【星幽塔】第一階層　サジタリオ城攻略戦｜リアクション

【星幽塔】第一階層　サジタリオ城攻略戦

【竜の弱点を探せ】

　そうして、サジタリオ城奪還計画はいよいよ大詰めの状況となってきていた。
「あの竜、たぶん強いよ！　みんな、気をつけて！　怪我をした人は無理をせずに、いったん下がって私のところへ！」
　十文字若菜が、ひしひしと伝わってくる竜の気迫に負けじと、大声で仲間に回復を呼びかける。
　その声に、正門からフルスロットルで戦い続けていて若干の手傷を負っている一部の仲間達――エヴァ・ブランシェ、尾鎌蛇那伊、如月庚などが若菜のもとへ駆けつける。
「よし、それじゃ回復するね！」
　若菜は目を閉じ、手の甲の宝石に宿った星の力（癒し）を使った。
　彼女の回復行動により、仲間達は再び派手に暴れまわることができるようになる。
「あたしは火球で雑魚を蹴散らし続けるわ！　さあ、次のダンスのお相手は誰かしら！」
　エヴァ・ブランシェは二対の大鉄扇を駆使して、魔物達を相手に華麗なダンスを踊り続ける。
「ほらほら、邪魔者はおどきなさい！　あたしの鉄球は風の力のおまけつきで、当たるとただじゃすまないわよ？」
　尾鎌蛇那伊も鎖つきの鉄球をフルスイングし、そこに魔風による風の力を付与して、魔物を寄せ付けないようにし、竜へ攻撃に向かうメンバーの花道をつくるように心がけている。
「……でけぇな。だが、やることは変わらねぇ。屋敷野の援護を頼む」
　如月庚は特に感慨を抱く様子もなく、普段通りに淡々と目標達成に向けて行動を開始する。
「はいはーい。でも、あの鱗とおっきな火の玉はちょっと厄介っぽいですよー？」
「だろうな。つっても、ここで悩んでいても始まらん。火を吐くということは腹の中に何か燃料を貯め込んでいるのかもしれん。そいつに賭けて、《蒼穹》の貫手で引火を狙う……！」
　言いながら、庚は左手に嵌めていた星の力が実体化したリングを右手に嵌め直して、竜に向かって走る。
　道中、ゴブリンの弓や魔法が行く手を阻むこともあったが、そこは追走する梢が《胡蝶の詩》の進化能力でそれらを蝶に変化させて邪魔をさせないように援護する。
「……よし、《蒼穹》の射程内に入った。このまま一気に……っ！？」
　庚が右手で額の傷をなぞったのとほぼ同時に、竜の巨大な丸太のような尻尾が側面から庚に叩きつけられた。庚の身体が大きく後方まで吹っ飛ばされる。
「……如月くんっ！？　くっ……、そっちがその気なら、こっちもその気ですよー！」
　梢がクレイモアを構えて、《胡蝶の詩》で蝶に変身。
　蝶化した他の物質に紛れ込みながら、三次元的な動きで、敵の攻撃をかいくぐり、竜の懐に接近を試みる。
（……竜の弱点といえば、逆鱗ですよねー。つまり顎の下――如月君の仇、取りに行きますよ！　別に死んでませんけど！）
　冗談めかしていいつつ、梢はわりと本気で弱点を狙いに行っていた。
（ん、なんか微妙に色の違う鱗がありません？　これはもしかしてビンゴですー？）
　梢（蝶）の瞳がキラリと光る。
　顎の下で蝶化を解除。
　そのまま一気に空中で身を捻りクレイモアの一撃を件の鱗へ――。
　と、思ったまさにそのとき、竜の翼が急な角度をつけて、梢に打ちつけられる。
「……って、きゃああああああああああああ！？」
　梢もまた竜の攻撃によって大きく吹き飛ばされて、振り出しに戻される。
「……屋敷野さん、大丈夫！？」
　コンパクト鉄槌を持った桃川圭花が駆けつけて、梢に癒しの力を使ってくれる。
「……桃川さん、ありがとーございます。流石にあまり大丈夫ではありませんが、わずかばかりながら勝利への道筋は見えてきた感じですよー……」
「え……？」
　まだ痛む竜の翼で打たれた箇所を手でさすりながら、梢は不敵に笑ってみせる。
（顎の下まで潜り込んだとき、明らかに竜は慌てて私の追撃にきた感じでした……）
「桃川さん。みなさんに伝えてください。竜の弱点は十中八九逆鱗で間違いありません」
「え……逆鱗って……あの逆鱗かしら……？」
　圭花の問いに梢は頷く。
　定番の弱点で良かった、と梢は思う。
　その一方で、
（……ただ半端に近づくと逆ギレで致命傷を負いそうなのが問題ですよねー。逆鱗なだけに……）
　今まさにこちらに特大の火球を放とうと大口を開いている竜とバッチリ目が合ってしまった梢は、
「桃川さん、逃げますよーっ！」
「え、ええっ！」
　すんでのところで特大の火球を回避しながら、自ら招いた大きなピンチに密かに溜息を吐くのだった。