寝子島。シーサイドタウン。夕暮れどき。
ふと見上げた空には、きらりと小さな一番星が輝いていた。
「……そういえば、あの日見上げた空もこんな感じだったかしら?」
水上 桜は、頬を撫でつける風に揺れる髪を手で押さえながら、ぽつりとそう呟いた。
あの日――塔の精霊を名乗る
ステラという少女に呼ばれ、鈴島で謎の黒い影と遭遇した、あの忘れられない一日のことを思い出し、桜は一つ小さく息を吐く。
(……あの子、私達のことをまた呼ぶと言っていたけれど)
桜はステラの元気一杯の、それでいてどこか切実そうな響きの込められていた声を、頭の中に甦らせる。
いつかそう遠くない未来に、自分は再びステラに呼ばれるだろうという確信めいた予感が、桜の胸の内にあった。
(もしも、またあの子に呼ばれるときが来るのだとしたら、ちょうどこんな星の綺麗な日になるのかもしれないわね)
そう思ったまさにそのときのことだった。
『みんなーーー! またステラに力を貸してほしいなのーーーっ!』
突如、頭の中に声が響いた。
刹那、眩い閃光が桜の視界を焼いた。
「きゃっ……!?」
思わず目を閉じて、顔を背ける。
そして、次にまた桜が目を開いたとき――。
「え……?」
眼前に広がる景色は寝子島のそれではなかった。
いや、そこはもう日本ですらなかった。
目の前に広がる大通りには石畳が敷き詰められ、その通りの両脇には明らかに現代日本のそれとは異なる煉瓦や石造りの建物が並んでいる。
通りの向こうには、大きな城も見えた。
桜が立っていたのは、そんな大きなお城の城下に広がる街の広場と思しき場所だった。
彼女のほかにも大勢の人々がそこに呼び出されているようで、誰もがしきりに何事かというようにあたりを見まわしている。
そんな人の群れの中心に、桜はあのときの少女――ステラの姿を発見する。
『みんな、聞いてほしいの! 今、あのお城には悪い竜が住んでいて、お城の宝物と一緒にオーブを呑み込んじゃったのなの!』
ステラは通りの向こうにそびえたつ城を指差しながら、そこにいた全員に聞こえるように大きな声を張り上げて言った。
「……オーブが呑み込まれた?」
桜は目を見開いた。
桜のほかにもオーブの存在を知っている者はだいたい同じ反応をした。
他方、今回、初めてステラに呼ばれたと思しき者達は、みな意味がわからずに怪訝そうな顔をしていた。
『これからこの広場にお城を取り戻そうとする人達が集まってくるの! お願いなの! みんなには、その人達と一緒に竜を倒して、オーブに火をつけてほしいの!』
ステラが身振り手振りをまじえながら必死にそう伝えたかと思うと、ぞろぞろと広場に屈強な男達が集まってくる。
彼らは全員が全員休めの姿勢を取ると、そのまま広場の一点を見据えて微動だにせずに立った。
(……あの人達は誰かを待っているの?)
桜を含めて誰もの視線が彼らの見据える一点に集まる。
そこに現れたのは、凛とした空気をその身にまとった金髪碧眼の美しい少女だった。
歳の頃は16歳から18歳くらいだろうか。
見た目は若いが、立ち居振る舞いに品があり、幼さを感じさせることはない。
「――みなさん、今日はよく集まってくれました」
少女が広場に集まった面々を見渡しながら、よく通る澄んだ声で言った。
屈強な男達が一斉に姿勢を正し、敬礼をする。
桜も思わず姿勢が伸びた。
そうさせるだけの雰囲気が、その少女にはあった。
「かの強欲な竜に城を奪われてから、もうずいぶんと時間が経ちました。城を奪われてからというもの、空には太陽も星も輝かなくなり、街の外には黒い影のような存在が蔓延るようになりました。みなさんに随分と辛い思いをさせてしまったと思います」
少女の声に、沈痛そうな響きがこもる。
それは彼女が本当に街の人々のことを思っているのがよく伝わってくる声だった。
「ですが、そんな闇に覆われた日々は今日でお終いにしましょう。今宵、私達は星辰の導きに従い、かの邪智暴虐の竜より我らの自由と平和の象徴たる城を取り戻すのです」
滔々と語る少女の声に、男達が一人また一人と頷いていく。
一つ誰かが頷くたびに、広場に集まった男達の士気が高まっていくようであった。
「それでは、私――
フランチェスカ・ダ・サジタリオの名において宣言します」
少女――フランチェスカが次の言葉を発するために、すぅっと息を吸った瞬間、広場にわだかまる熱のボルテージが最高潮に達するのを、桜は肌でじりじりと感じていた。
「――これより
サジタリオ城奪還作戦を開始します!」
フランチェスカの声が桜の意識にしかと浸透するよりも早く広場に集まった男達が一斉に野太い鬨の声を上げた。
(……なんだか展開が急過ぎて、ちょっとついていけないんだけど)
(……こうなったらやるしかない、わよね?)
