祈りの家を隠すように、又は縛るように
白を纏った野薔薇が生い繁る。
入り口付近の外壁には薄汚れた小さなプレートが嵌め込まれており
「九夜山勿忘草教会」という文字が刻まれているのが確認出来る。
この教会の正式名称らしい。
だって、凄く優しくしてくれる上に
私が嫌なことなにもしない…。
私、人は小さな子以外大抵怖いし
仲の良い友達でも怖いときがあるのに
貴方のことは少しも怖くない…。
意外…。
貴方は綺麗だし、女の人寄ってきそうなのに…。
告白されたりとか、そういうことは一度も?
そんなに親切だと言われたのは初めてだ。
なんか新鮮な気持ちになるね。
(少し笑いながらそう言い)
僕かい?
僕はそういうのとは無縁でのらーりくらりと過ごしてきたなぁ。
相談事を聞いたりとかは結構してきたけど。
そういうもの…?
私には異様なぐらい親切だし優しいのに…?
(悪人ではないにしても善人というわけでもないのだろうか
などと考え)
(嫌なわけではない、と聞けばぴたりと動きを止め)
私はー…。
…いると言えばいるけど、いないと言えばいないというか。
ずっと好きだった人がいたのだけど
いろいろあって、最近スッと熱が冷めてしまって。
ずっと待っているって約束した手前
我ながら薄情だとは思うけど、もう待つのはやめようかなと。
白露さんこそ、そういう人は…。
普通、かぁ。
うーん、確かにそう思う人もいるだろうし、そう思わせる行動をとる人もいるだろう。
とは思うんだけど、僕はそう考えることがそうそうないだろうしなぁ。
(そもそもあったかな?など自分ひとりで少し首を傾げ、
特に思い当たらないのか、いつもの様子のままでいる)
僕みたいなのはお人好しな訳では無いよ。
僕は僕が良くしたいと思ったからこそ行動するやつだからね。
そういう気持ちが起きなければ、きっと静観してるだけだろうさ。
誤解を与えそうだってだけで別に嫌なわけではないんだけどなぁ。
(くすりと笑いながら、離れようとするなら止めはしない)
お嬢さんはそういう噂が流れると困る相手がいるのかな?
(ふと興味が湧いたのか、そんなことを口にする)
…そう、なの…?
(困惑した表情で小首を傾げ)
で、でも。
普通は面倒だとか鬱陶しいとか気持ち悪いとか…。
そうじゃなくても、驚いたり困ったりするもの、なんじゃ……。
(少なくとも、少女には過去そういった言葉や
そういった反応を受けた経験がある。
いや、少女の過去の生育環境自体が
普通とはかけ離れたものではあるのだが
そういった経験が確かにあるのだ。
しかし、目の前の彼の様子を見ていると
どうもそれが普通なのか自信がなくなってくる。
言葉も段々尻すぼみになり…。)
…白露さんって、もしかしなくてもかなりお人好し…?
あ、うん。そう。離れないと。
誰か人が来たら付き合ってるとか
白露さんが私の恋人だとか勘違いされちゃう…。
(そういっていそいそと離れようと)
んー……。
(少女に問われて、初めて考えるように思考を巡らせ)
嫌だっていうような気持ちはでてこなかったかなぁ。
それに恥ずかしいようなことをしてるつもりもなかったな。
(まるで思いつかなかったと言うように、そう答える)
まぁ流石に人前でやると誤解を与えそうだなあとは思わなくもないけどね。
あ、あの。
(からかうような声に更に羞恥を煽られ声が上擦る。
頭を撫でられながら、知り合ったばかりの男女が
こうして抱き合っているのは色々とまずい気がする。
離れた方がよいのでは、などと常識的な考えを巡らせるも
心地良さが勝り離れられず。
それはさておき…。)
は、白露さん。
突然泣かれたり抱きしめてって言われたり、嫌じゃないの?
恥ずかしくないの…?
ん?
(自分の名を呼ばれて少女の顔を見、
泣き止んでいるのを確認する。
そして頬が染まり、視線をさまよわせはじめたその姿に微笑みを浮かべる)
どうかしたかい?お嬢さん。
(少し意地の悪いような、そんな声音を少しにじませながら、
楽しげに少女の頭を撫でようとする)
ん…。
(抱きしめてくれる彼の背に腕を回し、身を預け。
胸の中に灯る安堵を感じるうちに
瞳から降る雨は自然と収まっていった…が)
あ…ええと…。白露さん…。
(泣き止み冷静になってみれば
知り合ったばかりの人に勢いで
凄いことを要求してしまっている気がするだとか
羞恥だとかが湧いてきて頬を染め視線を彷徨わせる)
ん、了解だ。
(嗚咽混じりの少女のお願いを躊躇いなく承諾して、
正面から優しく抱きしめる。
背中を優しくさすりながら、時折髪を撫でる)
……っ…っく……。
(「人前で泣いてはいけない。」と
普段から自分を厳しく責め立て
必死に律しているにも関わらず涙は止まらず。
いや、そのせいか。
ひたすらに優しい声が、手が、存在が嬉しくて。
…もっと欲しいと思ってしまう。
自分にはそれを求める権利も、資格も
そんなものはなにも、持ち合わせてはいないのに。)
っ…白露さん、もっと…。
ぎゅっとして…。抱きしめて…っ…。
(嗚咽交じりにそんな我儘を言う)
もちろん、君を置いてどこかに行ったりはしないよ。
(優しく背をさすりながら、寄り添うように少女のそばにいる)
……。
(俯きながらも素直に背をさすられ、小さく頷き)
…っ…一緒にいて…。
一人に……。
(「一人にしないで」と言おうとして言葉にならず
ただほろほろと涙を零す)
(そっと少女に近づき、背中をさすろうと手を伸ばしながら)
謝らなくても大丈夫だよお嬢さん。
それに涙が出る時は思いっきり泣いていればいいものさ。
自然に涙は止まるからね。
……お嬢さんが泣き止むまでそばにいても?
(そう言い、安心させるように微笑む)
あ、あれ…?
(瞳にじわりと涙が滲みポロポロとこぼれ落ちる。
困惑した表情で目尻に手を当てるも
涙が止まることはなく)
…私、なんで泣いてるんだろ…。
ごめんなさい、今泣き止むから…。
(俯き、叱られることに怯える幼子の様な声でそう言って
手で涙を拭い、必死に泣きやもうと)
うん…。
(それはもう、本当に嬉しそうに笑って頷き)
(くすりと笑って)
同じ願いなら簡単だ。
不思議の国を探しに行く話もしたし、一緒に出かけて、
話をして、そうして過ごそう。
君の願いも、そうして叶うからね。
(彼の答えを聞けば、同じく柔らかに微笑み返し)
…よかった。
聞いてみたはいいものの
難しいことだったらどうしようかと。
大丈夫。その願いは叶うから。
私と沢山お話して、沢山遊んで。
これは私の願い。私の我儘。
私の願いを、どうか叶えてくださいな。
……うん、話をして、もっと話したいなってお嬢さんには思ったからね。
基本的に人に対して「好きにしていい」と思ってるから、
見守りはするけど、深入りもしなかったからね。
お嬢さんと話ができて、仲良くなれたのは僕も嬉しいよ。
夢…………。
(その言葉を聞いて、顎に手をやり考えるようにまぶたを伏せる)
んー、思いつかないなぁ。
いつもと同じように過ごして、お嬢さんと話をして、なんて生活を送りたいくらいだよ。
(そう言って柔らかく微笑む)
ーー貴方の夢は何?
(暖かな魔法を唱える様に
甘く、優しく、柔らかな声で問いかける)