【前回のあらすじ】
9月中旬、天宵川付近ある緑の丘が、人工のピラミッドではないか、と噂になった。
真相を確かめようとやってきた二宮 風太、坂内 梨香が、その丘に吸い込まれ姿を消してしまう。
報せを聞いた島の人々は、その『海賊女王のピラミッド』に挑み、見事、海賊女王の試練を乗り越えた。
鈴島海賊の最後の女首領で、<伝説の宝の島>に辿り着いたことがあるという海賊女王は、
ふたたび宝の島を目指すため、試練を乗り越えた人々に協力を求める。
そして隠された特別な船『紅梟号』を目覚めさせるため、皆を赤い寝子島へといざなったのだった。
真っ赤な光に包まれて急浮上するような感覚を味わいながら、
晴海 飛鳥はこの状況に興味深々だった。
まったく、この寝子島ってところは、なんて頻繁に怪奇現象に出会える場所なんだろう。
海賊女王のピラミッドってところに吸い込まれちゃって?
海賊女王の木乃伊がいて、
坂内 梨香の身体を乗っ取っちゃってて?
そんでもって見たこともない金貨と引き換えに宝の島に連れてって、だって?
これってシーノが探してる宝の島のことだよね。
その宝の島って、超古代文明のロマンとかそういうのかな?
意味もなく叫びたくなって、叫ぶ。
「わああああああああぁぁ~~~~~~~っ!」
落ちる、落ちる。光の中を。それはたぶん、ほんの一瞬――。
がくん、と振動を感じた。
海賊女王――坂内 コウが船長室の扉を開けると、そこは船の甲板だった。
「どうなってるの? これって砂漠かい?」
飛鳥は驚きの声をあげる。
あたりは一面、砂の海。地平線からまばゆい赤い月が昇り始めている。
世界はその光で赤く染め上げられていた。
「それにこの格好!」
気が付けば、みな海賊のような衣装を身に纏っているのだ。
「ようこそ、眠れる紅梟号へ。
ここは『赤い寝子島』――あのピラミッドから繋がる別の世界、といえばいいかな。
紅梟号の隠し場所さ」
海賊女王に促され、甲板から縄梯子で砂地に下りる。
船は、海ではなく砂漠のど真ん中で孤独に佇んでいた。
細身の船体も帆も赤く、帆柱は2本。
縮帆されているが前の帆柱には横帆を、後ろの帆柱には縦帆を備えている。
よく見ればあちこち色が剥げ、帆も痛んではいるのだが、老貴婦人のような凛とした気品が感じられる船だ。
船首には、船の名になぞらえたのか翼を広げた梟の船首像があり、黄金色の瞳で地平線を見つめていた。
「どうだ、美しいだろう? 宝島を目指すにはどうしてもこの船が必要だ。
紅梟号をもう一度、海へ。それが絶海の宝島を目指す我らの最初の仕事となる」
「どうやってさ?」
と飛鳥は尋ねる。
「嵐に乗じて」とコウは風の匂いを嗅ぎながら答えた。
「赤い月があの地平線に沈むころ嵐が来る。嵐が来ると島の中央の岩山を残して、砂漠はすっかり海になってしまう。それに乗じて船を漕ぎ出せば、そなたらのよく知る青い海に出られるという寸法だ」
「ただここで夕暮れを待てばいいのかい? そんなに難しくないね。どうして僕らの力が必要なの?」
「船はひとりでは動かせぬよ。亡霊ひとりではとてもな!」
そのときふいに黒い影があたりを覆った。飛鳥ははっとして肩ごしに振り返った。
影は船と同じくらい大きな鳥のものだった。
巨鳥は羽音も高らかに船に向かって舞い降りてくる。
「ロク鳥!」
コウが叫ぶのと、ロク鳥が鋭く尖った爪で船体を丸ごと掴むのとは同時だった。
甲板に残っている者が突然の出来事に喚き声をあげている。慌てて縄梯子に掴まる者もいる。
ロク鳥は、そんな彼らごと船を持ち上げると、島の中央に聳える岩山へ飛び去ってしまったのだ。
そのとき船首像のフクロウの目に嵌っていた黄金色の宝玉がふたつ、涙のようにぽとぽと、と落ちた。
物陰からしっぽの長い小ザルがぱっと飛び出し、そのうちひとつを掴んで持ち去った。
すべては、あっという間の出来事だった。
「しまった……!」
海賊女王は残った宝玉を拾い、小さく歯ぎしりした。クルミ大の梟の左目を胸の谷間に挟み込む。
「ロク鳥の奴、食べものといったら石化トカゲばかりなものだから、人間をご馳走だと思ったに違いない。巣に持ち帰って喰う気だな。それに、幸運の紅梟の右目も盗まれた」
「あのおめめって大事なものだったの?」
そう聞いたのは、ことの発端でもあった
二宮 風太だ。目覚めて運よく船から降りていたのだ。
風太は、自分が行方不明になっていたことも皆が探してくれていたのだということも分かっておらず、この光景も今起こっていることもすべて夢だと思っていた。頭にはバンダナを巻き、素肌に青い袖なしシャツを羽織った海賊風の格好で、まるでいっぱしの少年水夫のようだ。
「あの梟の両目は宝島の民がくれたもので、右目と左目、両方揃うことで宝島への道を指し示してくれるのだ。あれがなくてはたとえ船があっても、宝島へ辿り着くことはできぬだろう」