桜は小さく息を吐くと、決意にぎゅっと握り拳を固めて、城の方へ向かって駆け出す一行の背中を追って、強く地面を蹴った。
ついに明らかになった星幽塔の内部!
第一階層は中世ヨーロッパ風の不思議な城と城下町が舞台だ!
というわけで、ごきげんよう。
このたび、アストラルタワー第一階層を担当することになりました、頭がおよそファンタジーしていることに定評のあるMSこと水月 鏡花でございます。
ガイドには水上 桜さんにご登場頂きました。この場を借りて、厚く御礼申し上げます。どうもありがとうございました。ご参加頂ける際にはガイドの内容にはとらわれずに、ご自由にアクションをお書きくださいませ。
なお、今回は合同企画ということで、いつもより頭おかしい成分は若干少なめです。ええ。そのはずです。気のせいかもしれません。
星の力
星幽塔の中では、ひとりにひとつ、不思議な光が宿っています。
剣士の光(青) :剣技が上手くなる
闘士の光(オレンジ):腕っぷしが強くなる
狩人の光(紫) :弓矢が強くなる
盗人の光(金) :宝物を見つけたり鍵開けが得意になったりする
魔火の光(赤) :火の玉を飛ばす魔法が使える
魔水の光(水色) :水流を鉄砲の様に飛ばす魔法が使える
魔風の光(緑) :つむじ風を起こす魔法が使える
魔土の光(茶) :土礫を投げつける魔法が使える
癒しの光(白) :自分や他者を癒すことができる
光は体に宿ったあと、その者にあわせた形状に変化し、身につけることになります。
(例:指輪、体に埋め込まれる、武器になっている、愛用の武器の装飾に)
※武器(剣、弓、斧、杖など)はひとりひとつ。双剣など2つで1セットのものなども可。
※星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようです。
(このシナリオの中では変化しませんので、今回はひとつだけ選んでください)
※もれいびは「星の力」と「ろっこんの力」の両方使えます。
※ひとは「星の力」を使えます。
※塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
※もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
どの星の光をまとい、その光がどんな形になったかを
アクション冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のようにお書きください。
衣装にこだわりがあればそれもお書きください。
ミッション
フランチェスカとともに城に攻め込み、
サジタリオ城の中庭に陣取る黒い竜を倒して、第一階層に光を取り戻そう!
第二階層への扉を開くためのオーブは、竜が財宝とともに呑み込んでいる。
竜を倒してオーブを回収し、星の力の宿る手で触れて、火を灯そう!
サジタリオ城攻略作戦
A~Dのいずれかのルートを選択し、そのうえでルート上でどのような行動を取るかをお書きください。
最終的にミッションを達成できるようにアクションを投稿していただければと思います。
【A】正門ルート(正面突破ルート)
竜の配下であるゴブリン、ガーゴイル、ガルムなどのモンスターが次々と敵がやってくる武闘派向けルート。
ここで盛大に暴れると、ほかのルートの潜入がより容易になります。
長期戦に耐えうるタフさと、数の上で圧倒的に勝る敵の群れを一網打尽にするパワーが求められます。
【B】城壁ルート(奇襲ルート)
城の北東側に、一部城壁の壊れた部分があり、そこから潜入して中庭で挟撃を仕掛けるルートです。
初期配置の敵の数は少ないですが、敵の意表をついて、滞りなく潜入を進める知力と素早さが要求されます。
なお、城壁から中庭への道の途中に牢獄へと通じる階段があります。
【C】抜け道ルート(フランチェスカ護衛ルート)
フランチェスカのみが知っている秘密の抜け道を彼女とともに移動して、
フランチェスカの私室を経由し、中庭を望む星辰の櫓へと向かいます。
(星の力が集まるという星辰の櫓から、一族に伝わる『星の弓』で撃ち抜くことができれば、
きっと竜も倒せるだろうと彼女は考えているようです)
民を思う気持ちこそ強いけれど、やはりお姫様で、ちょっとわがままなフランさまを
ときに厳しく、ときに優しく導く寛容さと、
裏方として彼女や中庭の決戦メンバーを支える縁の下の力持ち的スキルが問われます。
【D】その他ルート(単独行動ルート)
変身能力や特殊移動能力による単独奇襲を試みるルートです。
トリッキーな動きをしたい方におすすめ。
自由な発想力が求められます。
ただし、上手くいくかは自己責任で。
ボス戦
巨大な黒竜です。あらゆる財宝を呑み込み、身体の中に溜め込んでいます。
どうやらオーブも飲み込んでいるよう。
全身を硬い鱗で覆っているために、普通に攻撃しているだけではダウンは奪えても、致命傷は与えられません。
どこかに弱点があるかもしれないので、諦めずに色んな場所に攻撃してみましょう。
口から火の玉を吐き出して、PC達を攻撃してきます。
