木々の葉の間から温かな光が弱く差し込む。
心地よい静寂に満たされたその場所は、周辺の猫たちの集会場所になっているらしい。
猫好きな人なら、集う猫たちに誘われて、この場所を訪れることができるかもしれない――
………ん、と……えと……
(表情を戻すと、何やら考え込んで。
何か自分にも冗談が言えないかな、と)
………………ぅ……
(どうやら何も思いつかなかったらしい。
ちょっと泣きそうになると、悲し気に俯いてしまって)
はい、もう一年弱、くらい……です……
(肯定と同時にこくり。
眠たそうな表情
銀色の髪には少し目立つ、所々に付いた汚れ)
ええ。
内容にもよるけれど、誰も傷付けない
優しい嘘や冗談はとても好きだわ。
(特別な魔法は使えない。ただ感受性が強く
少しばかり想像力が働くという、それだけのこと。
僅かな表情の変化、控えめな笑みを目にしては
穏やかにそっと目を細め)
護身術の心得があるのね。
とはいえ、うーん…。
落ち着いて眠ることが出来ない生活は気疲れしてしまいそう…。
野宿をはじめてから、結構長いの?
冗談が、お好き、なんですね……
(ふわっ、とした口調でぽつり
ごくごく僅かに口角の上がったその表情は、彼女の中では笑顔のようだ
もっとも、よく観察しないと分からないのが傷だけれど)
夏は、涼しい場所が、ある、ので……
冬は、寒い、です……とっても、とっても。
(こくこく、頷いて見せる)
……たまに、来ます。男の人、とか…
2人か、3人まで、なら……抑え込まれない、なら、なんとかなる、ので……
(ぽつぽつと途切れ途切れになりながら、言葉を紡ぐ
口下手なのか、それとも話す機会が無いだけなのか)
ふふ。実は私、少しだけ魔法が使えてね。
なんて、ただの勘なのだけど。
(そう言ってくすくすと楽しげに笑う)
野宿かー…。
今は春だからまだいいけれど、夏や冬の時期は辛そうね。
治安が悪い島ではないにせよ、夜に女の子が一人でいるのは危ないし。
困ったことになったりしていない?
よく分かり、ますね……
(ごく僅かに目を見開いて「驚きました」、と。
変化が無さすぎて驚いているようには見えないが……)
いえ、違い、ます……外で…。
(見下ろすのは失礼、と思ったのか自身も木の根座って
ふるふると小さく首を振り言葉を否定する)
そう、芸術科…。
その鞄の中身は楽器?フルートか何か?
(彼女の足元に置かれた鞄を見て。
さりげなく近くに移動し腰を下ろす)
決まったお家はないのね。
ホテルか何処かで寝泊まりしているの?
花風 冴来さん、花風 冴来さん……
(また指を折って名前を繰り返す
両手の指を全て倒すと「覚えました」とこくんと頷いて)
私は二年生、です……芸術科の…
(足元にをよく見れば、彼女のものなのだろう細長い鞄が置かれている)
………お家、ですか? 特に無い、ですが……。
(くてん、可愛げに小さく首を傾げて「家は無い」と、そう言った)
(彼女が名乗れば「可愛い名前ね」と素直な感想を零し)
私は冴来。花風 冴来よ。寝子高校生の三年生。
ふふ。迷子の迷子の白猫さん。
貴女のお家はどこかしら。
(彼女を白猫に例え、楽しげにそう)
(そんな言葉と笑顔にちょっとだけ楽になったようで)
え、えっと……鈴宮…
鈴宮 音々って、いい、ます……
(所々が跳ねた寝癖の付いた髪
まだほんの少しだけ怯えた様子からは、何となく白猫を想像してしまう)
まあ、そうなの。
(よく迷子になると聞いて呆れるわけでもなく
何処か喜んでいる様にも聞こえる声で相槌をうって微笑み)
気にする事ないわ。
私だって偶に迷子になるし
今だって迷子になっている様なものだもの。
ねぇ、貴女お名前は?
