【前回までのあらすじ】
嵐の中、幽霊船をクラーケンにぶつけるという作戦で海の藻屑にした一行は、
なお迫るクラーケンの魔手にあわや沈没かというところを助けられ、
とうとう目指していた宝の島に辿り着いた。
辿り着いた<伝説の宝の島>――名は、リ=ウグウ。
一方、梨香は所属する組織シーノに無断で今回の冒険に出たことを明らかにする。
紅梟号とリ・ボーン号は砂浜に打ち上げられていた。
その脇に、クラーケンから救ってくれた丸い亀のような乗り物が寄り添う。
ハッチが開き、中から異星人のような出で立ちの者が現れるのを、みなは甲板の上から見守る。
「世界に裏側があるっていったら信じる?」
遮光器のような巨大なゴーグルを外しながら少年は言った。
「嵐の渦の中を通って世界の裏側に行けると言ったら?」
いつか見た金貨によく似た波模様が描かれたスーツを脱ぐ。
「あなたたちを歓迎する。かつてこの島を旅立った海賊女王と、神落つる島から来られた客人よ」
中から現れたのは金髪、そして青白い肌。
「ぼくの名はニコ。ようこそ、リ=ウグウ国へ。あなたたちを待っていた。ぼくたちを助けてほしいんだ」
◇ ◇ ◇
「綺麗……」
十朱 此方はため息をつく。
島は、まるで黄金で出来ているかのように煌めいていた。
建物にも、道にも、あらゆるものに描かれている波模様は、発光クラゲのように青や白や橙に波打って瞬く。
見上げれば空は濃いインディゴブルー。
旅の始まりに見た真っ赤な月が、我が物顔でその奇妙な空に浮かんでいる。
時折、万華鏡のような光がちらちらと差し込む。よく見ればそれは魚だ。魚が空を泳いでいるのだ。
「あれは、なに?」
此方が指差したのは、醜くひび割れた皮膚をもつひときわ大きな白い魚。ニコが答える。
「
嵐クジラ。その名の通り嵐を起こすクジラだよ」
「じゃあ、あれは?」
島の周りを取り囲むように高い塔が九つ立っている。塔からはそれぞれ違う色の光が漏れている。
「
使役の塔。あの光が嵐クジラとぼくらを呪ってる」
一行はニコに導かれ、島の中央にある鳥かごのような丸屋根の宮殿に招かれた。
御簾で仕切られた部屋に通され、波模様の服を着た青白い肌の人々のもてなしを受ける。
その間、ニコはいろいろな話をしてくれた。
「嵐クジラの起す嵐は島を世界から切り離し、時空を乱す。世界の裏側っていうのはね、時の流れがおかしいんだ。3年が100年に、千年が1日に。昨日の事は遠い未来で、大昔の事が明日起こる。そんな世界の裏側に宝を隠しておきたい海賊はたくさんいる。そして宝を求める海賊も」
そう言って肩を竦める。
「この島は宝を隠すために海の底に縫いとめられたんだ。嵐クジラと一緒にね」
ニコは吐き捨てるように言った。
「海賊は嫌いさ。でも君たちは別。紅梟号。神落つる島から来た船。神の力を授かりし者。
ぜんぶ見てたよ。紅梟の目を通して。君たちを見込んで頼みたいことがある」
そのとき、部屋の外から穏やかな声がして御簾が引き上げられた。
「ニコ、お客様を困らせてはいけないよ」
現れたのは他のものより仕立ての良さそうな衣装の、華奢な男。コウが目を見開く。
「ジュニアス!」
「よく戻ったね私の海賊女王。また会えて嬉しいよ」
