【＃08　ニャンと素敵なファッションショー（２）】

「エントリーＮｏ．２、ニャ藤 英二の登場です！」
　英二くんのステージは、アイオちゃんと違って歌も踊りもなく、一見地味ですニャけど、
「えっと、どうも……よろしくお願いします。佐藤です。趣味はアニメとか映画鑑賞で、特撮なんかが好きで。カラオケでそういった歌を歌ったりしてます。いわゆるヒトカラってやつですかね。あはは。ええと……あ、あとゲームしたり、プラモ作ったりもします。オタク寄りといえば、そうなんですけど。はい」
　……やっぱりちょっと、地味ですニャア。
　審査員のヒマラヤンがメガネをくいっとしながら（ネコだってメガネくらいかけますニャ）、
「あニャたの趣味もいいけれど、ファッションの話をしてくれないかしらぁ？」
「そのコーディニャートのコンセプトは、ニャんだね？」
「あ、はい。冬用の私服です。休日に出かける時とかに……」
「キュウジツ？　ああ、人間はシゴトやベンキョウをする日と、オヤスミの日を分けて過ごすらしいニャ。なぜそんなことを？」
「え？　なぜと言われても……仕事をしないと生きていけないし、勉強しないと将来困ってしまうかもしれないし」
「分からんニャア。キュウジツ用のコーディニャートでどんなことをしているのか、実際に見てみニャければ判断がつかん。ジョニーくん、映像を頼むよ」
「ハイですニャー」
「え？　映像？」
　というわけで、ボクの出番ですニャ。
　当チャンネルは初めての猫に説明しておきますと、ボクはスミャホやニャット上にある動画を、壁やスクリーンに映し出すことができるんですニャ！　ボクの目はカメラで、シッポはアンテナなのですニャ！　すごいでしょ？

「さて、今日は休日か……特に予定もないし、どうしようかな」
　朝起きて、身体を起こす。肩をシーツが滑り落ちると、部屋を満たす冷たい空気が肌をなぞり、ボクはひとつ身を震わせた。そのまま少しぼんやりしながら、頭の覚醒を待つ。
　窓の外で雀が鳴いている。カーテンを引くと、まぶしい陽光がボクの目を射る。気持ちのいい朝だ。
　起きだして顔を洗い、朝食を食べる。今朝はベーコンエッグサンドか。ベーコンの程よい塩味が舌をぴりぴりとさせ、追い打ちのように含んだコーヒーのひと口が、ようやくボクの精神へ完全なる覚醒をもたらした。
　歯を磨き、身支度を整える。冬用のジャケットにパーカー、ハットを組み合わせてデイパックを背負うと、妙に気分が昂揚した。知り合いにアドバイスをもらって買いそろえたものだが、普段から服装に頓着のないボクにしては、オシャレかつ身の丈に合っていて、とても気に入っている。

「そうだ。新作のニャンプラ、『NG 1/144 ニャンダムパーフェクトマタタビックフリーニャム』が出てるじゃないか」
　ホビーショップ『クラン＝Ｇ』ならきっと入荷しているだろう。店長代理に取り置いてくれるよう頼んでおいたから、つつがなく購入できるはずだ。
「よし。買いに行くニャ」
　玄関扉を開けると、うっすらと白い絨毯が道をはかなく覆っていた。一歩を踏み出すと、足跡がぽつんと残る。猫のとおりが獣道となるように、轍を踏み分けてゆくような快感を覚えた。
　肌寒さを覚える凛とした空気の冷たさも、あたたかい上着やお気に入りのコーディニャートを身にまとえば、冬の風情として楽しむことさえできた。
　ああ、道はニャんて白く、広いのだろう。
「あれっ？　英二くんだー、やっほー♪　どこいくの？　ちょーどヒマしてたんだ～。私もいっしょに行こうかニャ？　行ってもいい？　にっしっし」
　今日は良い日になりそうだ。

「……いつ撮られてたんだろう？　ていうか、このモノローグなに？　こんなのしゃべった覚えないよ」
「あ、ボクがアテレコしておきましたニャ」
　人間もカワイイ猫の映像に、勝手なセリフをつけたりするでしょ？

