灯 斗南はいたって無趣味な男だ。音楽にもオシャレにも部活動にも勉強にも興味がない。そんな彼だが毎週必ず欠かさず見ているのが特撮ヒーローもの、「マスカレイダー」シリーズである。元々は昭和に作られたマスカレイダーを平成になって復活させるとそのシリアスな展開と主人公ダイゴ役の俳優の熱演から人気沸騰、以降シリーズ化されている。
「そろそろ来ることだと思っていたぞ、マルスの演神者」地上に降り立った影はまさに鳥人と呼ぶのがふさわしい姿をしていた。「俺はグルル・ヤクシャ。またの名をガルーダ」
「ガルーダ?ゲームとかでよく聞く名前だな、まあいい。やっぱりてめえも仮面の力で暴れて楽しんでやがったんだろう?」
「違うな、元々狙いはマルス、貴様を”舞台”に上がらせるために人間を襲っていただけ。貴様さえ現れなければ続ける理由は無い」
「そうかい!だったら望み通り相手をしてやるぜ。だが間違えるんじゃねえ」懐からマルスの仮面を取り出し装着、「演神!!」『アクト・マルス!』閃光がほとばしり星児の姿が変わる!
「俺は…マスカレイダー・マルスだ!」
バイクを走らせ玲の言った怪物を探す星児達。と、忠光が空の一点を指さす!
その指さした先には翼をはやした人影が存在していた。
「あれか、今度の演神者は!」バイクを加速させその影を追いかける星児達!
するとその影は徐々に高度を下げて地上に降りようとしている。
「よし、地上に降りたらこっちのもんだぜ!」
そんな時、忠光の懐で携帯電話が鳴り出す。「この着信音は玲か?」慌てて電話に出る忠光。
『大変よ!空飛ぶ怪物が人を襲っているわ、間違いなく演神者よ…きゃあっ!?』
「玲!?」
「演神者が出たのか!なら俺の出番だな!!」そう言って駆け出し、バイクにまたがる星児。
「ま、待ってくれ、私も連れて行ってくれ!!」
後部シートに忠光を乗せ星児はバイクを走らせる!!
その頃、星児は忠光達とこれからどうするかについて話し合っていた。
「なあ、あいつらの秘密基地とかそんなのは無いのか?そこに行って俺がまとめて…」
「残念ながら心当たりはない。玲が調べてくれているのだが…」
「そっか、そりゃ残念だ。マスカレイダーの力を見せてやろうと思ってたのに」
「…前の君の戦いは見事だった。確かにあれは誰もが憧れるヒーローの姿だったと思うよ」
「へへっ、そう言われると照れるな」
「だが、過信し過ぎない方がいい。敵の中には千年以上も信仰された本物の”神”もいるのだから」
「…何が出てこようがマスカレイダーは無敵なんだよ」
その頃、どこともつかない闇の中、一つの黒い影が独り言をつぶやいていた。その影とは言うまでも無く”無貌”である。
「面白い「面白い」つまらない」そうかな?僕は楽しめたけど?」
「まさか「まさかあんな」あんな「ふざけた」方法でイフリートに勝つなんて思わなかったよ」
「「「マスカレイダー、お伽噺のヒーローを”演じる”なんて誰が予想できただろうか?」」」
「”無貌”様、次はこのグルル・ヤクシャに開演の許可をいただけないでしょうか?」
「いいの?「いいのかい?」イフリートみたいにやられちゃうかもしれないよ「うん、知れないね」?」
「ふ、このグルル・ヤクシャ、いや、神鳥ガルーダをイフリートなどと一緒にしないでください」
「いいよ「いいよ」許可するよ。「好きなように演じたまえ」神を演じる演神者としてね」
「ははっ」その次の瞬間、まばゆい光がほとばしり、天に昇って行った。
第五幕 「演技の幅」
イフリートが起こした火災の痕跡を調べる警察。その中に眼鏡を掛けた長身の若い刑事がいた。
「これほどの大火災なのに発火物の痕跡すら残っていない…それに消防隊の証言では消火のため中に入ろうとしたがまるで見えない壁がそこにあって先に進めなかったと言う…。」
そこに中年の刑事がやってきて声をかけてくる「平坂、どうだ、何か手掛かりは見つかったのか?」
「いえ、先輩。何も、何一つ手掛かりになるようなものはありませんでした」
「そうか、まったく最近はおかしな事件が起きるな。まあとりあえず後は鑑識に任せるとしよう」
「いえ、俺はもう少しだけ調べてみます。」「やれやれ、お前は本当によく働くな。そんなに頑張ってばかりじゃ身がもたないぞ?」「…すいません、でも、俺の気が済まないんです」
平坂と呼ばれた若い刑事は中年の刑事が警察署に戻るのを見送って再び現場を振り返る。
「明らかに異常な事件が、まるで人知を超えた何かによって引き起こされている、そんな気がする…」
今回の解説
マスカレイダー・マルスの世界でのマスカレイダーの定義は「都市伝説で語られる悪と戦うヒーロー」です。
フ○ーゼのノリですね。まああくまで都市伝説なんで実在するかどうかはわかりません。
ただ、今回勝利できたのはマスカレイダーの存在を強く信じている人間がいるおかげだったとだけ言っておきましょう。
その直後、周囲の炎が消え、他社を拒む”舞台”が消えたのを忠光と玲は感じ取った。
「信じられない…無茶苦茶すぎるわ」「いや、元々演神者の力に理屈をつけるのが間違っていたかもしれない」
忠光はマスカレイダー・マルスの姿を見て「人間を超えた力を持ち、世界をも動かすのが神や悪魔。だが、神話にはもう一種類、特別な存在がいる「特別な存在?」
「人間でありながら神や悪魔にすら立ち向かい、打ち勝つ存在。それは、英雄だ」
「英雄…」玲もまたマルスに視線を移す。確かに、そこには悪に決して屈しない、正義のヒーローの姿があった。
第四幕「役者の力量」 終演
爆発が収まるのを確認し、マルスの姿が無いのを確認するイフリート。「馬鹿な奴、ジャハンナムの炎に真っ向から…」
「そしてこれが、レイダー…キックだぁぁぁぁぁぁっ!!」次の瞬間、サッカーのボレーシュートのような体勢でからイフリートの顔面にマルスの、いや、マスカレイダー・マルスの渾身の蹴りが炸裂する!!