リ=ウグウの王子、ジュニアス。コウの夫がそこにいた。
「まだ生きてたんだね」
「呪いのせいさ。君こそ変わらない」
「そういって貰えると嬉しいよ」
ふたりは熱く口づけし、それから皆の前であったことに気づいて恥じらいの表情を浮かべた。
「ああ――私たちの再会を喜ぶのはあとにしよう。ニコの話だが……私からもお願いできないだろうか。
この島と嵐クジラを役目から解放して欲しい。我々は互いに嵐の中に縫いとめられ宝を守りつづけることに倦み疲れているんだ。我々は自由を望んでいる」
「そう言われても……」
突然のことに
坂内 梨香は渋る。だがジュニアスは真摯に頼み込んだ。
「頼む。神落つる島の民にしか頼めないんだ。
この島には五本の槍がある。
その槍を抜き、この島の九つの塔に灯る光珠を打ち抜いて欲しい。
正しい光珠を打ち抜けば、我々はこの呪われた嵐から解放される。
君たち神落つる島の民も、ここに一生留まるわけにもいくまい。
うまく行けば充分な礼も約束しよう。鈴島海賊……コウの遠い先祖の宝を土産に帰るのもよかろう?」
そのとき、ざんぶと水しぶきの音がしてインディゴブルーの空が割れた。
船だ。紅梟号のような帆船ではない。白い流線型のクルーザー船である。
「シーノの船だわ……どうやって……」
梨香が苦々しげに呟く。
幾人もの黒服の男たちの中に奇妙な片目サングラスの男を見つけると梨香はさらに眉間に皺を寄せた。
「ボス、リアージオ……」
鬼崎 あやめもため息をついた。
「ああ、リンコさんもいますね……また面倒事ですか」
「ここまで来たら乗りかかった船です。神落つる島の民、本領発揮と行きましょう」
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
十朱 此方さん、鬼崎 あやめさんにガイドにご登場いただきました。ありがとうございます。
<鈴島海賊の秘宝>シリーズ(略して秘宝シリーズ)第4話です。
【秘宝シリーズ】
<鈴島海賊の秘宝I>海賊女王のピラミッド
<鈴島海賊の秘宝II>赤い寝子島の冒険
<鈴島海賊の秘宝III>海へ
<鈴島海賊の秘宝Ⅳ>伝説の島リ=ウグウ このシナリオです。
前回から引き続きご参加の方……紅梟号あるいはリ・ボーン号でリ=ウグウに辿り着きました。
今回からご参加の方は、開始時の状況下記の3つどれかから選び、アクション冒頭に記号でお書きください。
(1)紅梟号あるいはリ・ボーン号にじつは乗っていた
(2)難破した他の船の乗員でたまたま流れ着いた
(3)旅立ちの日、星ヶ丘マリーナ付近をうろうろしていたら、
ろっこんの力を見込まれ、シーノに連れてこられた
(自発的について来た、無理やり連れてこられたなどご自由に)
リ=ウグウについて
高い塔の上に立てば余裕で見渡せるほど小さな円い島。
100人ほどの青白い肌の人々が住む。
中央に鳥かごのような王宮があり、王宮を取り囲むように街が広がっている。
その外側、島を取り囲むように九つの塔が立っている。塔の中は空洞で、巨大な丸い光珠が浮かんでいる。
五本の槍と九つの塔について
槍を抜いて、光珠を撃ち抜くべし!
ただし!
