ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～モノクローム・ラブ｜リアクション

ミッドナイト・フリーキー・ショウ！　～モノクローム・ラブ

【私の彼は……】

　にっこりにこにこ、満面の笑み。すっかり浮かれた様子の椿美咲紀を、彼女を知らない誰かが見かけたなら、きっと思ったことでしょう。ああ、これからデートなんだなーって……とはいっても、今の美咲紀は寝子校指定のジャージ姿で、何より星ヶ丘寮の廊下ですれ違う顔見知りの寮生たちなどは、彼女とその行く先を知っていましたけれど。
　もっとも、デートというのはあながち間違いではないかもしれません。軽快な足取りで、ついついスキップ。ぴょんぴょん！　少なくとも美咲紀は、これから会いに行く相手へと、特別の愛情を注いで止みません。想えば想うほどに顔は緩んでふんにゃりとして、もう、大好き！　でありました。
　そんなわけで弾むようにやってきたのは、星ヶ丘寮の庭先。そこに佇み美咲紀を出迎えてくれるのは、艶やかで、瑞々しくて、緑の彩りが目に優しい……ブロッコリー！　プランターに植えられすくすくモコモコと生育中の、美味しそうなお野菜でありました。

　やっほー！　手を上げて、美咲紀はご挨拶。彼女の訪れを待ちわびていたはずの、ブロッコリーたちへ。そう、美咲紀は、野菜と会話するのです。実に楽しげに、親しげに。その様はまさしく、恋い焦がれた想い人へ愛を囁くかのごとくでありまして、唇が触れそうなほどに顔を近づけ、愛おしそうに語りかけました。
　ハタから見れば、何やってるのかしらんこの子は？　なんて思われてしまいそうですけれど。もちろん美咲紀は遊んでいるわけではなくて、大マジメです。
　何せ彼女には、信念がありました。

　プランターの上で伸び伸びと育つブロッコリーたちは、花蕾は両手ですくえば手のひらがすっぽりと隠れてしまうほど大きくて、茎もつやつやとしてとっても綺麗。美味しそう！　今日はちょうど、そんなブロッコリーを収穫する日なのです。美咲紀はもちろん、この日を心待ちにしておりました。
　まずは茎の真ん中、てっぺんに丸々と生えている頂花蕾……つまりはいつも食べているようなあの部分を、剪定バサミでさくりっと切り取ります。もちろんひと言、感謝の言葉を囁くのも忘れずに。茎の横にぴょこんっと飛び出している、いわゆる側枝花蕾はこれからも大きく成長してくれるので、取らずにおいて……頂花蕾の近くに生えていた葉っぱも一緒に収穫、これもまた茹でれば美味しくいただけてしまうのです。
　カゴに入れたブロッコリーたち、これからもすくすくと育ってくれそうな蕾たちを眺めて、美咲紀のお顔はにんまりふにゃん、緩みます。
　家庭菜園でたくさんの野菜を育てている美咲紀ですけれど、ここまでに立派な野菜を育て上げられるのは、そうして彼女が惜しみなく注ぐ情熱と愛情のたまものであり、その過程で蓄えてきた豊富な知識と経験のおかげでもあり、そしてまるで恋人にささやくかのような語りかけこそが、大事な大事な秘訣であるのだと。美咲紀が元気に、おおきくなーれ、おおきくなーれ！　と話しかけているからこそ、野菜たちは伸び伸びすくすくと大きくなってくれるのだと、彼女は当然のように固く信じているのです。そしてその証に、美咲紀の育てる野菜はどれも大変に美味しくて、友人や寮生たちにお裾分けでもしたなら、常に大好評！　それがまた、彼女の自信ともなっているのでしょう。
　収穫を終えると、美咲紀は最後に野菜たちへともう一度、投げキッスでも飛ばしそうな勢いで愛の言葉を浴びせてから、るんたるんたと踊るように飛び跳ねながら自室へと戻りました。

　本日の夕飯の目玉はもちろん、お肉でもお魚でもなく、どどん！　美咲紀が手ずから愛情を込めて育てた野菜たちの共演。温野菜サラダ！　大きくざく切りにしたキャベツに、ニンジンに……もちろん主役は、そう。ブロッコリー！
　ぱちん、両手を合わせまして。いただきます！
　茹でたてほかほかのブロッコリーをさっそくお口に入れれば、あの何とも形容しがたい絶妙な食感、新鮮な瑞々しさが広がります。美咲紀の仕草がその全てを物語っていると言えるでしょう……落ちそうな頬っぺたに両手を当てて、美味しいっ！！

愛情込めて育てた、お野菜たち。

自然の恵みをいただくのは、至福なのですっ！

　家庭菜園へと注ぐ美咲紀の情熱、その理由を尋ねられれば、彼女はこう答えるのでしょう。
　お野菜には、愛があるから！