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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
- AAA000000
今日のごはんは何にしよう
かこん、鹿脅しの音が黄昏色に染まる鰯雲の空に響き渡る。
沓脱ぎ石の上に置いた下駄に素足を差し込み、猫屋敷 姫は頭の左右に結い上げた栗色の長い髪と同じ色した長い睫毛を上下させた。黄昏よりも紅い色した瞳に映すは、黄昏に染まる庭石に築山、旧市街の景色が入り込まないように入念に設えられた松や紅葉の古木。
格調高い日本庭園に高らかに響くは、べりりー、『お徳用猫缶うるとらすーぱーでらっくす』のフィルム蓋を引き開ける音。かこん、鹿脅しの音が心なしか鈍る。
「奮発です」
猫缶を開封する音に反応して、築山の天辺に白猫の頭が勢いよく覗く。緋色の紅葉の梢から虎猫と三毛猫が並んで着地する。濡れ縁に面する障子を黒猫が器用に開き、雪見窓から鯖虎猫が飛び出し、縁の下から子猫を三匹引き連れ八割れ猫が顔を出す。
重ねて仕舞っていた猫用の皿を縁の下から引き出し、猫缶の中身を次々にあける姫の周りはあっという間にピンと立った猫の尻尾に取り囲まれる。
庭に入ってきた猫たちが野良だろうがよその飼い猫だろうが構わず餌をやり、代々猫と共に生活することを旨とする猫屋敷一族の裔である姫は縁側に腰を下ろす。
庭を駆けて来ては飯にありつく猫たちの中に、実は姫が飼っていると言える猫は今現在居ない。
揃えた小さな膝に頬杖をつき、姫は脛に擦り寄る子猫の背中を撫でる。縁側から膝によじ登ろうとする老描のふくふくした腹を揉む。
「きょーうのごはんはーなーににしよー」
皿にあけた猫缶の中身を懸命に食べる猫たちを眺めながら歌うように呟いて、きょとんと首傾げる子猫に笑いかける。
姫より前の代にはこの屋敷で猫を飼っていたことも勿論あったと同居の祖父から常々聞かされてはいるが、
（こんなに毎日寄合所として寄ってくるならば半ば飼っているようなものです）
姫はひとり納得して頷く。そもそも軒下に住み着いている猫もいる。
膝に憩う老猫の尻尾にじゃれつこうとする新入り子猫の首を猫屋敷常連の黒猫が優しく噛んで縁側から引き落とす。鼻と鼻をくっつけて挨拶交わし、他の猫たちに挨拶させるべく子猫の体を頭で押す。
新入り指導に励む常連猫を横目、姫は猫缶に狂喜乱舞する猫たちを見遣る。
数が数なので、いつもの餌はお徳用カリカリが精々だが、今日は夕飯の買出しに出かけた寝子島漁港でとてもお安く猫缶がお求めできた。
「今日はラッキーということで」
膝の老猫が応じてにゃあと一言、重々しく鳴いた。
遠慮会釈なくご馳走にありつく猫たちを眺めて後、姫は小柄な体を跳ねさせるように立ち上がる。膝から落ちるも身軽に着地し不機嫌な声上げる老猫のふくふく腹をまた揉み、下駄を脱ぎ捨てて縁側から家に入る。
「きょーうのごはんはなーににしよー」
猫たちの饗宴を見ているうち、自分自身も腹が減ってしまった。
「さてー、何にしましょうか」
勝手知ったる猫屋敷に上がりこみ、あとについて回る何匹かの猫を足元にじゃれつかれながら、台所の冷蔵庫を覗き込む。冷蔵庫にどっかり鎮座する漁港で手に入れた格安魚類を確かめれば、今日のご飯はばっちり決定。
中学二年生とは言え、猫を喜ばせるための自炊スキルは万全に磨いている。同居の祖父も安心して老人会の旅行に行けるというもの。
慣れた手際で米を磨ぎ、炊飯器にセットする。
丸のままの烏賊のはらわたを綺麗に抜き取り、下足は取り置き胴は細切り。鰹のタタキと鮪の柵は切り分けて、お頭付の鯛は流し台で包丁の背を使って鱗を落とす。出刃包丁で頭を落とし、三枚に下ろす。漁港育ちの祖父に仕込まれた包丁捌きも慣れたもの。
鯛のあらは綺麗に取りおき、昆布と椎茸で取った出汁に突っ込む。味付けは白だしと生姜で簡単に。
そうこうするうちに炊けたご飯を丼によそい、紫蘇を乗せてから色んな刺身を盛り付ける。
（漁業の町の恩恵です）
出来上がった海鮮丼とあら汁を前に、姫は満足げに大きく頷く。足元で行儀よく座ってオコボレに預かろうとする猫の頭をついでに撫でる。
「羨ましい？」
そうでしょうそうでしょうと頷きつつも、
「あげませんよ」
決してやらず、熱い緑茶を淹れる。特に烏賊は喉に引っ掛かる。鯛のあらは固い骨が怖い。
「とゆかあなたたちさっき食べたでしょ、特にそこのおじいちゃん猫」
いつのまにかやってきて脛に尻尾を巻きつかせる老猫をどこからか取り出したピコピコハンマーで軽くはたく。
「某所に御住まいの胴長短足のおドム様みたいになっても知らんですよー」
ネズミも狩れません、とつけ足した一言に項垂れる老猫を台所に捨て置き、食卓に今日のごはんを並べる。
「いただきまーす」
そんなこんなな、猫屋敷の夕ご飯。
「と、うわちゃ、危な」
最後に淹れたお茶が熱すぎて零し掛けたが、できる姫様のご愛嬌。
