隣接する道場「仙狸館」の稽古場。
過去には門下生で賑わっていたこともあったが、今は昔
現在の利用者はほぼ一人。
一応申請次第で開放されてはいるがその事実を知る者は少ない。
(構えらしい構えも無く、ただただ雲の上を往くように歩を進める。
間合いは疾うに至近。互いに手を伸ばせば届く距離。
常人ならば失神しかねない暴力的な静謐の中、目の前の男が選ぶは「見」の一手。
本当に得難い相手だ、と思う。刹那、あらゆる思考が脳内を過ぎ去り――消えた)
―――いざ、勝負。
(宣言と同時、無形の位のまま更に一歩。身体と身体がぶつかる寸前まで踏み込む。
歩を進める事で半身となった瞬間、下げられていた拳は既に相手の水月に飛んでいる――)