「そ、そんな…」キックの衝撃はイフリートの仮面全体に伝わり…粉々に砕け散った。
「そんなバカげた話に付き合っていられるか!食らえ!”ジャハンナムの炎”」両手を掲げ、巨大な炎の塊を作り出すイフリート。「ジャハンナム、すなわち地獄の炎!貴様のふざけた理屈ごと焼き尽くしてやる!!」
腕を振り下ろし炎の塊をマルス目がけて落とすイフリート。それに対しマルスは腰を深く落とし、まるで迎え撃つかのように拳を構える。いや、ように、ではなく、完全に迎え撃つつもりだ。
「見せてやるよ、これが必殺の…」落下する炎に向かって拳を振るうマルス。
「レイダー…、パンチッ!!」次の瞬間凄まじい爆発が起こる。目をつむり顔を背ける忠光と玲。
そう。今星児は、悪ある所に必ず現れ人々の自由と平和を守る無敵のヒーロー、マスカレイダーを”演じて”いる。
都市伝説で語り継がれ、信じる者からは正義の使者として、無敵の英雄として”崇拝”されているマスカレイダー。神も悪魔も実在しないかもしれない。だが、マスカレイダーは存在する。今、ここに!!
唖然とする忠光と玲。はっきり言って理屈になってない。いかに演神者と言えどそんな無茶な能力は無い。…しかしある一つの可能性に行き当たった。
「星児は今、マルス神ではなく、マスカレイダー・マルスを演じている?」
「たわいもない、このイフリートの火炎の直撃を受ければ…」勝利を確信しほくそ笑むイフリート。
「…へっ、効かねえなぁ」「何!?」
次の瞬間、その身を包んでいた炎を振り払いマルスが再び姿を現した。
「ばかな、我が炎に焼かれてまだ息があるのか!?」
「教えてやるぜ、マスカレイダーはなぁ…核爆弾の爆心地からでも余裕で生還するんだよ!」
「な、なんだその理屈は!?」
だが、ふと思い出した。そうだ。俺が今演じてるのはマルスでもアレスでもない。
「そうだ、俺は、マスカレイダー・マルスだ!!」そう叫ぶマルス。そこにイフリートの炎が直撃する!
「星児君!?」「星児!?」後ろで見ていた忠光と玲がそれを見て悲痛な叫びをあげる。
炎はマルスの全身に燃え広がり、完全に姿を覆い隠した。
その時、マルス、いや、星児の脳裏に前回の、ヘルメスとの戦いの記憶が思い浮かんだ。
あの時のタックルなら間合いを一気に詰めてイフリートにも肉薄できる。
問題は…あの時の自分は完全に暴力と闘争の神、アレスになりきっていた。
『役に熱中するのはいいけど熱くなりすぎなんだよね』オーディション落選の際毎回のように言われるこの言葉。もし完全にアレスになりきっていたらヘルメスの演神者は確実に死んでいる。おぼろげだがあの時の手答えが鮮明に蘇る。
「ふんっ」イフリートが腕を振るとその軌道上から炎が伸びる。
「うおっ、あぶねっ、人が決め台詞言ってる時に攻撃するんじゃねぇ!悪役の癖に!!」
とっさに反応し炎をかわしながら文句を言うマルス。
「貴様が主役?馬鹿め。貴様など我らの舞台を盛り上げるためのピエロにすぎんわ!」
そう言って再び炎を放つイフリート。
「くそっ、そっちは飛び道具があるのに俺は丸腰、不利じゃねえか」次々と回避しながらマルスはぼやく。
「なんか武器かなんか無いのかよ!?近寄れなかったら勝負にならねぇじゃねえか!」
まばゆい閃光と共にマルスの姿となった星児。
「出たなマルスの演神者。さあ、劇を始めるとしよう!」ジリリリリリリ…どこからともかく開演のベルが鳴る。
だが、「俺はただのマルスじゃねえ」「?」「俺はマスカレイダー・マルス!」「マスカレイダー!?」
「行くぜ、主役らしいところを見せてやる!!」
「マスカレイダー・マルス…。」「だから、俺にまた仮面を貸してくれ!」
「わかったわ。どういう意味か知らないけど、もう一度だけあなたを信じてみる」そう言って玲は星児のマルスの仮面を渡す。
そして、それを受け取った星児は仮面を被り叫ぶ「演神!!」
「星児、貴方なんで来たの!?」「もちろんあいつをやっつけるためだ」玲の言葉に迷いなく答える星児。
「…ダメよ。またアレスになりかねない貴方にマルスの仮面は預けられないわ」
「俺が演じるのはマルスじゃねぇ。」「え?」
「俺が演じるのは…マスカレイダー・マルスだ!」
そんな時、炎を突っ切り飛び出す一台のバイク!もちろん星児の乗ったバイクだ!
「やっぱり演神者の仕業だったか!」
「星児君!?」「星児!?」驚いて飛び出す忠光と玲。
「ほう、現れたな、マルスの演神者。俺はイフリート。アラビアの魔神を演じる者だ」自信たっぷりに振り返り堂々と名乗るイフリート。