授業風景～倫理の時間の場合～｜リアクション

授業風景～倫理の時間の場合～

＜八神修の場合＞

　八神は迷わず半紙に【人権】と書した。
「人は植物や動物等の命を奪い食べる事でしか命を維持していけない。本来もっと長く活動していられる命……、奪うのは罪だ。たとえ本人の希望であってもだ」
　八神は身振り手振りを加えながら、さながら演説のように発表を続ける。
「命は尊い。そして奪った命は還らない。人はそれらの罪の上に存在し、生きている。……生かされている、とも言える」
　そして彼は受講者の中で最も『模範的回答』を論ずる。
「犯さずに犯されずに、平和で安全な社会で互いを尊重して生きようとする規範の共通認識。そして人は社会的な生き物として、理性を持って、殺してはならないというその道徳を尊重している。法学において重い法益に殺人が位置している事もそれと無関係ではない。剥奪されたり制限されてはならない憲法三大原則の１つ、人権の土台だ」
　黒板に八神は基本的人権の仕組みを図式で解説したのち、こうも付け足した。
「勿論、ただ法で決められているから殺してならないわけではない。殺人が、人が基本的に持ち犯されざるべき人権を最も損なわせる行為だからだ」
　一礼をして発表を終える八神。
　だが、彼の内心は悶々としていた……。

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