黒い絵の具で塗りつぶしたかのような空には、数え切れないほどの星々がきらめいている。
そこにぽっかりと浮かぶ月は、静かに揺れる暗い海を、優しく照らす――そんな、とある夜の砂浜。
※雑談トピックです。ご自由にお話しください。
※時間帯は夜~夜明けあたりまで?
嫌いです。慣れるため……でしょうか。僕は常に嫌いなものと共にある。それを克服しなければなりません……
見たくないもの、感じたくないものまで……月は照らしだす……
不眠症も慣れました。僕は覚醒は苦痛だけど、堕落した夢を見るよりかはマシだ……
(月に照らされた銀色の髪が風に靡き、憂いを帯びた顔を撫でる)
もし僕に付き合って頂けるのなら、是非。小生意気で理屈屋の育ち盛りで宜しければ。
ええ。元々は星ヶ丘で。
良い所、ですか。僕と貴方では見えるものが違いますから。貴方の景色には何が見えましたか?
星ヶ丘にゴンドラ乗りは居ない。あるのは虚栄と猜疑心。キャンパスに描かれた風景は、どこかで見て来たつくりもの
それが僕の星ヶ丘
死ねば唯の物だ。魂の容れ物に価値は無い。でないと、死ぬ意味が無い。この世界はで意味があるのは生きている者だけ。死者は生者の中で生きる。それもまた、生者が作り出した妄想にすぎない。
これは残された者の物語。貴方の本に続きを書くのは、老い先が短かろうが、貴方だ。
何も生まれない土壌なら、建物でも建てればどうですか。芽吹く時間が惜しい
木原さん。ですか。宜しく(軽く微笑)。僕は皆口従夢と言います。ふうむ、ピアノを、ね……
僕も興味がありますね。どこかで、誰かに大事にされているといいのですが……。壊れたピアノは直せない。しかし一流の職人ならば……
……壊れたピアノを直してまで使うぐらいなら、新しく新調すべきですかね。どう思います?
(冷めた目線を鹿黒さんに向け、無感動な声をだします)
ロマンス……ねえ。年甲斐もない反応ですね。まだその人の事……
(最後に少し、口許が緩みそうになったので、そっぽを向いて言葉を切った)
はあ、どうも。悪い名前だと言う感想も聞いたことがありません。名乗ってくれなければご隠居とでもお呼びしようかと思ってましたよ。
合わせる手がないでしょうに
そうですね。
(月の方に顔を上げて、何を見るでもなく、子供が絵本を読むように意味のない文字を追うように)
失ってから気づきます。僕は、もう失いたくはありません。
だから、何もいらないと、いっているのです。
(じぃーと、月とにらめっこ。そのまま目から、つらりと、ほんのひと滴)
……。
(膝を抱えて縮こまり、警戒する猫の目つき)
ん~。とても木原さんと同年代とは思えないなあ……
(鹿黒さんと眼が合うと、また後ろを向く。細い髪がはらはら舞って、静かに落ちていく)
月光は嫌い、海も嫌いかな。では何故こんな所に?嫌いなものに近寄る習性でもあるのかね
それとも慣れる為の訓練?
月の光は神秘を起こす。夜の青い海は幻想的でインスピレーションを刺激する。
君は育ちざかりだ、不眠症は辛いだろう。こんな老いぼれでよければ話し相手になるが……
ああ、僕の心配はいらないよ。老い先短い身、自分の事はよくわかっているつもりだ
星ヶ丘の出身かな?あそこはいい所だ。
丘に立ち並ぶ瀟洒な白亜の家々は地中海の保養地の景観を思い出す。……君にはいい思い出がないらしいが
ヴァネツィアは芸術家の都だった。とても美しい街だったよ……目を瞑れば潮の香りと共に鮮やかに甦る。ゴンドラ乗りの陽気な歌声もね
君はまだ若い。過去を振り返るには若すぎる。
……だがね、失った人を悼む行為すら赦されない人生などというものがあれば、あまりに無味乾燥じゃないかな
そんな乾いた土壌からは何も生まれはしないよ
ああ、申し遅れたね。僕の名前は木原一颯、元はピアノ職人だった
寝子島には楽器作りの工房があってね……そこで仕事をしていた
僕の作品を見たい?……申し出は有り難いが、もう引退してしまってね(肩を竦め)好事家の間に出回っている一部を除いて、手元にも置いてないんだ
落ち着いた革の表紙か……光栄だね。さしずめ貴方は黒い鞣革の表紙かな?
