隣接する道場「仙狸館」の稽古場。
過去には門下生で賑わっていたこともあったが、今は昔
現在の利用者はほぼ一人。
一応申請次第で開放されてはいるがその事実を知る者は少ない。
〜〜♪
(新品っぽい雑巾モップを使い、鼻歌交じりに床の雑巾掛けをしている)
……ふ。……お互い、無茶は……できませんね。
…紘爺……の心配性も、もう少し……治ってくれればいいんですが。
(立ち去ろうとする獅子島さんの方を見て)
……はい。
……また、いつでも……来てください。紘爺も、俺も……待ってます。
それと…………お体に、気をつけて。
(微かに笑みを浮かべ、一礼)
(からだ丸めてぐるんと後転。さかさまになって視界に源が入ったところでぴたり)
…ム?
そんなコトあるだろ?見ろこのシリを。去年より3cmは増えてっし。明らかに。
つーか最近アチコチたぷたぷだけど。オマケに他人にカラダ貸したりしたから…
(ぐるんと後転続行、慣性で立ち上がる)…っとと(よたよた)やっぱ曲がった。
ミョーなクセついてんだよね。ナニカと左っ側によりやすくて(首コキコキ)
だしホントはあたしも「紘爺」に診て貰わねーといけねんだけど。叱られそーだし。
「無茶しやがって、なんかあったらトシコちゃんに顔向けできねぇだろうが」って。
…はは。源と一緒だ。
つーーーワケで。今日のトコロは(ててっと勝手口に戻り)見つかる前に逃げっし。
…おお。(置いた袋を指さし)ソレな。モンブラン。あと爺サマ用に小粋もあっしテキトーに。
(首に当てていた手を下ろし)
……はい、今はもう……何とも……
……紘j……爺さんには、こってり……絞られましたが……。
(頬ひげを掻きつつ、唇の端に僅かな笑みを浮かべる)
("私闘"という言葉を聞いて)
む…………猛省します。
……確かに、この間のは……稽古と言うには少し……無茶し過ぎたかもしれません。
……次からは……グローブと……ヘッドギアでも……
(微妙に見当違いなことを呟き、顎に手を当てる)
(獅子島さんの呟きを聞いて)
…………む…そんなことは無いと…
……………あ……いや、なんでもないです。
(「しー」っと指を立てて、気づかれたくないのか母屋の方をちらり)
……………。ドーイタシマシテ(ぷいっとして袋を壁際に置き)
ンなコトよりダイジョブかカラダ。ドコやられたのか知んねーけど。
(そっぽ向いたまま、拭き取られたばかりの綺麗な床を早速のたのた)
…ったくヘタに私闘なんぞ付き合ってぶっこわれたらどーすんだ。
まー爺サマ居っし悪いよーにゃなるめーが…皆伝したばっかなんだろ。
あんまさ。無茶すんなよ…っと!(前屈から倒立。しばらく維持)
………。…………………。
…っ(背面からずだんと着地)あでっ(のつもりが、べちゃっと尻もち)
いっつ…明らかにニク増えてんな…(尻をさすりながらブツクサ…)
!(背後の声と物音に気付き、雑巾がけを中断して振り返る)
……市子さん。
(振り返った先に獅子島さんの姿を認め、無表情の端に微かな安堵と喜びを浮かべる)
…………っ、……。
(数拍置いたのち、稽古場での出来事を思い出してばつが悪そうな表情に変わり)
……その、先日は差入れ……どうも。
(軽く頭を下げ、きまりが悪そうに首を掻く)
……………。
(ズタ袋とコンビニ袋を肩から吊り下げて、しばらく外で雑巾がけを眺めて。
源が通り過ぎたのを見計らって、足音を忍ばせ道場に上がりこむ…)
(ガサ)あ。(…がコンビニ袋が背中ですべってうっかり声をあげてしまう)
……。
(首の痛みを気にしつつ、黙々と雑巾をかけている。)
ーー……
(一連の動作を終え、身体は慣性に従いそのまま前のめりに倒れ始める
先方が繰り出した必殺の手刀は確実に急所を捉えており、その巨体に最早意識は存在しなかった。)
…………
(意識を刈り取られ主人の制御を失った巨体は、どしんと派手な音を立て遂に倒れ伏した。)
(獲った。必殺の手応えに全身が狂喜する。
――瞬間、世界が反転した。
思考より先に理解する。ああ、どうやら自分は投げられたらしい。
廻る視界はさながらジェットコースター。一秒未満の無重力体験。
そしてレールの無い自由落下の先には、当然墜落が待っていて――)
かッ、ハ――――…
(声も出ない。全身を強かに打ちつけ、肺から根こそぎ空気を持っていかれる。
衝撃と酸欠によって意識は断絶し、薄く笑みを浮かべたままに気を失った)
(往なしから投げの動作へ移行する瞬間、ぞくりとした感覚が身体を走った。
かつてない程に研ぎ澄ませた感覚が最大級の危険を察知し、本能が全力で警鐘を告げる。
しかしそれでも尚、止まらず――否、止めずに
積み上げた武への信念が警鐘を捻じ伏せ、愚直なまでに技の完遂を求める。)
……――シィッッ!
(投げ切る。その一念で一気に腰を跳ね上げる。)
(最良の間合い、最良の動作、最良のタイミングで放った自身最良の一撃。
それすらも眼前の男は完璧に合せてみせた。……そう、合わせてくれると信じていた)
―――ヅァッッ!!
