＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ

●対話

　八神修は沈思黙考していた。
「シューくん。シューくーん？」
　友人の椿美咲紀の声も聞こえないほどに。
「シューくんてば！」
「あ、ああ。すまない。考え事をしていて」
　修は顔を上げ笑みを作る。美咲紀の笑顔と、その向こうのステンドグラスが、一気に視界に入って来た。

「それは見ればわかります。それで？　謎は解けたんですか？」
「ああ。歌とステンドグラスの謎はもう解けてるんだ」

　王宮の広間には、槍を手に入れた者が集まっていた。
　修は歩きながらステンドグラスを指差す。
「あのステンドグラス、海の波間に泳ぐクジラと、赤い月、それから星という図案だよな」
　それを聞き、豪が夏朝に耳打ちする。
「あの丸いの、月なのか？　赤いじゃないか」
「龍目先輩、航海に出るときに見たじゃない、真っ赤な月」
「そうか、忘れてたぜ……」
　修が説明を続ける。
「『月を落とせ　星を落とせ　鯨を殺せ』――これは、月星鯨の絵を構成する色を撃てば良い、という意味だ」
「つまり、黄・橙・赤・緑・水色だね」と夏朝。
「そうか。５本槍があるなら５色の珠を打ち抜くのが自然だもんな」
　と豪も得心する。とそこでまた首を傾げ、
「じゃあ後半は？　『暗闇に　月よ昇れ　星よ昇れ　鯨よ泳げ』だから……昼のうちに珠を打ち抜け？」
「いえ先輩、おそらく、前半の歌の逆構成発想だと思いますよ。月と星と鯨の色を残して、残りを打ち抜く」
　豪はなるほど、と頷き、美咲紀も「さすがですシューくん！」と感心しきりだ。

「ただ、」と修は物思いに沈む。
「本来の時の流れに戻る、と言ったが……具体的に、この島は、島の人々はどうなる？」
　修に見つめられれば、ジュニアスは苦悩を眉根に宿したまま、黙して首を振るばかり。
「考えられるのは、時の流れに飲まれるとか本来の年齢になるとか、……か？」
　修の推理に首を振ったのは桜庭円だ。
「そんなのボクはいやだよ。出来れば、自棄にならず他に希望が、方法が無いか、足掻いて欲しい。悲しい結末じゃなく、笑顔で終われる結末であって欲しい」
　円は胸を掻き抱き、まだ龍の抜け道から戻らぬ梨香を思い、ジュニアスに訴える。
「コウさんとジュニアスさんに会いにこの地に来ている、『魔法使いの目』のペンダントを付けた梨香さんは貴男の娘の子孫です。貴男の娘は、自分の故郷を探すためにシーノを起し、『魔法使いの目』を受け継ぎながらこの地を探してきた。自らの源流を探る為、思いを繋いで来た。梨香先輩の旅の終わりが、３００年繋いだ思いや夢の結果が、報われる結果であって欲しい。滅ぶだなんて……寂しすぎるよ！」
　修が円の肩にそっと手を置いた。
「桜庭……」
「ねえ、ボク、間違ってるかな？　そう思うのは悪いこと？」
「悪くないさ。ただ、俺は……ジュニアスたちを自由にしたいと思っている。時の虜囚から放たれた時に、時空の逆流の中で消えるとしても、彼らが選ぶのなら俺は異を挟まない。辛くともだ」
　コウが円と修、ふたりを抱きしめる。
「そなたたちは、ふたりとも、いい子だな。どちらの気持ちも嬉しく思うぞ」
「コウ。正直に教えてくれ。それで、いいのか？」
　修が問う。
「ははは、木乃伊であった我に問うか？　そなたらのお蔭でふたたびこの地を踏むことが出来、ふたたび愛する者に会えた。これ以上を願ってはバチがあたるというものよ」
　円は潤んだ瞳でジュニアスを見あげる。
「ジュニアスさんは？　それでいいの？」
「聞かないでおくれ。私とてかつては白く輝く太陽をどれほど見たいと焦がれただろう」
「そうだよ。太陽、見ようよ」
「だが、もう、私たちは疲れてしまったのだ。いまはただ、深く、深く、眠りにつきたい」
「そんな……」
　ジュニアスが静かに瞼を閉じるのを見ると、円は俯いて口唇を噛んだ。諦めたくなかった。それでもなにか、方法があって欲しい。そう思わずにはいられなかった。

　そのときである。広間の扉が大きく開き、龍の抜け道に行っていた一行が帰ってきたのは。

「ビックニュースよ！」ブリジットは言った。
「歌には三つ目があったの！　この島を滅びの運命から救えるかもしれないわ！」

　だが、この三つ目の歌の話が語られるより早く、事態は急を告げたのだ。
「来たぞ！」
　屋根の上で見張りについていた御剣刀の声。神出鬼没のサキリが一瞬だけ姿を現す。
「みんな、気を引き締めて。手筈通りによろしく」
　そうだ、ここからが正念場だ。