おや、ロマンスの話はいやかい?期待したのだが
ならば無理にとは言わないが……こんな夜だ、月の光に酔い痴れて口が軽くなってもいいじゃないか
作品、工房、というとアレですか。何かの職人でもしてらしたんですかい?
貴方なら繊細な品物を造りそうだなァ、今度機会があればみせてもらいてェもんです。
貴方にも伴侶が?なら貴方の本ってヤツもきっと素敵でしょう。落ち着いた皮の表紙が似合いそうだ。
……ロ、ロマンス……、ロマンス!?
いや、その、あー、勘弁して頂けませんかねェ……。流石に素面でんなこと、小っ恥ずかしくてとてもとても……。
(照れ隠しに足元の波をばしゃりと蹴り上げ、皆口さんへと視線を移す)
了解、坊や。良い名前じゃねェか。……そういや俺も名乗ってなかったなァ、鹿黒だぜ。よろしく。
はは。まァ溺れてたら手ェくらいは合わせてやるよ。俺ァミイラ取りにゃあなりたくねェからなァ。
感傷は嫌いか。そうか。お前さんもいつか分かるかもしれねェけどな。
本当に大切な人でも失ってみねェと分かンねェかもしれねェが。浸る感傷がねェのは幸せだぜ?
……あァ?何だ坊や。そんな眺めて面白ェ顔でもねェだろ。
(木原さんに視線を向けてから、再び皆口さんへと戻し)
日光は嫌いです。まあ白いのは生まれつきですが……
月の波動は五感や感性を研ぎ澄まされる力を秘めているそうですよ
あまり世界の出来事に敏感になりたくはないのですが……
成長が止ってしまうのならそれも構わないですね……。僕は不眠症なのです。日常が僕の眠りを妨げる。貴方も夜風に当たっていると体のに障りますよ……お年を召されているようですし……。
いえ、ご忠告は有難いですよ。せっかくの夜です。偶には、こうして月を眺めるのも悪くないですよ。
(鹿黒さんとは横を向いたままふて腐れて)
従夢です。……皆口従夢。それが僕の名前。
直視してないから問題ありません。それに怖い訳じゃないから平気です。
(「溺れても助けられない」という鹿黒さんの右腕を見て)……まあ、そうでしょうね……。助けて頂く必要はありません。だからこのままでいいです。(そう言うって膝を抱えて顎をのせる)
え……(鹿黒さんの年齢を聞いて驚いて鹿黒の顔を凝視。木原さんと見比べる)
星ヶ丘ですか……嫌な所だ。あそこには帰りたくないな。
ヴェネツィアですか……イタリアの……?さぞ綺麗な海だったのでしょうね。アドリア海の女王と言われるぐらいですから。
故郷に帰りたいだとか、失った人に会いたいだとか、僕はそんな感傷はきらいだな……。過去にとらわれる程無意味で滑稽なものは無い……。
僕にとって意味のあるものなんてあるのかな……
そうか、この島で生まれ育ったのか
この島はいい所だ。人は健やかで優しく自然が溢れていて……僕も青年期はここで過ごしたよ。島に工房があってね……そこで作品を手がけた
そうだね……帰りたいと思った事が一度もないと言えば嘘になる。ヴェネツィアには思い出が多すぎる。辛い事も嬉しい事も……運命の女性と出会ったのもあの街だった
僕はもう還暦近いよ。君は若作りだね。年齢を聞いて驚いた。なんともはや……
出会いと別れが綴じ合されて一冊の本を作る。僕の本はもう終わりにさしかかっているが……さて、タイトルはなんとつけようか
伴侶と……それは辛いね
もしよければ奥方とのロマンスを聞かせてくれないかね
初対面で不躾かもしれないが……月の綺麗な夜にはふさわしい話題だ
なんだよ、坊ちゃんは坊ちゃんだろ?ならお前さん、一体何て呼びゃあいい。坊やか。そうか。
海嫌いってのにお前さん、波際まで来て大丈夫なのかよ。
溺れても助けられねェぜ、俺ァ。だからもう二三歩前行け、ほれほれ。
へェ、星ヶ丘に。俺ァ生まれも育ちもこの島でしてね。
外国暮らしか……、それは稀有な経歴で。帰りてェとは思ったことなんて、あるもんですかい?
