●金曜：夕方

　芽守 健作から特設ステージに来てほしいと連絡を受けた宮島 メグは、その前に神野文房具店に立ち寄った。
「いらっしゃい」
　店番をしていた神野 マキナも、健作から連絡を受けたので特設ステージに行くところだったが、お客さんを放っておけないと対応する。
「白色の絵の具ください。サンマさんを守るために使うんです」
「サンマさんを？　きみも、探偵さんのお手伝い？」
「めもめもさん、知ってるの……？」
　ぽわわんとした雰囲気のメグが協力者だとわかると、白の絵の具を手渡し、代金を受け取ってから一緒に行こうと誘った。
「飴、舐める？」
「ありがとう……いちご味ちょうだい……」

●金曜夕方：野外特設ステージ

　健作を中心に、スタッフ希望者はスタッフチーフ、ももシロのマネージャーを交えて打ち合わせを。
　夢宮 瑠奈は、首元あたりが穴が開いていて、顔が出るタイプのサンマさんの着ぐるみを借りて寝子島アピールマスコット的なライブ司会を希望。
　可愛いスタイルが見えないのは勿体無いと反対されたが、着ぐるみの上の部分に隠しカメラを仕込み、警備室で待機する双葉 仄にカメラの画像を分析してほしいから、これでないと、と必死に頼んだ。
「わかった。君のしたいようにやってくれ」
「ありがとうございます」
「助かったよ、瑠奈。私は、ダクトや防犯カメラなどの位置を確認しに行ってくる」
　スタッフに案内してもらい、仄は警備室、ダクトの場所をひとつ残らず確認。
「ボクは、警備員枠としてお願い。いつでもガードに入れるようにねー」
「俺も、警備員枠で頼む」
　桜庭 円と御剣 刀は、お互いに連絡を取り合いながら、気になった人物がいないか警戒するため警備を希望。
「私は、ももシロの到着、入場から待ち構え、ももシロとサンマさんを誘導しつつファンからガードします。裏から入場するとはいえ、ファンは到着するところを見たいものです」
　間近に見られるチャンスと期待する檜扇 舞華は、入場時のガードを志願。
「私は舞台裏を。ももシロやサンマ氏に提供される飲食物や衣装をチェックして、異常が無いか確認してから渡したい。ファンからの荷物もチェックしておく必要がある。危険物が紛れ込んでいるだろうから」
　危害が及ぶかもと考えた旅鴉 月詠は、サンマさんやももシロ達が口にするもの、衣装、荷物を調べることに。
「俺はスタッフに化けて潜入させてもらおうかね。設営手伝い、雑用が主な仕事だ。へばったらフォロー頼む」
　かったるげなジニー・劉だが、いざという時は、サンマさんの着ぐるみを着て替え玉になるつもりでいる。
「はじめましてー。私、かげちゃんの従姉妹のめぐです……。かげちゃん、今日はお店があるから来られないって……」
　荒井 景貴から話を聞いているが、実際に会うのはこれが初めてのメグが挨拶する。
「お、おう……」
　ぽわわん、掴み所が無いメグは苦手なタイプなので、少し距離を置く。
「私は、サンマさんの付き人として舞台袖で待機を。その間、皆さんが得た情報を纏めながら、人のやり繰りを行います。刻人さん、手伝ってください」
「良いですよ。サンマさんのことをもっと知りたいですし。サンマさんに万一のことがあったら、寝子島が大変な事になります。僕なんかでよかったら、盾代わりに使ってください」
　観光大使が地元の人間を盾にするとか？　と笑えるが、それを我慢する刻人と健作は、サンマさんの付き人としてライブ中の行動を窺うことに。
　健作に至っては、協力者達を纏めたり、情報伝達、移動させたりしなければならないので人一倍忙しい。
「ぼくも、サンマさんに付き添いたいな。緊張をほぐすために、サンマさんにお菓子をあげたいし…って、食べられるのかな？」
　上向きの口から放り込めば良いか、と思いつつ、マキナも付き人を希望した。

