隣接する道場「仙狸館」の稽古場。
過去には門下生で賑わっていたこともあったが、今は昔
現在の利用者はほぼ一人。
一応申請次第で開放されてはいるがその事実を知る者は少ない。
程度の差はあれ武に身を置くヤツなんざ皆我が儘さ。
結局ん所「俺が一番強いんだ」ってのを証明したい。
きっと幾つになってもそれを諦めきれないクソガキなんだぜ、俺たちは。
(そう言って薄い笑みを浮かべる。常とは違う、邪気の無い純粋な笑み)
が、相手の様子を受けて直ぐに笑みは消える。
替わりに浮かぶのは、極限まで集中した武術家の相)
応、そろそろ決着つけるかい。
――だが、心しろ。次の一撃に「入り」は無ぇ。
こいつを見切られたら完全に俺の負け、それ位の「とっておき」だ。
(緩やかに一歩踏み出す。此方も構えは「無形」、奇しくも鏡合わせの如き対峙。
そのまま無造作に歩を進める。初撃の交差と比べると一見気楽にも映る接近。
しかし一歩毎に高まる緊迫はその比ではなく、張り詰めた糸の上を往くような幻視さえ覚える。
必殺の間合いまであと二歩……、一歩……)