＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝IV＞伝説の島リ・ウグウ

●三つ目の歌

　シーノを呪いの金貨部屋に誘い込むという作戦は、大白星を挙げたと言っていいだろう。
　運のいいことにシーノの船の方も蛇那伊たちが混乱に陥れてきた。後方攪乱班が仕留めた者も含めて数えてみれば、シーノのほとんどが役立たず状態のはずである。
　事を為すにはいまがチャンスだ。
　槍は混乱の隙に夏朝や豪たちの手によって紅梟号から持って来た盾のような板と一緒に資材に偽装してある。運び手の準備も万端。あとはどれを撃てばいいかだ。

　　白く輝く太陽を撃て
　　　　　　　そして鯨の咆哮を聞け
　　　　　　　　　鯨は本来の姿を取り戻し　新たな旅路へつくだろう

「これが三つ目の歌よ」
　ブリジットが運んで来たこの歌が本当に救いの道なら、それに希望を託したい。
　だからこそ円はブリジットに迫る。
「白を撃てってこと？　ひとつだけ？　でもステンドグラスの中に太陽なんてなかったよね」
「そうせっつかないでよ円」
「仕掛けがあるのよ」
　ブリジットの代わりに能美子が答え、梨香に目配せをする。
　梨香は胸元からあの＜魔法使いの目＞を取り出して。
「これが鍵だそうよ。方法もニコに聞いて来た。けれど、一度仕掛けを作動させたら後戻りはできないって」
「三つ目の歌を実行するとどうなるんだ？」と修が問う。
「私にはわからない。でもニコがこれでいいって言ってたの。私はニコを信じるわ。あとは――」
　そう言って、能美子はジュニアスを見た。
　彼が当事者だ。彼の決断を、一番に尊重したい。それはみんなの思いでもある。
「ニコはどうしただろうか？」
「どうしてもやらなければならないことがあるからって、ここには寄らずに別れたわ」
「そうか。では、私に決めろということだな……」
　円が梨香の手を取り、ジュニアスの手と引き合わせた。
「＜魔法使いの目＞……かつて、娘さんに託したのはあなたですよね、ジュニアスさん。なにか謂れがあったんじゃないですか？」
「謂れ……いや、ただ、私もそれを父から受け継いだのだ。『夢を見たくなったら＜魔法使いの目＞を覗いてごらん』と」
　梨香は静かに＜魔法使いの目＞をジュニアスに手渡した。目のかたちの装飾の中に、琥珀の宝石。その琥珀越しに、ジュニアスは瞳を瞬かせる。一筋、涙が頬を伝った。
「何が見えますか？」
「君が見えるよ、私たちの遠い子ども。そして、愛するコウ、君が。私たちのために力を尽くしてくれる若者たちが。美しい私たちの島が」
　それから気づいた。能美子が見つけたくじらの目のくぼみ部分が、キラキラと輝いて見えることに。
「――『夢を見る』か……ああ、もう一度だけ、賭けてみよう。新たな旅路に」

　こうして、ジュニアスは決断した。
　梨香は梯子に上ると、胸から下げたペンダント＜魔法使いの目＞を、ステンドグラスのくぼみに押し当てた。
　その途端、色とりどりだったステンドグラスがまるで太陽のように真っ白になった。
　外を見ていた此方が息を飲む。
「塔の光の色も変わった……？」
　それぞれ別の色を宿していた九つの塔。それが、星、月、鯨を示していた黄・橙・赤・緑・水色の塔が白に、それ以外の塔は明りが消え、黒に変化したのだ。
　ジュニアスはコウを抱き寄せると、覚悟を固めた強い瞳で一同を見渡し、そののち深く頭を垂れた。

「君たちに頼む。白い光をすべて撃ちぬき、私たちを新たな旅路に導いてくれ！」