　皆がそれぞれの担当を話し合っている頃、八神 修はイベント主催者とマネージャーに、ももシロに危険が迫ると必死に説明していた。
「貴社の……いや、日本の大切な宝に何かあったら大変です！　どうにかして、俺を出演させてください！」
「そう言われてもねえ」
　困るマネージャーだったが、良く見ると、修の顔立ちが脱退した元メンバーに似ていることに気づいた。
「君、女装、大丈夫？　細身で女顔だから、遠目には男だと分からないと思うけど。脱退と同時に引退した元ももシロの子、知ってる？」
　仄同様、修も、かつてももシロが６人だったことを知っていた。
　元メンバーの身長は１６５センチ。若干の身長差はあるが、変装できないことはない。
「はい、大丈夫です。それが何か？」
「初期メンバー復活を、サプライズで行いたいと思いまして。彼を元メンバーに変装させて。主催者さん、チーフさん、よろしいでしょうか？」
「そうだな……。熱狂的なファンがいれば、思いもよらないサプライズになるな。面白そうだからやってみるか」
　賛同したチーフは、スタッフに至急、サプライズライブの看板とチラシを作成するよう命じた。
「ありがとうございます！　声は変えられないので歌は口パクですが、振り付けは暗記します！」
　修の変装計画は失敗かと思われたが、思わぬマネージャーの機転で成功したのだった。

　景貴以外の担当が決まったので解散、というところで、どこから入って来たのか２人の乱入者が。
「サンマさんの話は聞かせてもらった！　敵さんがスタッフとして入り込む可能性があるかもなので、スタッフとして潜入じゃ～！」
「ウサギさんは私がお守りします！」
　声高に宣言したのは、メアリ・ラングストン、別荘を抜け出した久良木 優菜だった。
「頼もしいですね。では、あなた達にもお願いしましょう。人数、増えすが大丈夫ですか？」
「警備と舞台裏での監視ならな。そこの２人、志願したからにはちゃんと働いてもらうぞ。それと、探偵さんに感謝すること」
　チーフの計らいで、スタッフとして潜りこめた２人は喜んだ後、健作に頭を下げてお礼を言った。

●金曜：夜

　ゼシカ・ホーエンハイムは、寝子島シーサイドタウン駅のスーパーに向かうサンマさんを尾行していた。
「シスター服が闇に紛れるので調査しやすいと思っていましたのに、これでは、目立ってしまいますわ」
　サンマさんがスーパーに来たのは、調査で疲れている芽守 健作に食料を差し入れするためだ。
　例の視線は相変らずだが、頼もしい協力者達のおかげで、多少、堂々と歩けるように。
　その間、ゼシカは何度か不審がられたが「聖書の訪問販売と布教活動をしているのです」と言い切って切り抜けてきた。
「聖書を持ち歩いていて良かったです。サンマさんは、一体何を食べているのでしょうか？　プランクトンが主食かと存じますが、寝子野家の寝子島丼だったりするのでしょうか？」
　サンマさんの私生活、特に、食生活が気になるようだ。

　サンマさんがスーパーに入った時、黒猫を抱いたサングラスをかけた黒のロングヘアの女性が後をつけようとしたので声をかけた。
「ここは、ペットを連れて入ることはできませんわよ」
　刺激しないよう優しく声をかけるが、黒猫は、女性の腕から抜け出そうと暴れている。良く見ると、金色の瞳はかなり鋭い、というか、目つきが悪い。
「私は星ヶ丘教会のシスター、ゼシカ・ホーエンハイムと申します。よろしければ、私とお話しませんか？」
　黒猫を宥める女性をリラックスさせようと、できるだけ優しく接する。
「貴女は神を信じますか？　何かお悩みを抱えているなら、是非、星ヶ丘教会へ。ご相談に乗りますわよ」
　それに対し、女性は無言で頭を下げ、走って去って行った。
「他人に話せない事情がおありのようですね。助手さんにお知らせしましょう」

　黒猫を抱いた女性の話を聞いた健作は、その人が犯人かもしれないと言った。
「どういうことですの？」
「その猫、あるいは、彼女自身が視線を送っているのかもしれません。今のところ、サンマさんにも、ももシロにも危害が無いですが、油断はできません。ご苦労様でした、シスター」