隣接する道場「仙狸館」の稽古場。
過去には門下生で賑わっていたこともあったが、今は昔
現在の利用者はほぼ一人。
一応申請次第で開放されてはいるがその事実を知る者は少ない。
瘤ねェ。こっちは素ッ首持ってくつもりだったんだが、いやはや。
(軽い調子で肩をすくめて見せるも、額からタラリと汗が一筋)
咄嗟に……まあ、そんなもんだよな。
十ウン年もアホみてーに毎日毎日武術やってきてんだ
それこそ身体に叩き込むって具合によ。
ヤベーと思えば身体が勝手に「動いちまう」。自然なこった。
(そして。そういう手合いは皆、例に洩れず達人だ。打ち倒すのは容易ではない。
その事実に脅威と狂喜を同時に覚える。己の渾身の一撃を受けてなお倒れない相手がいるという歓喜。
この強い男にもっともっと自分の空手をぶつけてみたい。
衝動は信号となって肉体を支配し、ただ「戦う」ための装置へと研ぎ澄まされてゆく)
(相手の漏らした言葉にニィ、と口の端を歪めて)
そうだ。誰かを守るためだの精神修養だのと綺麗事を並べたところで
結局は「倒すべき相手」あってこその武だ。もっと言うなら「勝つため」の、な。
俺はお前に是が非でも勝ちたい。そっちはどうだい?
もし同じ気持ちだってんなら――
(クイクイ、と掌を上に向けて手招く。
かかってこい。お前の全てをさらけ出せ。挑発的な、それでいて焦がれる様な視線が言外に語る)