＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ

●決着

　蛇那伊と刀、黒髭のグジの戦いは膠着していた。
　２対１だが蛇那伊も刀も気迫で勝るグジに仕掛けあぐねていた。グジも、二人いっぺんには相手しかねるのか、鋭く間合いを測っている。
　蛇那伊は冷静に戦況を読んでいた。
（長引くとこちらが消耗する……けどここで仕掛けても返り討ちに合うのは目に見えてるわ。誰が最初にしびれを切らすか、それが勝敗を分けるわね）

　この均衡を破ったのは、後方からのグジへの一撃だった。
　船長室からの帰り、まだ決着が付いていないことを知った十朱此方が、透明になってグジの後ろへ回り、木刀で一撃入れたのだ！
　グジはこの見えない一撃に完全に虚を突かれた。
（動いた！）
　刀が＜加速＞する。グジの手首を叩き落とす。
　グジの両手はカットラスもろとも、宙に舞う。
　そこに蛇那伊が飛び込む。フェイントで手首のない攻撃を躱す。抱きつくように首に腕を回すとムエタイの首相撲の要領で抱え込み、徹底的に相手のバランスを崩す。
「反撃の隙なんて与えないわよ！」
　蛇那伊は離す事無く膝蹴りの連打を上半身となく頭部となく叩き込む！　叩き込む！　叩き込む！

「アーパパパパパパパパパパッ！！」

　圧倒的な連打の後、さすがのグジもその場に崩れた。
「これで止めだ」
　刀が高く剣を掲げたその時だ。

「生ぬるいね、火だるまになりたくなきゃどいてな！」

　骨削瓢の声。
　リ・ボーン号から飛び移ってきた瓢は、しっぽの長い目つきの悪いサルをグジに向かって投げつけ、命じる。
「ボグル、あの真っ黒もじゃな野郎に抱きつけ！」
　ああ、なんということだろう。
　サルのボグルの腹には、瓢が船倉で見つけた火薬で作った簡易な爆弾が撒きつけられているのだ。
　短くなる導火線。
　ボグルは怒ったように駆ける。
　――瓢に向かって！！

「バカっ！　こっちじゃない！！　あの黒髭のヤツだよぃ！」
　瓢は慌ててマストに登った。
「……ったく、骨削は何やってるんだ」
　刀が＜加速＞した。ボグルを捉え、爆弾を縛りつけているロープを斬る。そして爆弾だけを海へ投げた。

　手作りの爆弾は空中で爆ぜた。
　危機一髪。
　……かと思われたが。

◇

「何っ！？」
　リ・ボーン号の見張り台で戦況を見守っていた双葉仄は、思わず双眼鏡を握りなおした。
　海から炎が上がっている。
　ちょうど前方、行く手のほうだ。
「どういうことだ？」
　仄は知らなかったが、瓢が船倉で見つけた油を海に撒いていたのである。瓢はあとで火を放つつもりだったが、爆弾の火の粉で予定より早く火がついたのだ。
　現行の作戦では、海蛇号を二隻で挟んでクラーケンの手前まで持って行き、クラーケンの直前で散開、クラーケンと海蛇号の相打ちを狙っていたが、いまここで前方の炎に突っ込んだら三隻ともお陀仏である。
　だが、このピンチにあってなお、仄は余裕の表情を崩さない。
「考えてもみたまえ。こんなときのためにいくつものプランを用意しておいたのではないか。予定より早いが、問題はない。幽霊船よ、ここでクラーケンの餌となるがよい！」

　仄はすぐさま発煙筒を上げる。色は紫。
　作戦パープル、海蛇号から離れろ、だ。

　あやめが舵を切った。
　リ・ボーン号は急転換で海蛇号を離れはじめる。気づいた瓢は慌ててリ・ボーン号に飛び移る。
　次いで紅梟号も離れはじめる。
「急いで！」
　ブリジットと海は、豪たち探検部メンバーの協力で先すでに紅梟号にいる。
　残るは焔と刀、蛇那伊の三人だ。
　紅梟号と海蛇号の間は、刻一刻と離れてゆく。
「跳ぶわよ！」
　焔はクラウチングスタートの体勢からダッシュ！　刀と蛇那伊も続く。グジに止めを刺していないが、もう構ってはいられない。この船と心中するわけにはいかないのだ。
　船が揺れる。
　三人はその揺れに合せ、タイミングよく踏み切ると、紅梟号へ大きく跳んだ。