＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ

●人質救出作戦

　一刻程前の事である。
「間違いない、あそこだよ」

　エヴァ・ブランシェと小山内海は、伊藤佳奈のろっこん＜イマアイニユキマス＞に導かれ、五の槍のあった浜辺の居並ぶ奇岩の影に身を隠していた。途中で合流した、朝鳥さゆるも一緒だ。
「ロロレンロ」
　佳奈が九月の顔を思い浮かべもういちど＜イマアイニユキマス＞を発動させると、現れた光は間違いなく、この先に停泊しているシーノの船へと伸びている。四人は互いに顔を見合わせると奇岩の影を飛び出した。

◇

　薄暗い船倉。捕らえられた神薙焔と双葉仄ははじめこそ騒いだものの、力尽きている九月や他の仲間たちのことを思うにつれ、体力を温存しておこうと考えるようになった。壁に凭れしゃがみ込んで目を閉じる。そうしていると時間の感覚がだんだん乏しくなってくる。
　どれだけ時間が過ぎただろうか。仄と焔は足音が近づいてくるのに気づき、気だるげに顔をあげた。
　耳を澄ませていると「交代の時間よ」と声に続いて、ウッという男の呻き声、どさりと麻袋が転がる様な音。
　かちゃりと鍵が開き、扉から差し込む白い逆光に浮かび上がった男のシルエットに、焔は目を瞠った。
「尾鎌ちゃん！？」
「しっ……助けに来たわよ」
　サングラスを外した尾鎌蛇那伊は唇に指を当てウィンクする。仄は声を潜めて笑う。
「なんだその格好は」
　なにしろ蛇那伊は、シーノの連中と同じ黒いスーツに身を包み、化粧を落として前髪をおろしているのだ。
「ふふ、シーノの兵隊に成りすましてたの。それより、いま縄を解くわ」
　蛇那伊は三人の縄を解き、焔と仄に怪我がないことを確かめると、ぐったりしている九月を背負う。
　と、そのとき、甲板の方から怒号が聞こえた。
「あら。ちょうどよかったわね。他にも助けが来たみたいよ」

◇

　蛇那伊たちが飛び出すと、クルーザーのデッキでは、船に残っていた黒服たちと乗り込んできた佳奈たちとが乱戦を繰り広げていた。
「九月ちゃんを返せー！」
　佳奈がカットラスで峰打ちする。その佳奈に襲い掛かろうとする黒服に、路地での戦いで奪ったナイフを投擲したのはさゆるだ。
「あっ、ありがと！」
「どういたしまして。それより後ろ」
「うんっ！」
　佳奈は低くしゃがんで別の黒服の攻撃を躱すと、その脚を掴んで引きずり倒す。
　その隙に九月を探そうとエヴァと海は船内の扉を開け、――蛇那伊と鉢合わせして驚いた。
　
「お迎えありがと。人質はみんな無事よ」
　エヴァたちは、蛇那伊が潜入していることなどこれっぽっちも知らなかった。けれど蛇那伊に背負われた九月、そして、焔、仄の姿を見つけると、安堵と感激の声を堪えることはできなかった。
「よかったわ！　――あっ、でも、槍！」
　それなら見つけたよ、という風に指差したのは海だ。ちょうどシーノの船の真下、奇岩の影に、消えたときそのままに槍と瓶とを乗せた荷車が置いてあった。守っている黒服はひとり。
「私に任せろ」
　仄がそいつに向かって、鍵を開ける仕草をした。

　――がちゃん。
　その途端、男は頭を抱え、もだえ苦しみはじめる。
　仄がろっこん＜オレンジ＞で、彼に恐怖を思い出させたのである。
　仄は振り返るや、なおも自分たちに襲い掛かって来ようとする黒服にも『がちゃん』。
　一行はこの隙になんなく船を下り、易々と荷車を取り戻すことができた。
「待て。それは火鼠か？」
　仄がエヴァに何事か耳打ちする。エヴァは頷くと瓶を緩め、＜タービュランス＞で瓶ごとシーノの船に投げ込んだ。エヴァの狙い通り空中で瓶の蓋が開き、火鼠が飛び出すのが見えた。仄は満足げだ。
「これでいい。私たちを追ってくるどころじゃなくなるだろう？」
　遠ざかりながら聞く、船からの悲鳴。ぶずぶすと上がる黒い煙。
「人質なんぞ取った報いだ。しばらく火鼠と遊んでろ」

　――これが、人質救出作戦の顛末であった。すなわち――、