コウは、残った者たちを見渡して指を折った。
「問題はふたつ。ロク鳥に連れ去られた船とみなの救出、それとサルに奪われた梟の右目。
どちらも嵐が来るまでになんとかしなければならないぞ。
我はあの岩山にあるロク鳥の巣に向かう。サルの方は……」
「僕、おさるさんを探すよ」と風太。少年の勇敢な申し出に、コウはおやおやと目を細める。
「あいつは船の墓場を根城にしているらしい。盗んだものはきっとそこに隠すだろう。
果物が好きだから、もう少し月が高く昇れば、またどこかのオアシスに出てくるかもしれないな。
我が知っているのはそれだけだが、そなたらなら何とかしてくれると信じる。頼んだぞ」
コウは砂に指でこのあたりの地図を書き、岩山や船の墓場、オアシスの位置などを皆に教えた。
みなはそれを覗きこみ書きうつしたりする。そのとき、ふと顔を上げたコウは小さく舌打ちした。
「……ああ、それと問題はもう一つ」
砂の波頭の上に現れた這うような三つの影。
「じっと見るなよ。石化トカゲだ。睨まれると石になる」
すばやくあたりを見回す。東の方にオアシスが見える。
「石化トカゲは水が嫌いだ。オアシスまで逃げれば大丈夫。みな、あそこまで走るぞ!」
年少の風太や女子たちを急き立てながら、コウも外套を翻し走り出す。
瞬間、突風が吹き、砂嵐であたりが見えなくなった。
全員揃っているのか確認できなくなったコウは、口に砂が入ってくるのも構わず走りながら叫んだ。
「そなたらの命のために一番大切なことは、嵐のときに船に乗っていることだ。それは忘れるなよ!」
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
ガイドに晴海 飛鳥さまにご登場いただきました。ありがとうございます。
一度船から降りた描写になっていますが、ぎりぎり縄梯子に掴まったなどで【B】スタートも可能です。
もし不参加の場合は、このあと気が付けば元の寝子島D-8付近に倒れていた……とお考えくださいませ。
<鈴島海賊の秘宝>シリーズ(略して秘宝シリーズ)第2話、時間としては前回の直後(後編)にあたります。
今回のシナリオの目的は、宝の島へ行くための船を手に入れることです。
みなさまはこのシナリオの最後に、元の世界に帰ることができる……かもしれませんし、
今後さらに展開してゆくかもしれません。
海賊女王は我が儘な人ですが、みなさまそれぞれの目的を見つけて冒険をお楽しみいただければ幸いです。
それでは此度もよろしくお付き合いくださいませ!
キャラクターの導入について
○前回<鈴島海賊の秘宝I>にご参加いただいたキャラクターは……
気が付けば赤い寝子島にいました。
あなたの手には、波模様の金貨が一枚握られています。
前回の個別あとがきにておしらせした<持ち物>は、今回は記入を省略することができます。
※使用する際はアクションで宣言してください。
※前回の持ち物を持っているものとしてマスターがアドリブで使用する場合もございます。
※前回アクションに書かなかったものでも、ポケットや鞄に入る程度のものであれば
追加で持っていたことにして大丈夫です。アクションに記入してください。
○今回初参加のキャラクターは……
あなたは、風太少年が消えた話を聞いた、ピラミッドの噂を聞いた、等の理由で
天宵川ピラミッド付近(マップD-8)に来ていたところ、
突然赤い光に包まれて、気が付けば赤い寝子島にいました。
ここまでの状況は、その場にいた誰かが教えてくれた、ということでも
風太のように夢だと思っているのでも、お好きなように設定なさってください。
○前回参加いただき、今回ご参加いただけなかったキャラクターは……
あなたは、赤い光に包まれたあと、赤い寝子島には行かずに、ピラミッド付近に倒れていました。
ピラミッド内部で起こったことは覚えています。波模様の金貨を一枚手にしています。
もしかしたら、一緒に冒険した仲間のことが気にかかっているかもしれません。
赤い寝子島の世界ついて
太陽の代わりに赤い月が昇る世界です。体感温度は半袖でちょうどよいくらいです。
現在は夜明け。月が地平線に沈むとき、嵐がやってきます。
この世界にいることのできるのは嵐が来るまでの間(約12時間)です。
開始位置を選んでください。
【現在地A】……砂漠の真ん中。ロク鳥が来たとき、船から降りていた人はここがスタート地点です。
海賊女王コウは石化トカゲを避けるため<赤のオアシス>を目指しますが
別行動して他の場所に行ってもかまいません。
地図の内容などガイドにある情報は、コウに教えて貰って知っています。
【現在地B】……ロク鳥の巣がある岩山の頂。ロク鳥はそこに攫ってきた船を置きました。
ロク鳥が来たとき船内にいた人は、ここがスタート地点です。
船から逃げ出しても船に残ってもロク鳥の脅威はあります。