沓脱ぎ石の上に置いた下駄に素足を差し込み、猫屋敷 姫は頭の左右に結い上げた栗色の長い髪と同じ色した長い睫毛を上下させた。黄昏よりも紅い色した瞳に映すは、黄昏に染まる庭石に築山、旧市街の景色が入り込まないように入念に設えられた松や紅葉の古木。
格調高い日本庭園に高らかに響くは、べりりー、『お徳用猫缶うるとらすーぱーでらっくす』のフィルム蓋を引き開ける音。かこん、鹿脅しの音が心なしか鈍る。
「奮発です」
猫缶を開封する音に反応して、築山の天辺に白猫の頭が勢いよく覗く。緋色の紅葉の梢から虎猫と三毛猫が並んで着地する。濡れ縁に面する障子を黒猫が器用に開き、雪見窓から鯖虎猫が飛び出し、縁の下から子猫を三匹引き連れ八割れ猫が顔を出す。
重ねて仕舞っていた猫用の皿を縁の下から引き出し、猫缶の中身を次々にあける姫の周りはあっという間にピンと立った猫の尻尾に取り囲まれる。
庭に入ってきた猫たちが野良だろうがよその飼い猫だろうが構わず餌をやり、代々猫と共に生活することを旨とする猫屋敷一族の裔である姫は縁側に腰を下ろす。
庭を駆けて来ては飯にありつく猫たちの中に、実は姫が飼っていると言える猫は今現在居ない。
揃えた小さな膝に頬杖をつき、姫は脛に擦り寄る子猫の背中を撫でる。縁側から膝によじ登ろうとする老描のふくふくした腹を揉む。
「きょーうのごはんはーなーににしよー」
皿にあけた猫缶の中身を懸命に食べる猫たちを眺めながら歌うように呟いて、きょとんと首傾げる子猫に笑いかける。
姫より前の代にはこの屋敷で猫を飼っていたことも勿論あったと同居の祖父から常々聞かされてはいるが、
（こんなに毎日寄合所として寄ってくるならば半ば飼っているようなものです）
姫はひとり納得して頷く。そもそも軒下に住み着いている猫もいる。
膝に憩う老猫の尻尾にじゃれつこうとする新入り子猫の首を猫屋敷常連の黒猫が優しく噛んで縁側から引き落とす。鼻と鼻をくっつけて挨拶交わし、他の猫たちに挨拶させるべく子猫の体を頭で押す。
新入り指導に励む常連猫を横目、姫は猫缶に狂喜乱舞する猫たちを見遣る。
数が数なので、いつもの餌はお徳用カリカリが精々だが、今日は夕飯の買出しに出かけた寝子島漁港でとてもお安く猫缶がお求めできた。
「今日はラッキーということで」
膝の老猫が応じてにゃあと一言、重々しく鳴いた。
遠慮会釈なくご馳走にありつく猫たちを眺めて後、姫は小柄な体を跳ねさせるように立ち上がる。膝から落ちるも身軽に着地し不機嫌な声上げる老猫のふくふく腹をまた揉み、下駄を脱ぎ捨てて縁側から家に入る。
「きょーうのごはんはなーににしよー」
猫たちの饗宴を見ているうち、自分自身も腹が減ってしまった。
「さてー、何にしましょうか」
勝手知ったる猫屋敷に上がりこみ、あとについて回る何匹かの猫を足元にじゃれつかれながら、台所の冷蔵庫を覗き込む。冷蔵庫にどっかり鎮座する漁港で手に入れた格安魚類を確かめれば、今日のご飯はばっちり決定。
中学二年生とは言え、猫を喜ばせるための自炊スキルは万全に磨いている。同居の祖父も安心して老人会の旅行に行けるというもの。
慣れた手際で米を磨ぎ、炊飯器にセットする。
丸のままの烏賊のはらわたを綺麗に抜き取り、下足は取り置き胴は細切り。鰹のタタキと鮪の柵は切り分けて、お頭付の鯛は流し台で包丁の背を使って鱗を落とす。出刃包丁で頭を落とし、三枚に下ろす。漁港育ちの祖父に仕込まれた包丁捌きも慣れたもの。
鯛のあらは綺麗に取りおき、昆布と椎茸で取った出汁に突っ込む。味付けは白だしと生姜で簡単に。
そうこうするうちに炊けたご飯を丼によそい、紫蘇を乗せてから色んな刺身を盛り付ける。
（漁業の町の恩恵です）
出来上がった海鮮丼とあら汁を前に、姫は満足げに大きく頷く。足元で行儀よく座ってオコボレに預かろうとする猫の頭をついでに撫でる。
「羨ましい？」
そうでしょうそうでしょうと頷きつつも、
「あげませんよ」
決してやらず、熱い緑茶を淹れる。特に烏賊は喉に引っ掛かる。鯛のあらは固い骨が怖い。
「とゆかあなたたちさっき食べたでしょ、特にそこのおじいちゃん猫」
いつのまにかやってきて脛に尻尾を巻きつかせる老猫をどこからか取り出したピコピコハンマーで軽くはたく。
「某所に御住まいの胴長短足のおドム様みたいになっても知らんですよー」
ネズミも狩れません、とつけ足した一言に項垂れる老猫を台所に捨て置き、食卓に今日のごはんを並べる。
「いただきまーす」
そんなこんなな、猫屋敷の夕ご飯。
「と、うわちゃ、危な」
最後に淹れたお茶が熱すぎて零し掛けたが、できる姫様のご愛嬌。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2015年08月17日
- 参加申し込みの期限
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- 2015年08月24日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2015年08月24日 11時00分
