酷く荒れ果てた礼拝堂。
争いの跡が色濃く残されており
床には割れたステンドグラスの破片が散乱している。
教壇の下には隠し扉があり
そこから地下室へと降りられる様だ。
中央にぽつりと佇む薄汚れた天使像は
どこか泣いている様にも見える…。
ん? 白鳥の王子って、えーっと…
意地悪な継母の呪いによって白鳥の姿に変えられた兄弟達を元の姿を戻すために、
お姫様が茨の服を編んで…っていう話なんだっけ?
…冴来ちゃんは今それの再現してるってわけなのか?
いいえ。
体を鍛えたい訳ではないわ。
…白鳥の王子というお話を知ってる?
ふっふっふ…俺は肺炎起こした如きで屈しはしないさ!
…と、いうことは、冴来ちゃん、体を強くするためにわざわざ茨の冠を編んでるわけ?
もともと身体が弱い方なの?
一緒に?
…それはやめた方がいいわね。
薔薇の棘は深く刺さるし
傷口から細菌が入って化膿して腫れ上がったり
肺炎にかかってしまうこともあるから。
修業がしたいなら、もっと別の方法をお勧めするわ。
むー……【と難しそうな表情を浮かべながら、床にぺたりと座りこみ、しばらく考えた後】
…………一緒にやってもいい? その修行というの
【先ほどのテンションを極力抑えて尋ねてみる】
ううん、いいの。
まだ暫くやめるつもりはないし
今手当してもらっても無意味だから。
お気持ちだけ有難く受け取っておくわ。
…私なりの修行なの。
強くなる為の修行。
私に必要な事なの。
へーっ、そっかー…って、逆に気になるって!
とにかく、手をみせんしゃいっ!【と絆創膏とハンカチを片手に、空いてる手で差し伸べ】
…というか、どうして茨の冠を作ってるんだよ?
…蓮太郎さん?
…うん。大丈夫。
私ならなんともないから、気にしないで。
(声をかけられ顔をあげるも
直ぐに視線を編みかけの冠へと戻し
手指が傷つく事も構わずに茨の冠の作成を再開する)
はー……
【山登り疲れたーと言わんばかりに深いため息をつきながら、半端休憩半端好奇心で礼拝堂に入る】
あれ、冴来ちゃん!ここでなにを……って、血だらけ?!
というか、泣いてるし! 大丈夫かよ?!
【と絆創膏を引っ張り出そうとあわてて鞄を漁りながら】
…大丈夫…大丈夫…。
こんなの痛くない…。
大丈夫…平気…。
痛くなんてない…。
大丈夫…大丈夫…。
(瞳に薄っすらと涙を浮かべ
小さな声で何度も大丈夫と繰り返しながら
素手で薔薇の冠を編み続ける)
…出来た。…だけど…。
…まあ…こうなるわよね…。
(完成した冠を膝に置き
棘が刺さり傷ついた両手を見て溜息をつく)
…指が痛い…。
(傷だらけの古びた椅子に腰掛けて
白い野薔薇の蔓を編み、花冠を作っている)
*リセット*
世界が広がるキッカケでもあったワケだ。なんか…前話したカミに似てっかも。
まーそーだな。動き出す前から不安に縛られっとどーしても。
でも実践してる最中なら不安ってヤツも案外悪くねーかもって思うコトあんね。
ホンキを後押ししたりすっし。同時に用心深くもなっし。
ウ………「やっぱり」ときたか。まー…うん。居る。けど。さ
「今言おーと思ってたしソレ」(いつかの夜その人に言った小声の負け惜しみ)
…ふふ。逆走ならぬ逆転すね。立場。いいツラするよーになったじゃん。
さて。と。ボチボチ帰っし。邪魔したね(きびすを返して肩越しに三つ編みふりふり)
うん。凄いの。
私が辛くても笑おうって思えるのは
その人のお陰なんだ。
勿論、他の人達のお陰でもあるけど
その人がいてくれなかったら
自分が色んな人達に大切にしてもらえていることにも
きっと気がつけなかったから。
…だから、感謝してるの。
「目の前の一個一個に」か…。
うん。そうしてみる。
私、前を向こうとすると今じゃない
ずっと先の事ばかり考えて
不安になったりとか、しちゃうから…。