船はいま岩山の上にあるので、見渡せば地図の内容はだいたいわかります。
点線の部分は道です。
点線で繋がれた各ポイントの間は約2時間で移動できます。例)赤のオアシス→船の墓場 約2時間
島のその他の部分も、道はありませんが通れないわけではありません。
フツウの寝子島で川に当たる部分は、この赤い寝子島では枯れ谷になっています。
道以外の場所では石化トカゲが出没し、移動の危険度が増します。
<赤のオアシス><緑のオアシス><青のオアシス>では休息できます。
泉とちょっとした果物(ナツメヤシやザクロ、ブドウなど)の木があります。泉の水は飲めます。
休息すると疲労が回復します。休息なしだと疲労がたまり、ミスしやすくなったりします。
【赤い寝子島のおもな生き物】
石化トカゲ………この赤い月の世界でもっともポピュラーな生き物。
見た目は灰色の肌をしたトカゲで、大きさは鶏くらい。
その瞳に睨まれると石になってしまい、石化が解けるまで(約2時間)動けなくなる。
1匹~5匹ほどの群れで行動し、砂漠のあらゆるところに出没するおそれがある。
水が嫌いなため、オアシスを襲うことは滅多にない。ロク鳥が天敵。
ロク鳥……………巨大な肉食の鳥。石化トカゲが主食だが、今は人間がご馳走だと思っている。
船を土産に岩山に戻ったが、まだご馳走があるはずだと飛び立ったところ。
島の上空を旋回し餌を探す→巣に戻る……を繰り返す。
3~4時間に一度は戻ってきて、船の中のご馳走(みなさんのこと)を食べようとする。
石化トカゲに睨まれても石化しない。
サル………………しっぽの長い手乗りサイズのサルの個体。
果物と可愛い女の子が好き。ちょろちょろとすばしっこい。
オアシスに出没し、ちょっとしたものをすぐ盗んでしまう。
盗んだものは船の墓場のどこかに溜め込んでいるらしいが……?
【赤い寝子島の立ち寄りポイント】
赤のオアシス……赤い泉がある。
道に沿ってロク鳥の巣に行こうとしている海賊女王コウがまず立ち寄る場所。
緑のオアシス……緑の泉がある。
フタコブラクダの群れがいる。ラクダに乗ると移動スピードが倍になる。
ただし、ラクダはロク鳥を恐れていて、
青のオアシス→ロク鳥の巣の道は行きたがらない。
青のオアシス……青い泉がある。
カラフルなオウムが生息している。根気強く教えると単語を喋るようだ。
船の墓場…………乗り手のない木造帆船が多数打ち上げられている。
並ぶ帆柱は林のよう。壊れた船が重なり合っていて、ちょっとした迷宮のようだ。
※木造帆船にありそうなものであれば、ここで調達することもできます。
岩山………………島の中央に聳える、なめらかな赤い岩でできた山。
いまはその頂上に、紅梟号が絶妙なバランスで乗っかっている。
ロク鳥の巣………岩山に空いたうろの中には雛が1羽いていつも餌を待っている。
ふわふわした白い毛で可愛い。が、小学二年生の風太と同じくらいの大きさ。
人間を丸のみにするにはまだ小さすぎるかも。
お腹が空いたり困ったことがあると「ピーピー」と鳴いて親鳥を呼びます。
アクションついて
スタート位置を、【A】【B】どちらか選んでください。
この島でどのように過ごすかは自由です。
例えば……
・海賊女王コウとともに、ロク鳥の巣へと向かう?
・風太とともにサルが持ち去った<紅梟の右目>を探す?
・ロク鳥に立ち向かってみる?
・船をどうにかしようとする?
・新たな道を開拓する?
・石化トカゲに睨まれて美しい石像になる?
・そのほか思いついたことがあればサンプルアクションにとらわれず自由な発想でどうぞ!
この赤い月の世界では、何故かみんな思い思いの海賊衣装を身に纏っています。
希望の衣装などがあれば、アクションにお書きください。
とくに描写して欲しい箇所があれば、アクションを集中させたり
プレイヤーの目的に書くなどして、マスターが分かるようにしていただれば幸いです。
登場NPC
海賊女王(坂内 コウ)
……鈴島海賊最後の女首領。現在の姿は坂内 梨香のもの。
和服をアレンジしたような赤い海賊服の上に重厚な外套を羽織り、腰に2本、刀をぶら下げています。
二宮 風太
……寝子小2年生の少年。
ピラミッドに入ったあと気を失っていましたが、
赤い寝子島では目覚めて、みんなと一緒にサルを探すのを手伝ったりします。
まだ子どもなので、できるだけ誰かと一緒にいようとします。
リンコ・ヘミングウェイ
……シーノの連絡役。
赤い寝子島にはいませんが、坂内 梨香失踪の報を受けてピラミッド付近に来ています。
最後に……折角シルバーなのに海賊衣装のイラストなんかないよって思われるかもしれませんが、
そこはみんなで脳内補完しましょう!
ちょうどいいのがなければ、表情アイコンなんかだと使いやすいです。
それでは、みなさまのご参加をお待ちしております!