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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
ミッドナイト・フリーキー・ショウ！ ～モノクローム・ラブ
【君のいた日】
夢。何度となく見たことのある夢です。同じようなイメージを、定期的に、屋敷野 梢は夢に見ることがありました。
ざり、とコンクリートの上に引かれた白いラインを踏みしめた擦過音を留めるものは何もなく、がらんどうの街並みへと止めどなく響いていくようです。梢の夢に、行き交う人々の話し声は無く、忙しなく歩く足音も無く、走る車のエンジン音も、けたたましく鳴く犬の声もありません。いつもは軽快なメロディーを歌う信号機だって黙り込んだままで、そもそも信号はとうに赤と青の光を明滅することすらやめています。建ち並ぶ建築物の窓にはいずれも明かりは無く、街灯は路地を照らす役割を放棄し、見上げた梢のいささかにしょぼくれたような顔を辛うじて見て取ることができるのは、ただひとつ、柔らかい星明りが降り注いでいるからです。
梢は泣きそうに表情を崩しかけ、すぐにも自嘲するような笑みをこぼします。夢を見るたび思うのです。この空っぽの世界は、自分自身が望んだものでは無いのだろうか、と。道行く家族が談笑する姿や、街に灯るおぼろげで幻想的な光や、家路を急ぐ車たちの列が無ければ、比較対象としての自分の惨めさをいたずらに自覚し、沈み込むこともありません。
かつ、かつ、ざり、と靴音は無機質なビル群に反響し、それを聞く者も無く、やがて空へと向かって吸い込まれるように消えていきます。
当ても無く歩くと、見えるのはいずれも懐かしい風景です。中ほどがすぼまったような形の赤いタワー。ぽっこりとひときわに背の高いビルの隣に、巨人が鋼線で編み上げたような不思議な曲線を描くオブジェ。観覧車……とはいえそれらの全ては夜の中でいつものように輝きを放つことなく、消灯したままです。
梢にとって、かつて暮らしたこの街の記憶とは、つまりは彼女との記憶です。ひとつ年上の、大親友。大好きだった彼女。街のあちこちには、彼女と一緒にたどった足跡が今でも残されています……幾つもの思い出が。
暗い街の中へと歩を進めるたび、彼女の思い出がぱあっと明かりを灯して、楽しかった日々を夢の中で幻影として再生していきます。手を取り合って駆けた道。一緒に笑い転げた飲食店の店先。悲しみを分かち合った……。
けれど、幻。夢の街はやっぱり、気付けば、真っ暗な闇に物言わぬまま佇んでいるだけ。全て、昔の話です。
梢の大親友は、まだ中学生だった頃に病を患い、病院のベッドの上で亡くなりました。
今まで無意識に、忌避してきたのかもしれません。幾度この夢の中を彷徨おうとも、自然と足が遠のいていたのかもしれません。
彼女が息を引き取った病院、見上げたあの窓に、夢の中へ灯るただひとつの明かりを見つけたのは、その時が初めてのことでした。
医者も看護師も、ひとりの患者もいない病院の階段を上り、まだはっきりと覚えている道筋をたどって、梢は光が漏れ出す病室を覗き込みました。
彼女はそこで、笑っていました。かつては何度だって、いつまでだって見ていることができた、あの笑顔で、梢を待っていました。くしゃくしゃに崩れてしまいそうな梢の顔とは対照的に、にっこりと。そして少し、心配そうに。
梢は……無理矢理に、笑います。乾いた喉から声を絞り出そうとすると、けれど口から震えた声が漏れ出てくることはなく、それでも見つめ合えば、それだけで気持ちは通じました。
えへへ。また、心配かけちゃった？ 弱虫は直したつもりだったんだけどな。
約束したのにね。次に会う時は笑顔で、って。ごめんね。
君の前だと、どうしても、ね。
でもね、聞いて！ 私だって、強くなったんだよ？ ちゃんとひとりで、できるようになったんだよ？
……時々……疲れちゃうけどね。ずっとひとりで、強がってるの。私ひとりで。
誰かに、気付いて欲しい。君みたいに。頭、撫でて欲しい。たったそれだけでいいんだ。それだけで……君みたいに……私。
やっぱり、まだ、弱虫かな？ えへへ。
梢には分かります。ここは自分の夢の中。望めばいつまでだって、彼女とここで過ごしていることができました。ずっとずっと、いつまでも。
そして梢には、分かっていました。彼女が、大親友のそんな後ろ向きな姿を、決して望んだりはしないことを。お互い離れがたいほどに、大好きだったとしても。
大好き、だからこそ。
じゃ……そろそろ、行くね。
うん。風邪、引かないでね。
彼女はもう、いません。そのことを思えば、胸は痛みます。けれどその痛みこそが梢を強くし、全てに抱く覚悟の礎ともなってくれました。
梢は、灯りの無い、空っぽの病室に背を向けて……ほのかな微笑みを浮かべた後。ゆっくりと、夢から立ち去っていきました。