槍は扱いが困難な特別な宝を封印する役割のものなので、抜くと困ったことが起こります。
光珠は正しい色を打ち抜かないとジュニアスたちの願いを叶えることができません。
●<手がかり1>九つの塔の明りの色・王宮のステンドグラス
九つの塔から洩れる明りの色は看板イラストの通り。
王宮には大きなステンドグラスが掲げられている。(看板イラスト中央)
●<手がかり2>月と星と鯨の歌
この歌はステンドグラスの周りに刻まれている。島の人は誰でも知っている歌。
ジュニアスは前半の青字部分のみを歌って聞かせてくれた。
月を落とせ 星を落とせ 鯨を殺せ
輝く海と空の間に
さすれば時止まり我帰る
暗闇に
月よ昇れ 星よ昇れ 鯨よ泳げ
さすれば時巡り我進む
●<手がかり3>五本の槍について
不思議な力を抑える槍。
扱いが困難な特別な宝を封印するために島の各地に刺さっている。
槍にはそれぞれ特徴がある。
一の槍:掴むとビリビリ痺れる槍
場所:鳥かごのような丸屋根の宮殿のてっぺん
封印されている宝:雷鶏(ひと鳴きで雷を呼ぶ鶏、対処しないと近くにいる人は雷に打たれる)
二の槍:とても重い槍
場所:宮殿の地下深く、金貨で埋め尽くされた「呪いの金貨の部屋」
封印されている宝:呪いの金貨(近くにいる生物にどんどん貼り付き、最後にはその重さで殺してしまう)
三の槍:目には見えない槍
場所:宮殿の地下牢のどこかに隠されている
封印されている宝:亡国の手帳(手に取った人の近い未来に起こる不幸を予言する)
四の槍:掴むと熱した鉄の棒のように熱い槍
場所:市街地の路地裏
封印されている宝:火鼠(炎の毛皮を纏うネズミ。対処しないとあちこちに潜り込んで火をまき散らす)
五の槍:掴もうとすると素早く避けて掴みにくい槍
場所:浜辺
封印されている宝:金の金魚(金でできた金魚。鉄砲玉のように突撃してくる。素早い)
シーノについて
シーノはこの島を丸ごと手に入れたいと思っているため、
PCたちの邪魔をしてくる。宝もあわよくば手に入れようとする。
シーノは「月と星と鯨の歌」の後半(緑字部分)に強い興味を示している。
このシナリオについて
下記選択肢【A】~【C】から今回の行動に近いものをひとつ選んでアクション冒頭にお書きください。
【A】リ=ウグウの民の願いを叶えるために動く
・五本の槍を手に入れる(対応できるのはどれかひとつ)
・槍を手に入れたあと、宝の力に対処する
・歌の謎を解く
・シーノを退ける など
【B】シーノ側につく ※高難易度
・リンコあるいはボスと接触し、協力する
・五本の槍が守っていた宝を手に入れてシーノのものにしようとする
・歌の謎を解く
・梨香たちを退ける など
【C】その他
<秘宝3から引き続きご参加の方へ>
※秘宝3で使っていた武器などは持ち込めます。
※秘宝3でアクションに書いた持ち物の外に、
持っていても不自然でない、鞄に入る日用品程度のものなら追加で持ちこめます。
※オウムやお猿さんなどのペットも大丈夫です。
<今回からご参加の方へ>
※携帯電話、電子機器は正しく動作しません。
※持ち物はそのPCが持っていて不自然でないものであれば、いくつでも持ち込めます。
ただし、必要がなければ描写されない場合もあります。
NPC
NPCもそれぞれの目的をもって独自に行動しています。
誰かに付いて行ったり、誰かを誘ってみたり、働きかけたりすることで何かが変わることもあります。
(1)坂内 コウ
状況:紅梟号船長。懐かしさで胸がいっぱい。
目的:すでに死せし身。この島に残ってここで眠りたい。
行動:夫と共に王宮で待つ。
(2)坂内 梨香
状況:念願の宝の島に辿り着き感激しているが、シーノを警戒もしている。
目的:リ=ウグウのことをもっと知りたい。シーノの企みは阻止したい。
行動:リ=ウグウの民の願いを叶えるために動く。シーノに対しては敵対行動を取る。
(3)リンコ・ヘミングウェイ
状況:リ=ウグウに潜入した模様。
目的:心情的には梨香の味方。表面的にはボスの味方。
行動:隙を見て、密かに梨香たちの手助けをしてくれるかもしれない。
(4)シーノのボス・リアージオ
状況:他のシーノの手下とともに島に潜入した模様。
目的:宝の島を我が物にしたい。
行動:どこかに潜んでいて手下に指示を下している。手下の数は現時点では不明。
(5)リ=ウグウの統治者・ジュニアス
状況:柔和で華奢な中年の男性。コウの夫。皆を歓迎している。
目的:解放されたい。
行動:王宮にいる。
(6)リ=ウグウの少年・ニコ
状況:14~5歳の少年。青白い肌、肩で切りそろえた金の髪。工作好きの溌剌とした少年。
目的:外からの客人がめずらしい。交流したい。
行動:島を案内してくれる。
それでは今回もご参加お待ちしております!