バーミーズ「ニャるほど！　つまり気にいったフクを着ると気持ちがイイ、ということか。うむ」
ヒマラヤン「人間の生活は、ともすれば苦痛や不安に満ち満ちてしまう。自分にふさわしい装いは、己を高め、精神を正常に保つ人間なりの手段ニャのねぇ。興味深いわぁ」
ベンガル　「映像の最後に出てきた人間のメスは、君のつがいか？　もう交尾はしたのかね？　後学のため、感想を聞かせてくれんかね」

　なんて、ニャんだかんだ好評だったみたいです。



「エントリーＮｏ．３、音海 ニャぎさ！　張り切ってどうぞ！」
　トリに登場するのはなぎさちゃ、くん、ですニャ。いやもう正味のハナシ、どっちなんですニャ？
「男の子みたい。女の子みたい。どっちのボクが、ボクにふさわしいのかな？」
　そう言ってなぎさちゃん、もうちゃんでいいかニャ、取り出しましたのはダテメガネ。
　それはなぎさちゃんがもうひとりの自分に変わるための、スイッチのようなもの……らしいですニャ。
「フシギ事件に振り回されて、神魂の影響で男の子になったり、女の子になったりしたなあ」
　懐かしむなぎさちゃんのバック、スクリーンにはなぎさちゃんの体験してきたあんなフシギやこんなフシギの映像が映し出されては流れてゆきます。ステージの演出、ボクですニャ。
「でもね。どっちでもイイんじゃない？」
　くるりとスカートを翻して、ダテメガネかけて、なぎさちゃんは女の子の姿にヘンシンニャ！

「ナギ・サイレントオーシャン、登場っ☆」
　お友だちもゲスト出演してくれました。
　アイオちゃんのステージに負けじと、なぎさちゃんの舞台もゴージャスな歌とダンスが彩りますニャ。舞台袖からはお友だちがたくさん現れて、いっしょにダンシン！　ニャ！
「アイオも手伝いますわよー！」
　バックダンサーとしてアイオちゃんも参戦ですニャ。ノリノリですニャ。
　映像の中では、なぎさちゃんが寝子島へ異世界へと大冒険を繰り広げております。こびとになったり。エクストリームにテストしたり、古代ネコ文明を探求したり。歴史に秘められた謎を解き明かしたり。
　そんな大活躍のたびに、なぎさちゃんは女の子になったり、男の子だったりするのですニャ。忙しいですニャア。
　けれどそれを、なぎさちゃんは、楽しんでいるんですかニャア？
「男の子とか女の子とか、見てる人が判断すればいいと思う。あは、今は見てる猫、かな？」
　くるりん、たたん、ステップをフミフミ。なぎさちゃんはなんでも、いつでも、楽しそうなんですニャア。
　お友だちもくるりんくるんと踊る中、なぎさちゃんは目を伏せてボクと、ボクの配信を見てる猫たちへ、手を掲げます。
「ボクはいつでも、自然に、あるがままなだけ。そうありたいと思って、そう振る舞ってるだけ。世の中が変わっても、物事の見方が変わっても、ボクは変わらず、ボクのまま。私のまま。きっと、そうなんだと思うな」
　本気の演技を追求したことも、自分の中の戸惑いを自覚したことも、なぎさちゃんにとってはその全てが、自分らしくあるため。と、いうことでしょうかニャ～。ボクはいっつもボクだから、よくは分かりませんけどニャ。
　でもステージの上の男の子ななぎさちゃんも、女の子ななぎさちゃんも、どっちもニャんだか……輝いてるんだニャア。

バーミーズ「人間はオスとメスでフクが違うことが多いが、本質はそこではニャい。自分にふさわしい装いこそが、正しく究極のファッションというわけニャのだな。うむ」
ヒマラヤン「ブラボーよぉ、素敵ニャわぁ！　なにが正しいのか、決めるのはあニャた次第。そうよニャーん？」
ベンガル　「本当にオスニャのか？　メスではニャいのか？　ちょっとフクの中を確かめさせてはくれニャいか」



　いろいろあって、見ごたえたっぷりなファッションショーでしたニャ。視聴猫のみニャさんも、楽しんでいただけましたかニャ？
「ちょっと緊張しちゃったよ。でも、楽しかった……かな」
「うん、僕も。なんだかスッキリしたかも」
「こんな突然のフシギ現象にも、慣れてきましたわね。だから寝子島って素敵ですわ！」
　英二くんも、なぎさちゃんも、アイオちゃんも、いい顔をしてますニャ。
　まあ人間の表情って、ボクにはよくわかりませんけどニャ。
　なんとなーく、そう感じたんですニャア。