夢。何度となく見たことのある夢です。同じようなイメージを、定期的に、屋敷野 梢は夢に見ることがありました。
ざり、とコンクリートの上に引かれた白いラインを踏みしめた擦過音を留めるものは何もなく、がらんどうの街並みへと止めどなく響いていくようです。梢の夢に、行き交う人々の話し声は無く、忙しなく歩く足音も無く、走る車のエンジン音も、けたたましく鳴く犬の声もありません。いつもは軽快なメロディーを歌う信号機だって黙り込んだままで、そもそも信号はとうに赤と青の光を明滅することすらやめています。建ち並ぶ建築物の窓にはいずれも明かりは無く、街灯は路地を照らす役割を放棄し、見上げた梢のいささかにしょぼくれたような顔を辛うじて見て取ることができるのは、ただひとつ、柔らかい星明りが降り注いでいるからです。
梢は泣きそうに表情を崩しかけ、すぐにも自嘲するような笑みをこぼします。夢を見るたび思うのです。この空っぽの世界は、自分自身が望んだものでは無いのだろうか、と。道行く家族が談笑する姿や、街に灯るおぼろげで幻想的な光や、家路を急ぐ車たちの列が無ければ、比較対象としての自分の惨めさをいたずらに自覚し、沈み込むこともありません。
かつ、かつ、ざり、と靴音は無機質なビル群に反響し、それを聞く者も無く、やがて空へと向かって吸い込まれるように消えていきます。
当ても無く歩くと、見えるのはいずれも懐かしい風景です。中ほどがすぼまったような形の赤いタワー。ぽっこりとひときわに背の高いビルの隣に、巨人が鋼線で編み上げたような不思議な曲線を描くオブジェ。観覧車……とはいえそれらの全ては夜の中でいつものように輝きを放つことなく、消灯したままです。
梢にとって、かつて暮らしたこの街の記憶とは、つまりは彼女との記憶です。ひとつ年上の、大親友。大好きだった彼女。街のあちこちには、彼女と一緒にたどった足跡が今でも残されています……幾つもの思い出が。
暗い街の中へと歩を進めるたび、彼女の思い出がぱあっと明かりを灯して、楽しかった日々を夢の中で幻影として再生していきます。手を取り合って駆けた道。一緒に笑い転げた飲食店の店先。悲しみを分かち合った……。
けれど、幻。夢の街はやっぱり、気付けば、真っ暗な闇に物言わぬまま佇んでいるだけ。全て、昔の話です。
梢の大親友は、まだ中学生だった頃に病を患い、病院のベッドの上で亡くなりました。
今まで無意識に、忌避してきたのかもしれません。幾度この夢の中を彷徨おうとも、自然と足が遠のいていたのかもしれません。
彼女が息を引き取った病院、見上げたあの窓に、夢の中へ灯るただひとつの明かりを見つけたのは、その時が初めてのことでした。
医者も看護師も、ひとりの患者もいない病院の階段を上り、まだはっきりと覚えている道筋をたどって、梢は光が漏れ出す病室を覗き込みました。
彼女はそこで、笑っていました。かつては何度だって、いつまでだって見ていることができた、あの笑顔で、梢を待っていました。くしゃくしゃに崩れてしまいそうな梢の顔とは対照的に、にっこりと。そして少し、心配そうに。
梢は……無理矢理に、笑います。乾いた喉から声を絞り出そうとすると、けれど口から震えた声が漏れ出てくることはなく、それでも見つめ合えば、それだけで気持ちは通じました。
えへへ。また、心配かけちゃった？ 弱虫は直したつもりだったんだけどな。
約束したのにね。次に会う時は笑顔で、って。ごめんね。
君の前だと、どうしても、ね。
でもね、聞いて！ 私だって、強くなったんだよ？ ちゃんとひとりで、できるようになったんだよ？
……時々……疲れちゃうけどね。ずっとひとりで、強がってるの。私ひとりで。
誰かに、気付いて欲しい。君みたいに。頭、撫でて欲しい。たったそれだけでいいんだ。それだけで……君みたいに……私。
やっぱり、まだ、弱虫かな？ えへへ。
梢には分かります。ここは自分の夢の中。望めばいつまでだって、彼女とここで過ごしていることができました。ずっとずっと、いつまでも。
そして梢には、分かっていました。彼女が、大親友のそんな後ろ向きな姿を、決して望んだりはしないことを。お互い離れがたいほどに、大好きだったとしても。
大好き、だからこそ。
彼女はもう、いません。そのことを思えば、胸は痛みます。けれどその痛みこそが梢を強くし、全てに抱く覚悟の礎ともなってくれました。
梢は、灯りの無い、空っぽの病室に背を向けて……ほのかな微笑みを浮かべた後。ゆっくりと、夢から立ち去っていきました。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年11月28日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年12月05日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年12月05日 11時00分
