも必要だからネ
あそこのステンドグラスも一度割れて元に戻ったんだヨ
割れてモ逆に前ヨリウツクシイと思えたのサ、ウツクシイなラ
ココノテンシ様のスタチューもウツクシイと思うナ
横顔が悲しソウダケド、セカイを慈しんでイルようにも見えて、ハカナイんダ
ヨク見てみると、サキさんに少し似ているカモネ、変なイミじゃないヨ?
ボクの信じている神様はココさ(額と胸と両肩に手を順に廻らせ十字を切る)
タダ、ボクの信じてるテンゴクを押し付ける気はないヨ
人のココロの中なのカ、家族とのジカン、地上のドコカ
信じるモノによって解釈が人ソレゾレなンダト、思うからサ
そうなの?
星ヶ丘教会、素敵よね。
ステンドグラスがとっても綺麗で…。
シスターさんも優しいし。
そうなのね。
私も神様のことを信じているの。
厳密にいえば神様ではないのだろうけど。
貴方の信じている神様は、やっぱり天国に住んでいるの?
そうかジョウレンキャクなのカ、ステキだナ
星ヶ丘教会にかよってたかイ?奇遇ダ
ボクはソノ近くに住んでるんだヨ、留学用に買った小さな家だけれどサ
ボクは信じてルヨ、カミ様もテンシ様もみんなダイスキサ
今のジブンがいるのもカミ様のおかげだとおもうネ
うん。宜しくね。
喜んでくれているといいな…。
私、ここへはよく来るの。
天使様、ここに独りきりで寂しそうに見えるから。
私も教会が好き。
星ヶ丘にある教会にも少し前まで良く通っていたわ。
じゃあ…貴方は神様が好き?
神様の事を信じているの?
サキさん、カ。エイ、ヨロシク
お祈りをしているとワ、今時の若い女の子にしては
モノ珍しいけどイイコトだヨ。テンシ様喜んでるカモネ
教会は新旧問わず好きだヨ。知れば知るほど深いからネ。
旅行した先々で見学させてもらっているサ。
ボクは、イヤ、ボクのクニではネ
どんな教会も自分の生まれた家のように身近なものサ
ボクらヨーロッパのほとんどのヒトの人生も
コノ場所で全てがハジマリ、ココで終えられるからダヨ
セルゲイ・ボスコフ…。
(告げられた名前を確かめるように反復し)
そう。お祈りをしていたの。
この子はなんでも聞いてくれるから。
邪魔だなんて、とんでもないわ。
ただ…私、臆病で。
誰もこないと思っていたから、少し驚いて…。
貴方は教会に興味があるの?
ンフ、ボクはボスコフ。セルゲイ・ボスコフ、サ。
見回してみると、ドウヤラ、立派な祭壇だったんだろうナ
ひょっとしてテンシ様にお祈りしているトコロだったのカイ? ジャマしたならゴメンネ。
(人の声を耳にし祈りを中断。
立ち上がって振り向く)
…私…?私は、花風冴来。
えっと…貴方は?
アハァ、知らなかったナ、ユニークなバショがあるとはネ
オヤオヤ、コンナ所でお祈りしているのは誰だイ?
(天使像の前に膝をつき、両手を組んで
目を閉じ静かに祈っている)
…寧々子さん、元気かなあ…。
(天使像に背を預け、ぼんやりとした様子で呟く
(両手で冴来ちゃんの手を取り、軽く2、3回上下に振る)
それじゃ、またね。
(礼拝堂、出口へむかって歩いていく)
うん。
帰って来てくれるのを楽しみにしてるわ。
行ってらっしゃい。
たぶん一週間くらいだけど、結果報告みたいなものもしたいから、また会ってくれる?
ありがとう。
冴来ちゃん。
色々、片付けなくちゃいけないことが出来たから、しばらく島を出るわ。
そうね…。
だけれどせめて此処だけは
それが赦される場所であって欲しいわ。
此処は…祈りの家だから。
私、寧々子さんと八千穂さんに加護がある様お祈りしておくわ。
だからどうか、頑張って。
心を素直に表すのが美徳とはされない、人間社会の辛い所ね。
(首を傾げ、ふっと苦笑する)
…とりあえず、近いうちに八千穂に連絡をとってみようと思うわ。
…うん。
無理をして笑うのは、苦しいだけだから。
…無理して笑わなくても、良いのにね。
泣きたい時は、泣けば良いのに…。