(水月を狙い打ち込んだ拳、その影に隠れた必殺の一撃が発動する。
本来ならば後ろに引かれている筈のもう片腕。それが先の一撃を追う様に飛来する。
打ち込む瞬間を半呼吸だけずらす事により、ほんの一刹那のみ認識から消失する双手打ち。
手刀の形をとった不可知の凶手が、往なしの動作に入った相手の頸中目掛け襲い掛かる)
(垂れる涎を一顧だにせず、見に徹する。)
ーーッ
(五感が動きを認識し、先方の挙動に呼応するように少し遅れて動きを見せる
極限の状況の中、見の静から一転、動に転じる。
思考を挟む余地も無く身体が選ぶのは受け流しから背負い
拳を往なし、勢い其のままに投げに転ずる基本の型。)
(構えらしい構えも無く、ただただ雲の上を往くように歩を進める。
間合いは疾うに至近。互いに手を伸ばせば届く距離。
常人ならば失神しかねない暴力的な静謐の中、目の前の男が選ぶは「見」の一手。
本当に得難い相手だ、と思う。刹那、あらゆる思考が脳内を過ぎ去り――消えた)
―――いざ、勝負。
(宣言と同時、無形の位のまま更に一歩。身体と身体がぶつかる寸前まで踏み込む。
歩を進める事で半身となった瞬間、下げられていた拳は既に相手の水月に飛んでいる――)
……っ
(空気が一層張り詰めたのを肌で感じ、またも思わず笑みを零しかける。)
……。
(対峙者が一歩踏み出すと、同時にその表情ーーともすると感情さえーー失せ果てる。
恐れも、高揚も、歓喜も。もはやこの場においては不純だと切り捨てる。
生まれてから現在に至るまで鍛錬に鍛錬を重ねて来た“業”、そして“技”。それを示すことが出来れば、後は何も要らない。
この場において小細工など弄せる筈も無い。
一歩、また一歩と踏み出し間合いを詰めて来る動作
その一挙一動をただ「見る」)
程度の差はあれ武に身を置くヤツなんざ皆我が儘さ。
結局ん所「俺が一番強いんだ」ってのを証明したい。
きっと幾つになってもそれを諦めきれないクソガキなんだぜ、俺たちは。
(そう言って薄い笑みを浮かべる。常とは違う、邪気の無い純粋な笑み)
が、相手の様子を受けて直ぐに笑みは消える。
替わりに浮かぶのは、極限まで集中した武術家の相)
応、そろそろ決着つけるかい。
――だが、心しろ。次の一撃に「入り」は無ぇ。
こいつを見切られたら完全に俺の負け、それ位の「とっておき」だ。
(緩やかに一歩踏み出す。此方も構えは「無形」、奇しくも鏡合わせの如き対峙。
そのまま無造作に歩を進める。初撃の交差と比べると一見気楽にも映る接近。
しかし一歩毎に高まる緊迫はその比ではなく、張り詰めた糸の上を往くような幻視さえ覚える。
必殺の間合いまであと二歩……、一歩……)
あーあ。つき合ってられんし。バイト行こ。
(食べかすをしまって立ち上がり。てしてし尻を払って。ズタ袋を引っ提げて)
……………。
(入り口にスポーツドリンクの2リットルボトルを2本。
2人の邪魔にならないように。気づかれないように。そーっと置いて。
片方のキャップにペタリ、メモ紙を貼っつけ、そそくさ立ち去る。
メモの内容は…あっかんべーをした猫の絵から大きなフキダシが伸びていて、
「一生ヤッテロ」
と。枠を最大限活用した、しかも非常に丁寧な文字で綴られている)
…ちぇ。
(少し間ののち、言葉に納得したようにゆっくりと頷く)
ふ……確かにな……
相手無くして……武は「武」足り得ん……ということか。
守る力も否定はしないが……それではあまり楽しむことはできんからな……。
……人を傷つける気は無いが、負ける気も無い。……当然「勝ちたい」さ。
……俺は結構我儘なのかもしれんな。
……さて
これ以上の言葉は無粋……か。
(正面に対峙する相手を見据え、緩く脱力した「無構え」で迎える)
瘤ねェ。こっちは素ッ首持ってくつもりだったんだが、いやはや。
(軽い調子で肩をすくめて見せるも、額からタラリと汗が一筋)
咄嗟に……まあ、そんなもんだよな。
十ウン年もアホみてーに毎日毎日武術やってきてんだ
それこそ身体に叩き込むって具合によ。
ヤベーと思えば身体が勝手に「動いちまう」。自然なこった。
(そして。そういう手合いは皆、例に洩れず達人だ。打ち倒すのは容易ではない。
その事実に脅威と狂喜を同時に覚える。己の渾身の一撃を受けてなお倒れない相手がいるという歓喜。
この強い男にもっともっと自分の空手をぶつけてみたい。
衝動は信号となって肉体を支配し、ただ「戦う」ための装置へと研ぎ澄まされてゆく)
(相手の漏らした言葉にニィ、と口の端を歪めて)
そうだ。誰かを守るためだの精神修養だのと綺麗事を並べたところで
結局は「倒すべき相手」あってこその武だ。もっと言うなら「勝つため」の、な。
俺はお前に是が非でも勝ちたい。そっちはどうだい?
もし同じ気持ちだってんなら――
(クイクイ、と掌を上に向けて手招く。
かかってこい。お前の全てをさらけ出せ。挑発的な、それでいて焦がれる様な視線が言外に語る)
ホレ見ろ(もぐもぐ)
あの優しい源がたった二合で(ゴクン)…「男」になっちまった(ぷはーっ)
………恨むぜ。鳴神。