授業風景～倫理の時間の場合～｜リアクション

授業風景～倫理の時間の場合～

＜風雲児轟の場合＞
『人を殺してはならないと考える理由』
　→誰かを泣かせる行為だから

『その理由を端的に表した言葉』
　→【涙】

　風雲児は壇上に登ると、腹の底から大声を出した。
「みんな！　元気出してこうぜ！」
　突然の呼び掛けに受講者達は驚き、背筋を思わず伸ばした。
「驚かせて悪い！　でも重い空気で聞いてもらうより、気楽に俺の発表は聞いてくれよな！」
　白い歯を見せながらニカッと笑う風雲児。
　早速、半紙を掲げながら、自身の発表を始めた。
「俺もそんなに人生長く生きてるわけじゃないけど、それでも人は１人じゃ生きていけないってのは分かってるつもりだ。だからこそ、人は誰かとどこかで繋がってる。そしてその繋がりの分だけ人との色んな絆がある！　その相手を友達と呼ぶか、恋人と呼ぶか、家族と呼ぶかは人それぞれだけど、どれをとっても大切なもんなのは間違いない。皆にだってそういう相手はいるだろ？」
　全員ではないが、大半の受講者達は頷いてみせた。
「ちなみに俺にとっては、この学校……この島にいる皆だな！」
　胸を張って風雲児は言い切った。
「風雲児さんは、将来、スーツアクターを目指していると担任の浅井先生から聞いていますよ」
　中野先生は、受講者の事を理解しようと様々な努力を影ながら行っている。
　１年10組の浅井幸太先生に風雲児の事を尋ねたのも、その一環だ。
　これには風雲児、目を瞬かせて驚いていた。
「マジかよ？　先生は何でも知ってるんだな！？」
「いえいえ、私が理解している範囲のみの知識ですよ」
　中野先生は力なく笑った。
「そういうもんなのか……。おっと、発表に戻るぜ！」
　気を取り直して、風雲児は続行した。
「そんな大切な絆を繋いだ相手が、もし誰かに殺されたなんてなったら、ものすげぇ悲しくなると思わないか？　んでもって、そいつをものすげぇ恨んだりすると思わないか？　そんな思いを誰かに与えてほしくないし、与えたくもない。だから俺は、人を殺しちゃならねえと思ってる」
　ただ、と風雲児は言葉を継ぎ足した。
「……戦争の事とか犯罪者がどうなんだとか突っ込みどころは満載だろうけど、これが俺の考えだ。もし誰かを泣かせたり殺す事をなんとも思わないなんて奴がいたとしたら……」
　風雲児はヒーローのように爽やかに微笑みながら訴えた。
「そいつはまず、『命の重み』を本当の意味で理解するところからはじめてほしいな！」
　熱い彼の発表は、教室の体感温度を３度ほど上昇させた。