授業風景～倫理の時間の場合～｜リアクション

授業風景～倫理の時間の場合～

＜御剣刀の場合＞

　御剣は今回の発表は、自分の考えを固める良い機会だと思った。
（感じた事、考えた事、決めた事をハッキリさせよう）
　壇上に昇った御剣は、真っ先に半紙を掲げた。

【活人剣】

「何故人を殺してはいけないのか？　それは全ての人が死ぬ事が怖い事だと知っているから。十文字と一緒だ。そして、大多数の人が生きる事は尊い事だと感じているから、それを奪う殺すという行為が悪い事だと思っているからではないでしょうか？」
　御剣は唐突に木刀を持つような構えをとった。
「俺は剣士です。人を殺すために生み出された刀、それを振るうための剣術ですが、そこから活人剣という言葉が生まれた事がその証左ではないでしょうか？　俺はこの言葉を胸に、これからも精進していきます」
　これで発表は終わり、かと思いきや？
「……実は、半紙には書かなかったが、活人剣と対になる言葉がある」
　それを黒板に御剣は書き出した。

【殺人刀】

「刀は人を殺す為の道具、人斬り包丁だ。その本質を外す事はできない。だが剣術には『壱の悪を殺して萬の人を生かす、人を殺す刀は人を生かす剣であるべきだ、刀で人を斬るならそれを内包させないといけない』という考え方があるんだ」
　御剣は背筋を伸ばし、凛とした態度で言葉を発した。
「もう一度、立ち戻ってみましょう。何故、人を殺してはいけないのか？　そんなもの簡単な理由なんだ。嫌だから、気持ち悪いからだ。だがその感情を黒く塗り潰す感情が湧きあがった時、人はそのやってはいけない事を行なってしまう」
　御剣は握り拳を掲げて締め括る。
「俺の中にあるのは大切なものを傷付けられた怒りと、大切なものを失うかもしれない恐怖だ。俺は殺人刀をとろう、怒りを満たし恐怖を殺すために。そして活人剣を振るおう、俺の大切なものを俺のフツウを守るために」
　壇上で一礼をする御剣を、温かい拍手が迎えた。