四月、それははじまりの月。
新生活に、新たな出会いの予感に、心はときめき胸は膨らむ、そんな季節といえましょう。カレンダーが一枚めくれただけで、まるで魔法が訪れたかのようにワクワクがあふれはじめるのです。
それはここ、寝子島高校だって例外ではありません。
想像してみてください。
あなたはこの学校の生徒となったばかりです。またたくまに入学式やもろもろの手続きは終わり、今、ぽかぽかやわらかい春の陽を浴びながら、糊のきいた真新しい制服姿で敷地内を歩いています。ひらり舞う桜の緋色を背に、あなたの足は校門に向かっていました。
本格的な授業開始はもう少しだけ先、まだ午前中ですが今日の用事は終わっています。このまま帰宅してゴロ寝もいいでしょう。街にお出かけというのも楽しいかもしれません。郵便局に寄って、故郷の家族にハガキの一枚でも出すのだってオツなものです。
けれどもひとつ、学校探検してみるなんてのはいかがです?
ふと思い立ってあなたは、くるり振り返って学校に戻ることに決めました。
オリエンテーション期間中とはいえ、すでに部活動ははじまっており、どこからか運動部の練習の声が、潮騒のように聞こえてきます。ちょっと見学してみましょうか? さっそく仮入部も可能とのことですよ。
どうしようかな、と迷っていたあなたは、とんとんとリズミカルな音を耳にしました。
少年が大きな木のハンマーで、立て看板を地面に打ち立てています。看板には『初代理事長 桜栄万吉氏の胸像はこちら』とあり、控えめな矢印も描かれていました。仮設の案内板のようですね。
「おっと、これが気になるのかな? 新入生のみんな」
あなた以外にも、いつの間にか複数の新入生が彼を見ていました。
カールしたクセッ毛をピンと指でかきあげ、少年は笑みをこぼしました。少し眠そうですが、深みのある印象的な瞳をしています。春風のように軽やかな口調で言います。
「これは一見、案内板。けれどもその実は、『らくがお仮面』を呼び寄せるための罠なのさ」
らくがお仮面――その名前にあなたは聞き覚えがありました。
入学式の時、ちらと噂で耳にしたのですが、この学校には最近、『らくがお仮面』なる怪人物が出没するようになったそうです。肖像画や人物写真、彫像などの顔への落書き(顔への落書きだから『らくがお』)をこよなく愛する人物らしく、これまで校内は幾度となく、仮面氏のいたずらの被害にあってきたと言います。それも、夜中にこっそり落書きするのではなく白昼堂々、ふと人の目が離れた隙に、電光石火の早ワザで『芸術』を展開するというのですからたちが悪い。といってもデタラメな落書きをするのではなく、素体をなんとも素敵な芸術的センスで彩ってくれるので、人によっては「落書き前よりこっちのほうがいい!」と主張するかもしれません。
らくがお仮面の正体は謎です。『仮面』という名称も、この怪人物が変装の名人で素顔が不明なことからつけられたものです。神出鬼没、ちょっとした伝説の人物、それがらくがお仮面なのです。
「おっと、名乗りが遅れたね。僕は 鷹取 洋二(たかとり・ようじ)、この学校の二年生さ。『らくがお仮面』くんには少々、借りがあってね」
鷹取先輩は相変わらず軽やかに言いますが、なにやらいわくありげです。
「胸像は初代理事長を模したもので、落成式は先日終わったばかりさ。本格的に授業が始まる直前のこの時期こそ、彼……いや、彼女かな……が行動に出るのにもっともふさわしいタイミングと思わないかい? だったら黙って落書きされるのを待つより、こちらから『おいで』と呼びかけるのも面白いよね」
なるほど、この立て看板は、らくがお仮面に対する鷹取先輩からの挑戦状のようです。
「らくがお仮面の落書きを阻止する、そして、あわよくば仮面を捕らえる……」
言いながら彼は胸元から生徒手帳を取り出すと、ぱたんと開いてこれをぐるり、あなたを含む新入生たちに見せました。
「それが、この『借り』を返す唯一の方法だから!」
鷹取先輩の生徒手帳には、学生証が挟んでありました。
そこに映る写真は……もう、ご想像がつきますね?
先輩はあなたたちに呼びかけます。
「ねえみんな、よければ手を貸してもらえないかな? 胸像を守り、らくがお仮面を捕まえ白日の下にさらそうよ。うまくいけば、入学早々のお手柄ってことになると思うな」
なんて言って彼は、あなたの心をくすぐるのです。
「胸像の近くに姿を隠したり、無関係のふりをして周囲をぶらぶらしつつ待ち構えてもいいよね」
胸像は中庭、噴水に面したところにあります。身を隠せそうなところは少なくありませんし、周辺を散歩していても怪しくはありますまい。
それとも、と鷹取先輩は声をひそめました。
「あるいは、いまグランド周辺で練習中の部活動のどれかに潜入し、見学や仮入部するふりをしてらくがお仮面を探してくれてもいいんだ。実はね、らくがお仮面の表の顔は、どこかの運動部の選手という噂があるんだよ」
噂だけではありません。かつて一度、先輩はらくがお仮面とおぼしき人物を追いかけたことがあるそうです。
「ジャージ姿でどちらかと言えば小柄だけど性別はわからなかったね……『仮面』はこのとき、部室棟の一階に消えたんだ」
変装したのか、このとき怪人物は部室棟付近にたくさんいる生徒に紛れてしまったようです。
「そのとき活動していた部活は、サッカー部、野球部、テニス部、相撲部、弓道部だったね。以上は運動部だけど、他に演劇部も活動を開始していたらしいよ」
潜入捜査のまねごとをするのであれば、これらの部活のどれかにしてみるのがよいでしょう。自分が興味のある部活とぴったり合致すればなおいいですが、専門外の部活だったとしても、それはそれでいい経験になるかもしれません。
「今なら幸い、君たち新入生の顔は『仮面』に知られていない。僕が行くよりずっと、捕まえやすいと思うんだ」
たしかに一理あります。
このごろ寝子島高校を騒がす怪人物『らくがお仮面』、彼ないし彼女にとっては、落成したばかりの胸像はまっ白なキャンバスのように魅力的なものに見えるに違いありません。おまけに、立て看板でアピールされて、黙って見ているとは思えないのです。
らくがお仮面の野望を止める、あるいはその身柄をとらえる……ひとつそんな鷹取先輩の熱意に協力してもいいでしょう。あるいは、そんなこと忘れて部活動の仮入部を素直に楽しんでくれたっていいのです。
なんとなく学校に戻ったことがきっかけで、意外な事件に直面できましたね。
せっかくです。巻き込まれてみるのも一興かもしれませんよ。どうします??
