彷徨える寝子原人｜リアクション

彷徨える寝子原人

　「猫！？」
　「いや、あれは……！」
　２人がさすがに驚き声の方へと明かりを向ける。
　「ふにゃ！？」
　しゅるしゅるしゅるしゅる。
　明かりを避けるようにして、その鳴き声の主が這いずって動く。
　彼らが一瞬だけ視界に捉えたその何かは２つの目が懐中電灯の光を反射して煌めく。
　「あれは……幻の『猫つちのこ』！」
　すばるが叫ぶ。
　黄色い猫の頭に蛇の胴。やや頭部がアンバランスに大きく、胴体はややずんぐりむっくりとしている。
　「原人もスクープになるけど、これもスクープだね！」
　飛鳥が猫つちのこを追うように走り出す。
　「できれば捕獲したいな！」
　思わずすばるも走り出す。

　「うにゃあ！？」
　猫つちのこは彼らの気配に気付いたのか慌てて逃げ出す。
　その姿から想像できない程度には素早く這いずる。

　飛鳥やすばるのほうがもちろん早いのだが、洞窟内である。思ったようには距離が縮まらない。
　「ここは僕の『ソリッドボイス』で！」
　自身のろっこんを発動させようと飛鳥はのど飴を口に放り込もうとする。
　「さすがにヤツが潰れるかもしれない！　とはいっても『ちくわ☆ビーム』もな……くっ」
　飛鳥を制しつつも、すばるは躊躇う。すばるのろっこんは威力は調整できるのだが、対象が『蛇？』である以上、冷凍ビームを照射するか否かを迷ったのだ。
　そうこうしている間に猫つちのこは岩壁の合間に入り込もうとする。とはいえ、頭が大きいせいでなかなか入れないようだったが。
　「せめて写真だけでも！」
　２人は走りながらカメラを構えて、連続でシャッターを切り続けた。

　一方、蝙蝠ルート。
　やや天井の高い通路……通路と呼ぶにはやや起伏や突起物の多い道を突き進む真央。やや、装備は重いもののその分、探索に対する準備は十分な様子だった。
　「うー……暑いのだ。蒸すのだ。やってられないのだ！」
　真央はそう言うと、ジャージのジッパーを下げて、パタパタと扇ぐ。ジャージの下は学校指定の水着、つまりスクール水着である。
　両手両足に重りのように括り付けた懐中電灯の明かりの熱や、蝙蝠ルート特有の温度、そして洞窟の湿度といった環境で真央の体は１時間ほどで汗まみれになっていた。
　彼女はリュックから水筒を取り出し、水分を補給する。リュック内のお弁当などの物品は防水対策としてしっかりと包んであった。
　「寝子原人さんは餌付けして外に連れ出すのだー」
　そんなことを言いながら彼女は警戒に蝙蝠の糞を飛び越えて、奥へと邁進する。
　「今、２０００歩くらいなのだ。けっこう進んだのだ？」
　彼女はスマートフォンの歩数計アプリを起動させていた。
　洞窟は曲がりくねっており、また上下にも移動するので単純な直線距離として測ることはできないが、目安の一つとして彼女は探索を進めていく。

　キィキィキィ。

　「蝙蝠がいっぱいなのだ……はっ」
　見上げれば天井には逆さづりの蝙蝠たちが所狭しと並んでいた。今は昼間の為か大人しい。
　一瞬、襲ってくるのかと思い真央は身構えるが、蝙蝠の様子を確認して警戒を解除する。
　「もしも、襲ってきたらがおーの出番なのだ」
　蝙蝠対策に彼女はろっこんで三毛猫のがおーを召喚するつもりらしかった。

　「まだまだ先へレッツゴーなのだー！」
　分岐路があっても迷わずまっすぐ突き進む真央。

　暫く進んだ先。そこは大きな空間が広がっており、左右に壁はなく、まるで空中歩道や天井の梁のような部分を真央は歩いていた。
　左右に壁はなく、下方を照らせば２，３メートル下に通路が見えている。
　「歩道橋？　それとも立体交差なのだー？」
　真央は首を傾げると、足元に気を付けつつ先へ進もうとする。
　「……お？」
　そんな彼女の視界に下方からゆらゆらと複数の光が見える……。