また大樹の幹のような腕や、大きな翼、丸太ような尻尾などもフル活用して襲ってきます。
自己再生能力(中)あり。
ステージ
◇サジタリオ城
第一階層の中心にそびえたつ中世ヨーロッパ風のお城です。
堅牢な城壁によって周囲をぐるりと囲み、南向きに開いた正門の向こう側には広大な城下町が広がっています。
かつてはこの城の主であり、この第一階層を統治する領主であるサジタリオ家が治めている城でしたが、
今は悪い竜の住処となってしまっています。
広大な敷地面積を持つ建造物です。
以下、詳細です。
・正門
城の南側に建てられた大きな門。
大きな堀の上に石の橋がかかっています。
重装備した二匹のモンスターが門の前に常駐しているほか、城壁の上から空を飛んでくるモンスターや、
弓を撃ってくるモンスターもいます。
・城壁
城全体をぐるりと取り囲む高い城壁。
城壁の上部は黒い影が自由に動きまわれるようになっており、またデコボコになっている部分から身を隠したり、
乗り出したりしながら、一方的に地上を攻撃できるようになっている。
なお北東側に一部、壊れた部分があり、
そこを破って中庭を抜け、正面突破班との挟撃を仕掛ける作戦があるようです。
・第一広間
正門を抜けて、最初にたどりつく大きな広間。
牢獄や中庭、兵舎など、入口から放射線状に様々な部屋に繋がっていて、
そこかしこから大量のモンスターが押し寄せてきます。
・中庭
第一広間を正面突破すると現れる吹き抜けの広い庭。
財宝を呑み込んだ竜が待ち受けています。
・フランチェスカの私室
城下町の秘密の抜け道から繋がるフランチェスカの私室。
今は誰も使っておらず、彼女が使っていた当時の状態でそのまま残されている。
ここに秘密の宝箱があり、フランチェスカ愛用の星の弓が入っている。
・秘密の抜け道
城下町の地下水路から城へと繋がる秘密の抜け道。
狭く、汚いうえに、モンスターも一定数存在しています。
道が狭いので、少人数でしか行動できません。
・地下牢獄
戦闘で、気絶状態などになり、モンスターにさらわれてしまうとここに入れられます。
ここにいる限り、ほかの仲間の救援に向かうことができないために、
牢に入れられた数が多ければ多いほど戦力的には痛手になります。
自力での脱出は困難ですが、盗賊の力を持つ者がいれば牢の鍵を開けられるかもしれません。
・星辰の櫓
地理的に星の力がもっとも高まるとされる場所に建てられた、中庭を望む櫓。
フランチェスカはここから星の弓で狙い撃てば、竜の鱗でも撃ち抜けると考えているようですが……?
城内にはびこる敵
●ガルム
鋭い牙を持つ犬型のモンスターです。
噛みつきと氷のブレスで攻撃してきます。
動きは素早く、攻撃力も高いですが、耐久力はさほど高くありません。
自己再生能力(小)あり。
実は甘いものに目が無い。
出現場所:正門、城壁、中庭
●ゴブリン
1m程度の身長を持つ亜人型のモンスターです。
剣・弓・槍・斧・ハンマー・魔法の杖など様々な武器を持ったタイプがいます。
個々の戦闘力は低いですが、個体差があります。
角型(能力1.5倍)、赤色(能力2倍)など偶に強いのも混じってます。
ほぼ無限に出現するためになかなか厄介です。
自己再生能力はありません。
出現場所:正門、城壁、中庭、牢獄
●スライム(赤・青・緑・黄土)
秘密の抜け道に出現するジェリー状のモンスターです。
表面を覆うぬるぬるの液体と柔らかいボディで、斬撃・打撃・刺突を無効化します。
燃やしたり、流したり、吹き飛ばしたりするのが効果的です。
身体の内側にはあらゆるものを溶かす溶解液が詰まっていて、それを水鉄砲のように発射することもあります。
なお、色によって属性があり、弱点も違うようです。
出現場所:秘密の抜け道
●ガーゴイル
蝙蝠の翼と尖った耳を生やした悪魔のような姿をしたモンスターです。
空を飛んでいるので、地上付近にこないと格闘武器はあたりません。
巨大なフォークのような槍と、相手の眠気を誘う魔法を使ってきます。
出現場所:正門、城壁、中庭、星辰の櫓
登場NPC
◇フランチェスカ・ダ・サジタリオ【星空の射手】
サジタリオ家の当主であるうら若く美しい乙女。愛称はフラン。
金髪碧眼で長身。
正義感が強く、やや勝気な性格。
猪突猛進型で、思い込みが激しいところもあるが、
城下町の人々を思う気持ちは強く、それゆえに多くの人々に愛されている。
弓の名手であり、【星空の射手】の二つ名を持つ。
臣下や街の住人からは『フラン様』と呼び慕われている。
もれいびのように頑丈ではなく、ろっこんも持っていませんが、
特別な星の力を持ち、星の力を込めた強力な矢を放つことができます。
◇ステラ
塔の精霊。
PC達を呼び出した後、気がつけば広場からはいなくなってしまっていました。
城の方角ではなく、街のどこかへ行ってしまったようですが……。
◇解放軍
フランチェスカに従い、城の奪還作戦に同行する屈強な男達。
武器を手に一生懸命に闘ってくれますが、戦力としてはあまり期待しない方がいいかもしれません。
シナリオの概要は以上となります。
最後になりましたが、皆様の作戦へのご参加を心よりお待ちしております。