灯 斗南はいたって無趣味な男だ。音楽にもオシャレにも部活動にも勉強にも興味がない。そんな彼だが毎週必ず欠かさず見ているのが特撮ヒーローもの、「マスカレイダー」シリーズである。元々は昭和に作られたマスカレイダーを平成になって復活させるとそのシリアスな展開と主人公ダイゴ役の俳優の熱演から人気沸騰、以降シリーズ化されている。
その時、マルス、いや、星児の脳裏に前回の、ヘルメスとの戦いの記憶が思い浮かんだ。
あの時のタックルなら間合いを一気に詰めてイフリートにも肉薄できる。
問題は…あの時の自分は完全に暴力と闘争の神、アレスになりきっていた。
『役に熱中するのはいいけど熱くなりすぎなんだよね』オーディション落選の際毎回のように言われるこの言葉。もし完全にアレスになりきっていたらヘルメスの演神者は確実に死んでいる。おぼろげだがあの時の手答えが鮮明に蘇る。