うぅ……。
(「迷子」というそのままといえばそのままの言葉を突き付けられて言葉に詰まった)
そ、その…私、こういうことは、よく、あって…それで……
(しゅんと萎れてしまう
俯きながらも、ぽつぽつと言葉を紡いだ
すぐ近くの木の根に横になっている猫が、呆れたような欠伸をする)
……。
(異世界人ではないらしい。小さな動きで辺りを見回す。
気まぐれな風が通り抜け、木々の木の葉がさらさらと歌った)
此処は九夜山。山の中よ?
私もニュイに連いてきただけだから
詳しい位置はわからないけど…。
貴女って、もしかして今迷子なの?
(先ほどと同じくごく自然に、なんでもない事の様にそう尋ねる)
ああ、いえ、その……「それは」覚えて、ます……
(日本、寝子島。日本、寝子島と指を折りながら
覚えているのなら当たり前であろうことを何回も確認している様子で
どうやら異世界の住人ではなかったらしい)
そ、その……島の、どこにいるか、という……のを……
(だんだんと尻すぼみに小さくなる声
恥ずかしそうに目を伏せて)
………。
(此処は何処。そう尋ねられ、唇に指を当て言葉を探す。
ややあって静かに口を開き)
…ここは日本。寝子島よ。
そういうことではなく?
(からかっている様子はなく、ごく自然にそう返す。
世界にばら撒かれた神魂が引き起こす不可思議により
突如異世界へ召還されるといった経験を数度しているせいか
「目の前の少女は異世界からの来訪者かもしれない」と考えたらしい。)
(静かに先を促す姿を見て。
多少は落ち着きを取り戻したのか、深呼吸を繰り返す。すぅ、はぁ)
……ここって、どこ、なんでしょう……。
(視界に入るのは、寛ぐ猫と木々、微かな光
それらを「なぜこんなところに」と言わんばかりの様子で、不思議そうに見回す)
ん、なあに?どうしたの?
(わたわたおろおろと忙しない動き
表情の移り変わりに愛らしさを感じ
口元へ自然と柔らかな微笑みを浮かべる。
躊躇いを察しては小首を傾げ
言葉少なに先を促して様子を伺う。)
い、いえ…いえ……! そんな、ことは。
(まず最初に謝罪の言葉を口にした青い薔薇の少女に、わたわたと慌てた様子で両手を振る。
自分よりも背が高いし、雰囲気も大人っぽい
あまり変わらないかもしれないけれど、年上の方かな、怖くないかな、などと思考を巡らせて)
え、えっと、あの……
(何か、聞きたいことがあるらしい
言い出せない様子で、おどおどとしている)
(先に訪れていた銀髪の少女はどうやら人見知りであるらしい。
若干の親近感を覚えつつ小さく頭を下げ返し)
こんにちは。
ごめんなさい、お邪魔をしてしまったかしら。
(少し眉根を下げ、申し訳なさそうな微笑みと共に
当たり障りのない挨拶と謝罪を口にする。)
(一方、少女をここまで連れてきた黒猫はというと
人間たちの様子など気にも掛けず
暖かな箇所で身を丸め、早くも寛ぎはじめていた。
猫という生き物は、なんとも自由気ままである。)
(人の気配に猫から視線を外し、そちらを見ると視線が合った。
アメシストによく似た紫色の瞳が見つめ返す)
え、っと…こんにちは、です……。
(聞き取れるかどうかの小さな、若干の怯えを含んだ声音でそう言うと、ぺこりと頭を下げた)
…ニュイ。ねぇ、ニュイったら。何処へ行くの?
(長く立派な尻尾を立て、悠々と歩く黒猫の後をついて
日の光に煌めく金髪に青い薔薇を飾った一人の少女が現れる。)
…あら?
(辿り着いた先、多くの猫が自由気まま
思い思いに寛ぐ光景を目にしては足を止め
澄んだ青い瞳をぱちくりと瞬かせた。)