今日のごはんは何にしよう｜リアクション

今日のごはんは何にしよう

　ゴロリとしたじゃがいもに鮮やかなオレンジ色した人参にゴロッと大きな南瓜と甘いコーンの缶詰、トースターで炙ると外はカリッと中はふっかふかになるロールパン。それから厳選したクリームシチューのルウの入った買い物袋を提げて、ミルカ・アハティアラはキャットロードのアーケード街を歩く。
　ついこの前までハロウィンの南瓜のケーキやお菓子が飾られていたケーキ屋のショーウィンドウには、ぴかぴか光る電飾を巻き付けた樅の樹とたくさんのプレゼントの箱。
　蝙蝠や南瓜おばけが吊り下がっていたアーケードの天井には、鮮やかな赤や金のリボンや大きな金色鈴のついたリース。
　肉屋の前には大きなフライドチキンの模型、喫茶店の窓をよじ登るサンタとその足元に立つトナカイの電飾。
　街の中、少しずつ見え隠れし始めるクリスマスの雰囲気に、ミルカは思わずにっこりする。
（まだ十一月ですけれど、準備は今からした方がいいですもんね）
　クリスマス雑貨の店を祖父が営んでいるためもあって、クリスマスが近づくといつも心がわくわく弾む。
　通りがかりの薬局の前、いつもはマフラー巻いただけのカエルの置物が、今日は赤と白のサンタ衣装を着せられているのを見つけて近づく。小さな掌でサンタカエルの頭を撫でて、ミルカはひらり、スカートの裾翻す。軽い足取りで祖父の待つ家に歩いてゆく。
（お店にもお客さんが増えてくる時期かな）　　
　ミルカの祖父が営むクリスマス雑貨屋『Joulupukki』は、シーサイドタウンの片隅にある。フィンランド語で『サンタクロース』を示す、赤煉瓦造りの古めかしいお店に一歩入れば、金銀や深紅のオーナメントで飾り立てられた大きなツリーや、サンタクロースやトナカイの飾りやキャンドル、色とりどりのリボンに飾られたリースにぬいぐるみの隠れたプレゼント箱、クリスマスに関する古今東西の品物が賑々しく華やかに迎え入れてくれる。
　クリスマスの気配に溢れ始める街を歩きながら、どこよりもクリスマスの素敵な空気に溢れている祖父のお店を思い浮かべて、ミルカはちょっぴり誇らしい気持ちになる。きっと今日も、祖父の店では色んな人が楽しくクリスマスの買い物をしていったに違いない。
　夜明け色の瞳を細め、ミルカはくすりと笑う。
「ただいまー！」
　自宅の玄関を開け、家中に元気いっぱいの声を響かせる。祖父の応えがないのはいつものこと。お店を閉めた後のこの時間、きっとまたお気に入りのロッキングチェアで居眠りでもしているのだろう。
　祖父を起こさぬようにそうっと廊下を渡り、台所に立つ。買ってきた野菜やお肉を切り分け、鍋で煮立てる。ぐつぐつ煮えるお湯の中、大きめに切った具材がぐるぐる、楽しく踊る。ガス台の前に置いた踏み台に立っておたまでくるくるかき混ぜているうち、何だか楽しくなってきて、鍋のお城で踊る野菜と一緒にミルカも歌う。
　背後で鼻歌に合わせて唄う声に振り向けば、戸口に白髭の祖父が立っている。
「……あ、おじいさん」
　聞いてたんですか、ミルカはちょっと恥ずかしくなる。白い頬をふうわり薄紅に染める。
「残念ながら、シチューはまだなんです」
　台所に漂う美味しそうな匂いに鼻を動かす寝惚け眼な祖父に皿の用意を頼み、ミルカはサラダボウルに洗ったレタスを千切って入れる。瑞々しい翡翠色に、トマトの赤、チーズの乳白色。クリスマスカラーも色鮮やかなサラダの出来上がり。ロールパンは温めて、その間にルウを入れて溶かせば、コーンと南瓜入りのシチューもできあがり。
　あったかいお皿の並んだテーブルに二人で着いて、二人で順番に今日の出来事を話せば、心も体もぽかぽかあったかくなる。
（明日はどんな一日になるのかな？）
　ぽっかぽかの心で、明日を夢見て少女は笑う。