きっとそれが、良くないんだろうね。
(動揺する市子さんの様子に
くすくすと小さく、楽しげに笑って)
ふふ。やっぱり、市子さんにもいるんだね。
逆走かどうかなんてわからないじゃない。
そうした事が後になって
いい結果に繋がることだってあるし。
…うわ。今の私なんか凄く偉そう。
変なのぉ。あはは。
(誤魔化すように明るく笑って
割れたステンドグラスを見上げる)
………へえ。ドコの果報者だか知らねーがスゲーねソイツ。
花風を変えてる…っつーより花風が持ってるいいトコ引っぱり出してるカンジ。
まーきちーコトとかイテー目とか。かなりイロイロあった上でなんだろーけど。
でも…そっすね。花風にゃー向いてんのかも…イヤしかし………(ぶつぶつ)
………ウン。手っ取り早くカンペキに近づく方法ならある。超カンタン。
「常に」「目の前の1個1個にホンキ出す」たったコレだけで大抵結果出せる。
毎度毎度そんなだと当然疲れっけど…そしたらフツウに休みゃーいいんよ。
快復したら前よりカンペキに近くなっ………………(思わぬ質問に口ぱくぱく)
…………………………。「何もかも全て投げ打ってでも」?「幸せにしたい」?
……………………………………………………………………イナイコトモネーカナ(ノミの声)
全て投げ打ったあげく。逆走…してんのかも知れねーけどね。あたしのバアイ。
そっか…。
…私は、駄目なんだ。
私…その人の前ではずっと、泣いたりとか
情けない姿ばっかり見せてきちゃったから。
心配させちゃったりとか、八つ当たりしたりとか
ずっと迷惑かけて、追い詰めちゃったから。
だからもう、駄目なの。
その人の前では、笑っていてあげなくちゃ。
…ここに、その人はきっとこないから。
だから、安心して泣ける。
…完璧になんてなれないだろうけど
少しでも近づきたいよね。
強がり過ぎて、無茶したりして、空回りして。
馬鹿みたいだなって思うけど、それでも。
…市子さんには、何もかも全て投げ打ってでも
幸せにしたい人っている?
………。最近似たよーなコト………あった…け、ど………(ぼそぼそ)
イチバン見られたくねーヤツにこそ見せるべき「だった」のかも。知れねーな。とか。
(色々思い出してふーっと吐息。笑って)…いんじゃね。心配かけたって。
バカで…(なんとなく割れたステンドグラスを見上げ)…助けて貰ったって。
変えたいって意識あって動いてりゃ同じコト繰り返してるみてーでも変わるモンだし。
ま。なんせちょっとずつだからナっカナカ自覚しにきーけどね。
逆になんでもカンペキこなそーとするヤツっつーのもソレはソレでアブネっつーか…
結果的にゃー一緒だと思うんよ。まわりハラハラさして。助けられて。バカみてー。
…市子さんも…そうなんだ…。
(安堵した様な声音でぽつり呟いて
薄汚れた天使像に視線を移し)
…私。
どうしてこんなにも自分は弱くて馬鹿なんだろうって
しょっちゅう嫌になる。
自分の事すら上手く支えられなくて
いつも誰かに助けて貰ってばかりで。
色んな人に心配かけてばかりで、情けない…って。
…さっき市子さんの声を聴いた時、凄く怖かった。
一番見られたくない人に
また泣いてるところ見られちゃったのかと思って…。
市子さんとその人、全然声違うのに。
…おかしいよね…。
(天使像を見つめたまま苦笑する)
………。ホントは。
出くわすコト出くわすコトイチイチマトモに受けとめて。
そのたんび不安定になってんだ。見るつもりねートコまで見えたりすっし。
そーゆーのとか…ナニヨリ自分で自分に振り回されんのとかヤじゃん。
だからいつも強気なフリして。ツッパって持ちこたえてんの。もー必死に。
と。まー「市子さん」なんざフタ開けてみりゃーこんなモンすよ。
けっこーエラソーなコトも言ったりすっけど…中身は花風とナニも違わん。
って言ったらシツレーか。