■担当ゲームマスター
■ゲームマスターコメント
初めまして! マスターの桂木京介と申します。このたびプレシナリオ第三弾を担当させていただくことになりました。よろしくお願い申し上げます。
このシナリオでは、寝子島高校に出没する謎の人物『らくがお仮面』を追うことが主目的となりそうす。共通の標的を求める過程で新しい友達もできるかもしれませんね。
けれど、まったくそんなことを忘れて体験入部やキャラクター同士の交流を楽しむこともできます。
そう、このシナリオに『正しい楽しみ方』はないのです。
謎解きというよりはドタバタな展開を想定していますので、深く悩まず「自分だったらこうするな~」と軽い気持ちで参加してもらえると嬉しいです。
どうしてもいい行動が思いつかなければ、仮面の追跡にはかかわらず部活動の見学や参加を気楽に楽しむことにしましょう。そんなアクションも歓迎しますよー。
それではまた、リアクションでお目にかかりましょう。
桂木京介でした。
■登場NPC『 鷹取 洋二(たかとり・ようじ)』について
なんだか芸術家風で遠目には近づきがたい印象ですが、実際はくだけた口調でフレンドリーな人物です。ただ、自分の学生証の写真をオーノーな目にあわされたことだけは怒っているようで、らくがお仮面をギャフンと言わせることに情熱を燃やしています。
彼と行動を絡めたい場合はアクションにその旨を記して下さい。どちらもでもよければ、特に言及する必要はありません。
■アクションの例
【例1】
・プレイヤーの目的
謎の人物らくがお仮面とのドタバタチェイスを楽しみたい!
・キャラクターの目的・理由
らくがお仮面と遭遇する!
・キャラクターの行動
まだ授業もはじまっていないのに事件の予感……!
これは見逃すわけにはいかないわね。私、将来はジャーナリストになりたいんだ。こんな怪事件、見逃せるわけないじゃない。
らくがお仮面について情報を集めたいわ。在校生や用務員さんに聞き込みができるかな?
その後は、得た情報を元に茂みに隠れて怪しい人物の登場を待つの。変装の名人だっていうから、意外な姿で現れるかも……たとえ一般生徒でも、胸像に近づく人物は疑ってみるわ。
これと思う姿があれば突撃! でも捕まえるというよりはその話を聞くのが目的なの。
「待ってー!」
【例2】
・プレイヤーの目的
部活に潜入捜査というドキドキを味わいます。
・キャラクターの目的・理由
ちょうど興味のある部活もあったし、なにより潜入捜査なんて燃えるよな!
・キャラクターの行動
なにー、らくがお仮面だと、そんなけしからんやつがいるのか。学校を騒がすやつとあっては見逃せないぜ。
ちょうどバスケ部には入部したいと思ってたんだ。バスケ部に体験入部して怪しいやつを探すぜ。うん、実はオレ、バスケは結構得意で、中学では県大会準優勝チームのスモールフォワードとして活躍したんだよなあ。
ところが、実力を見たい、と言われてシュートやドリブルのテクを披露していたら、夢中になりすぎて怪しいヤツを探すのを忘れちまうかもしれない。そうなったとしたら、
「いっけねー!」
と、焦りつつ、同じ目的の新入生を探して情報交換したりして捜査に戻りたい。
仮に怪しいヤツがいたら、 ワン・オン・ワンの勝負を挑むぞ。
【例3】
・プレイヤーの目的
らくがお仮面を追うことより、部活に体験入部できるほうを楽しみたい。
・キャラクターの目的・理由
ふふふ、野球部に体験入学できるのですか……マネージャーでもよろしいかしら?
・キャラクターの行動
らくがお仮面? 面白そうですが、それよりも今日は、体験入部の機会を優先したいですわね。
「私は野球部に入りとうございます。ええ、選手ではなく、マネージャーとして、です」
そう告げて、野球部の練習しているグラウンドで練習を見学させていただきたく思います。
断られたり難色を示されたら、
「そんな、ひどい……」
と、得意の涙目演技で切り抜ける所存です。ええ、実は私、腹黒いんです。将来はマネージャーとして野球部を影で操り、甲子園に出場させたいなどと思っていたりします。
(「野球チームのマネジメントで人心掌握術を身につけ、やがては政界に入る所存! 今日が、私の野望の第一歩となるのですわ……!」)
なんて思っていますが、表面上しおらしく練習を見学します。
使えそうな選手、使えなさそうな選手をさり気なく選別したり、人間関係を読んでみたり。
選手にタオルを渡して上目づかいで恥ずかしげに微笑してみましょうか。ふふ、照れていますね……。
※キャラクターは自覚していませんが、じつは彼女は野球大好きだったりします。
■スケジュール
▼参加申込み・アクション投稿の受付期間
▼リアクション初回公開予定日
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