貴方も随分お若い気性に見えますが。俺ァもう50過ぎでして。
出会えば必ず別れるもんでさァ。きっと貴方もそうでしょう?
俺もコイツを見送って随分経ちます。
(左手の薬指に鈍く光る指輪を、微笑みを浮かべながら眺める)
夜行性なのかな。月光浴とは酔狂だね。だから色が白いのか……
育ちざかりの若者が不規則な生活をするのは感心しない。睡眠はたっぷりとらねば日常の妨げとなる
……まあ、こんな素敵な夜までうるさく言うのはよそう。老人の繰り言は流してくれたまえ
確かに、眠ってしまうには惜しい夜だ。月の魔法にかかってしまったのかな
僕は星ヶ丘に住んでいる。その前はヴェネツィアにいた。潮の香りを嗅ぐとあの街を思い出す……
若い頃とは見え方が違う、か。ふむ、興味深いね。
貴方はお若く見えるが……ひょっとして僕とそう変わらない年代なのかな
ならば人生を変える出会いと身を引き裂く別離の体験を重ねてきただろう。
誰かと一緒に見るのと独りで見る海の色は違う。海とは心を映し出す無限大のキャンバスだ
この海もあの街へ、ヴェネツィアへ繋がってる。そう思うと感慨深い……寄せては返す波音に心を連れ去られそうだ
(鹿黒さんと目が合うと、ぷいっと顔を背け)
嫌いは嫌いです。水面を見てるとくらくらする。まあ……泳げないでしょうね……。
(鹿黒さんの少し隣に海には背を向けてしゃがみ込む)
……あとその「坊ちゃん」てのよして頂けませんか?
(話し掛けられると思っていなかったのか、目をぱちくりとさせて顔を上げる)
ん?あァ、そうだな。天気も良いからなァ、今日は。
景色も良いし、星もよく見える。
若い頃とは見え方も違って面白ェもんだぜ。
(ゆったりと立ち上がって向き直り、帽子をちょいと持ち上げ)
はじめまして。と、あァ?いつぞやの坊ちゃんか。
海嫌いってお前さん、格好付けてなンでェ、カナヅチかい?
ええ。まあ。散歩……のようなものです……。
そうですね……夜は……僕の時間。砂浜にはあまり来ませんが。僕は、海が苦手なので……
(そう言って、憂いを帯びた顔を空に向け、そっと髪を撫でる)
ええ。今夜は散歩するのにいい日ですね。
以前は何処か別のところでお住まいだったのですか
そうでしょうか……僕はこの島にずっといれば、当たり前なのでしょうか。息はしにくいな、と思う事は少々ありますが。空気が澄んでいるとは、そういう意味ではありませんでしたか。
おや……僕以外にも夜の浜辺を歩く趣味人がいたとは
君達も散歩に?(鹿黒さんと従夢くんを等分に見比べ)
今宵は月が明るい。星も綺麗だ。この島は空気が澄んでる……
(砂浜で寝転がってぼんやりと空を見上げていたが、人の気配に気づいて、はっと起き上る。鹿黒さんと木原さんの姿を見つけ、ぱたぱたと服についた砂を落として、ゆっくりと立ち上がる。砂浜を歩いている木原さんに近づていき、軽くお辞儀をし、そっと微笑します)
どうも。こんばんは。星の綺麗な夜ですね
(視線を鹿黒さんの方に移し)
あちらの方も星を見に来たのかな……?
(波打ち際にしゃがみ込んでのんびりと空を見上げていたが、
視線を落としてレインブーツを濡らす波と海を目を細めて眺め始める。)
(黒い杖をつきつつ外套を羽織った老紳士が歩いてくる)
ふう
……今宵は星が綺麗だ
海も凪いでる
はて、誰かと出会わぬものか