酷く荒れ果てた礼拝堂。
争いの跡が色濃く残されており
床には割れたステンドグラスの破片が散乱している。
教壇の下には隠し扉があり
そこから地下室へと降りられる様だ。
中央にぽつりと佇む薄汚れた天使像は
どこか泣いている様にも見える…。
寧々子さんを探しているの?
寧々子さんなら、さっき帰ってしまったけれど…。
私は花風冴来。寝子高校の二年生よ。
貴女ってもしかして…八千穂さん?
ぁ、え? あ、ありがとうございます。
貴女はここによくいらっしゃるんですか?それでしたら、もしかすると会ってるかもしれません。
探してるのは私の姉なのですが、木鈴寧々子といいます。
ご存じですか?
気にしないで。
ここにはそれを咎める人はいないから。
私の方こそ、驚かせてしまってごめんなさい。
探し人ね…。
良かったら私にも手伝わせてくれる?
丁度退屈していたところだし、いい暇つぶしになりそう。
わぁっ!ご、ごめんなさい!
す、すみません、勝手に入ったりしちゃって。
いえ、探し物というか…(キョロキョロ)
探し人というか…
いない、みたいです。お騒がせしました。
ん…。また誰か人が…。
…今日は迷える子羊が多い日なのね。
(私も含めて、と付け足し苦笑
こんにちは。
何か探しものでも?
あれ、こんなところに教会が…
姉様が言ってたところかな。
姉様は、いないみたい。(周りを見渡しながら)
誰の為に、か…。
ええ。さようなら、セルゲイさん。
貴方に天使様のご加護がありますように。
変わるのは誰の為に、そこから考えてみるト強い意志を持つのダロウカ
大事な人の為、自分だけの為、目的の為、人それぞれサ
ボクもそろそろ行くヨ、外が寒いだろうがココロが温まっタネ
(手袋をはめてまた出口へと歩いて行く)
人は変われる、か…。
そういう強い意志が、私にもあるといいのだけど。
(立ち去る寧々子さんを小さく手を振って見送りながら
「人は変われる」
ボクは、ヒトは自ら意思を持って変われると思いマス
あらかじめアル意識や思想を転換するには強い意思が必要ダ。
自分の心は自分ダケの物サ、心から変わりたいと思えばコソ。
ンフ、アリガトウゴザイマス、デモ、ソレハ差し上げますヨ。
ハンカチ一枚で足りない程ノ思い出を聞いたので、感動していマス
お近づきのシルシだと思って頂ければ。ソレデハ、また何処かデ。
(出て行く入り口の方へ手を振り返す)
今の仕事に慣れてきたらまた寄るわね。(微笑み)
じゃあ、セルゲイくんも またね。
ハンカチも洗って返すわね。
(教会の出入り口の付近で軽く手を振り、立ち去る)
それはまた…。
我儘な人、だったのかしら…。(少し悩み
そうね…。
私は変われると思うわ。
全てを変えるには根を掘り返す必要がありそうだけれど。
お疲れ様、寧々子さん。
またね。
色んな言葉があるものね、”人は変われる”だったり”人の根っこは変わらない”
だったり。
二人はどう思うかしら。
さ、て、と。
じゃあ、私はこれで失礼するわね。明日の仕事の打ち合わせもあるし。
素敵かどうかって言われるとどうかしらね…(苦笑)
ちょっと必要以上に周りに厳しい方だったから。
”嫌われる上司役”なんてものを買って出る、という風でもなかったようだし。
自分の意見は曲げなかったし、嫌いな食べ物は見もしようとしなかったし、手伝おう
としたら怒るし、手伝わなくても怒るし…(再び思い出すように目を閉じる)
色んな意味ですごい人だったのよねぇ。
(目を開け) でも、情はあったのね。私が気付かなかっただけで。
死に目に会えなかったのは…(マイナス思考を中断するため、頭を軽く振る)
今回のことで思ったのだけど、自分が笑うために努力しているつもりのことが、他人
の為にはならないってこともあるわね。
お祖母様、素敵な方だったのね…。
泣いたって大丈夫。
ここにはそれを馬鹿にしたり、笑ったりする人もいないもの。
笑う為の努力はしているのだけど
それに疲れている感じが、ね…。
こう考えると、前と何も変わっていないわ。
人が変わるのは難しいものね…。
(苦笑して
ありがとう。(ハンカチーフを受け取り)
そうね、あとは普段から笑う為の努力をしているか、というのもあるかもね。
後悔ばかりの人生じゃ笑う機会もないからね。
(目を潤ませて話に耳を傾けながら)
とても立派なヒトだったんダネ、おばあサマ。
誰かを想って泣く事は恥ずかしくないデスヨ
ヨかったらコレ、使ってクダサイ
(木鈴さんにそっと折りたたまれたハンカチーフを差し出し)
ソウソウ、笑いについてお話していたヨ
サキサンはサキサンなりの幸せに微笑んでいればイイノサ
当たり前ダガ、ヒトはいつ泣く事になるかわからない
笑える時ニ、笑わないと人生ハあっという間に通り過ぎてしまうカラネ
(ハッと気づいたように、指で涙を拭いながら)
ごめんね、二人とも。なんか心の整頓がつき切れてなかったみたい。
ていうか恥ずかしぃッ、年長者がこんな、あぁ、あかん! 見んといてッ
(照れ隠しに方言を使いつつ、左手で顔を隠し、右手をパタパタと振る、すこし落ち着いてから)
冴来ちゃんにセルゲイくん
…セルゲイくんかぁ…(まだ年下であることに少し違和感を感じつつ)
ありがとね。
ところで二人はなんだか難しい話をしてるのね?笑いの効能について話してるの?
えぇ、まぁ…八千穂とのケンカの原因とも呼べたおばあ様なんだけど…
(思うことがあるように沈黙の後)
若くして亡くなったおじい様の会社を継いで、さらに大きくして。家政婦さんも雇わずお父様をひとり
で育てて、退いた後も影響力のすごい人だった。
恐れに近い尊敬もあったわ。
(教会の窓へ視線をやると)
あの人、遺言書なんて用意してて…
そこには私や八千穂の名前があって、遺産の分配がされる旨が書かれてたの…
全くないわけじゃないけど、結構珍しいケースらしくって。
おばあ様が懇意にしていたっていう弁護士の方が
「お孫さまも大切にされてたんですね」
って言われたとき、八千穂より私が泣けてきちゃって。妹のほうが分かってたらしいの。
「おばあ様にはよくして頂いてます」
あんなの社交辞令じみたものだと思ってたのに。
(顔は笑っているが涙がこぼれ始め)
私が勝手に恐れて、反発したりして、屋敷を出て行ったまま声も聞かせず…
子供だったのは、私ひとり? 馬鹿みたい…
おばあ様は亡くなる前、どんな気持ちだっただろう…
仲直りできたの?よかった。
ああ…でも…。
そう…お祖母様が…。
そうね…。いつまでも若くいたいものだわ。
子供でなくなるとネバーランドにいけなくなるし。