彷徨える寝子原人｜リアクション

彷徨える寝子原人

　「こんなところで奇遇ですね、光村さん」
　ゆったりとした速度で進むゴムボートに座っている薄野五月が口を開く。黒髪ショートに眼鏡の女子である。
　「驚いた……」
　そんな彼女と対になるように座っているのは探検部部員の光村日向。熊皮を纏った邪衣士と対になるような猪皮を身にまとっている。
　「私のほうこそ、光村さんの格好に驚きました」
　別のゴムボートに乗り込んだ士と日向を見比べつつ、五月が微笑む。
　「変……かな？」
　猪皮や自身の赤い髪を不安そうにいじる日向。
　「いいえ、似合っていますよー。あ、蕎麦饅頭どうぞ」
　お世辞ではなさそうな口調で五月が答えながら、蕎麦饅頭を日向に手渡す。日向にとって幸か不幸か、彼女の美的センスは少しずれていたのだった。
　「あ……ありがとう。『すすきの』の……だよね。……洞窟探検も探検部と一緒に……どうかな？」
　少しはにかんだ後、日向は提案をする。そして、ちらりと同乗している龍目豪や佐々寿美礼のほうへ許可を求めるように視線を送る。
　「ま、いーよね！」
　寿美礼は豪のほうを振り向きながら頷く。彼女はハーフパンツにジャージと軽装である。
　「おう、１人でも２人でも面倒見れるから大丈夫だぜ」
　親指を立てて許可を出す豪。
　「みんなでワイワイしたほうが楽しいでしょうし、迷子にならないはずですー」
　寿美礼や豪にも蕎麦饅頭を配りながら、五月は日向の提案に頷いたのだった。

　
　「あたしが先行してザイルを通していくから、安全重視で行くわよ、いい？」
　着慣れた感じのする迷彩のつなぎ姿のエヴァ・ブランシェが同乗している藤堂月乃や屋敷野梢に説明していく。
　「藤堂さんはいいけど、屋敷野さんはスカートだから怪我とかいろいろ気を付けてよね。あたしたちのルートはアレがいるから」
　金髪碧眼の少女はそう続けると別のゴムボートに乗っている横嶋下心をちらりと伺う。
　「大丈夫ですよ！　いざというときは俺が颯爽と助けますから！　何なら下敷きや踏み台にしていただいても！」
　声が聞こえていたのか、下心はなぜかグッとガッツポーズを決める。
　「あはは、まぁみんな怪我なく楽しくやれたらいいよね。私洞窟のことずっと気になっていたから、何かわかったらいいなー」
　月乃が大らかな笑顔を３人に向ける。彼女の装備は軽装で動きやすさ重視、また、彼女のろっこん能力の発動アイテムである飴玉もしっかり持ってきている。
　「神魂の影響ってオチじゃないといいんですけどねー。ロマンがあるほうが楽しいですし。ま、私はサポートしつつ生物調査をしようかなと思います」
　スカートの裾を直しながら、梢はそう呟く。
　「ま、こっちのコースはあたしが面倒見てあげるから。探検したい気持ちもわかるけど身の安全だけは確実にしてよね」
　岩壁登攀もできそうな装備のエヴァはそんなことを言いつつも、彼女自身もわくわくしていたのだった。

　ゴムボートで進めるだけ進んだ先。
　満潮時の海水が入り込むことができないそこは、潮汐の影響で泥土が積み重なった地面が広がっている。
　「これが入り口なのだ？」
　一番乗りの真央が首を傾げる。彼女は両手両足に懐中電灯を括り付けて、いつでも走り出しそうな気配である。
　彼女の視線の先には直径４、５メートルサイズの歪んだ円形の穴が口を開けていた。
　「だね。寝子タブの資料とも合致するみたい」
　ケイビングスーツやウェットスーツなど、なんだかんだで準備は万全なのだが重装備になってしまったしおりが肯定する。
　彼女は受け答えをしながらも、自身のろっこん『猫間飛行』の発動用の猫グッズを洞窟の入り口に設置する。
　（……ゴミ？）
　しおりの行動を見つめながら、天吏がぼんやりとそんなことを考える。
　「……行くか」
　釣り具を持った亜魚隈猯利が小さく呟くと鍾乳洞内へと向かう。彼は崩落した箇所に存在する可能性のある地底湖を目指す。
　「レッツゴー！」
　誰かの掛け声とともにそれぞれのルートへ、それぞれのグループで探検が開始された。