怪人セブンの選択｜リアクション

怪人セブンの選択

　紫の棒縞スーツと黄色のシャツと緑の蝶ネクタイという格好をしたエレノア・エインズワースは人の輪を離れてせせら笑う。
「アレが神を志す者の姿ですか。実に人間臭くて鼻がもげそうです」
「人間臭いって、そういうことじゃないだろう？」
　エレノアを追いかけて真顔で返す御剣刀。
　その返答に、エレノアは興が醒めたと言わんばかりに無愛想に突っぱねる。
「御剣さんはブラックユーモアというものを少し学ばれたほうがいいかと思います」
「ん？　加納が臭いか臭くないかってことか？」
「……もういいです。待ってください、花風さん、日暮さん？　私も同行します。え？　この格好ですか？　世界で一番人気のアメコミのヴィランですよ。いや二番だったかな……」
　一行がむいみのいる特等室向かうので、エレノアもそれについていく。
　御剣はエレノアにジト目で睨まれる理由がさっぱりわからないでいた。
「あ、そうか、加齢臭は気付かれたくないよな、なるほどな」
　そして見当違いの落としどころを付けて納得する御剣であった。
　そんな彼の視線の先に、思いつめたような表情の恵御納夏朝が映った。
「どうした、恵御納？」
　声を掛けた御剣の存在に驚く恵御納。
「わっ……！　あ、ごめん、ちょっと考え事してて……」
「そうか。みんな移動してるけど、恵御納はいかないのか？」
　御剣の指摘通り、恵御納だけはその場から動こうとしていない。
　別行動に向かった樽木たち数名は船内の調査へ向かった。
　彼女だけがどうするか決めあぐねて、その場に立ち止まっていたのだ。
「……僕も機関室へ向かおうかな？」
　機関室のある１Ｆには、既に数名が調査に向かっているはずだ。
　向かうまでの道中は単独行動だが、一般人が往来するこの船内で得物を振り回してくるような輩はそうそういない。
「そうか、わかった。人ごみがすごいけど、くれぐれも気を付けてくれ」
「うん……」
　御剣は泉月花の後を追い駆けていった。
　１人になった恵御納は【７】で単独行動になったことを報告した上で１Ｆへ向かう旨を報告した。
　スマホの画面から目を離して船内の窓を眺める。
　深淵を思わせる闇は、どこまで深い黒色で星の光すら拝めない。
「一歩進めば闇……」
　踏み外しそうな闇の中にいるのは、自分自身の心だと恵御納はこの時悟った。
「夏夜ちゃん……」
　ふと無意識にもうひとつの人格の名を呼ぶ。
　多重人格者を自覚している彼女にとって、夏夜の存在は周囲に隠すべき存在である。
　それを口にすることは非日常、すなわちフツウではない。
　それでも今、１人になってみて、周囲は人でごった返しているにも関わらず、恵御納は胸が締め付けられるような罪悪感を抱いていた。
「僕は、ひとりぼっちじゃない。そうだよね……？」
　自問自答する恵御納。
　だが答えが返ってくる訳もなく、代わりに帰ってきたのは空腹を告げる腹の音であった。
「……お腹、空いたなぁ。泉月花は沢山食べたのかな……？」
　そのままトボトボと恵御納は１Ｆへ向かうべく、階段を下りていった。