＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ

●リ・ボーン号突撃

　時子がそれを鞄に仕舞ったときだった。
　ドンッ、っと衝突音と共に横揺れがあった。
　尋常ならざる様子に、驚いて偵察に出た此方が報告する。
「リ・ボーン号が衝突したみたい」
「衝突……？」
　わざと……？　という言葉がすぐに時子の脳裏を過る。
「何か計画があるのでしょう……此方さん、ここからはバラバラに逃げましょう。その方がお互い都合が良さそうです……」
　此方は一も二もなく承諾した。此方は透明になることが出来るが時子には出来ない。時子は小鳥になることが出来るが此方には出来ない。お互いのろっこんの正体は知らずとも、ただ勇猛さだけでここに来たのではないだろうことは勘付いていた。一緒だと却って逃げ延びるのに不都合だということをふたりとも一瞬のうちに悟ったのだ。
「幸運を……！」
　此方の姿が見えなくなると時子は雀に変身し、この海蛇号から脱出した。

◇

　リ・ボーン号は、紅梟号とは反対側の左舷後方から回り込み衝突していた。いま三隻は海蛇号をサンドイッチのように挟んで並んでいる。
　愛用のスコップを背負った鬼崎未月はフックとロープを巧みに使ってマスト伝いに海蛇号に乗り込むと、帆柱の先にサイリウムを括りつけ、前方の触手に向かって信号弾を撃ち込んだ。クラーケンの意識をこの海蛇号に向けようという算段である。ロマンチストの未月はここですこし欲を出した。
「んー、この船に何かお宝ないかな」
　ふと下を見る。
　甲板には動かなくなったゾンビたちに混じって、血まみれでぐったりとしたブリジット・アーチャー、倒れて動く様子のない小山内海、海の名前を必死に呼び続ける桜庭円の三人がいた。
「大丈夫っ？」
　未月は慌ててマストを下り駆け寄った。
「お姉ちゃんたち、はやく紅梟号に戻って！　リ・ボーン号と紅梟号でこの船を挟んで、クラーケンの前まで運んでぶつけるんだっ……て……」
　未月の足がふわり宙に浮く。
「未月ちゃん！」
　円が叫ぶ。
　未月は最後に残っていた巨躯の海賊ゾンビに首根っこを掴まれていた。
「うわ、うわあっ！　やだやだ！」
　未月はスコップを振り回し暴れる。だが、いくらスコップが当たっても、ゾンビは堪えない。
　ゾンビはそのまま船尾へと向かった。未月を海に投げ落とす気なのだ。

（――あ、あれは！）
　操舵輪をサーベルで叩き壊した神薙焔は、ゾンビと未月に気づくとすぐに拳銃に装填した。
　パン！
　撃つ。装填にかかる時間がもどかしい。が、すばやくもう一発！
　ゾンビが傾ぐ。そのまま海に落ちるコースだ。だがその手の中には未月がいる。
「きゃあああっ！！」

「未月ちゃん！！」
　円は走った。小さい未月だけでも守らなきゃ。
「道連れになんて絶対させないよ！」
　ゾンビに組みつくと、トンファーで腕を叩いて未月を放させる。円は未月の身体を甲板の方へ押しやる。
　未月は背中から甲板に転がった。
「うっ……いった……」
　未月の目がみるみる見開かれてゆく。
「あ、ああッ！　円お姉ちゃーん！！！」
　
　その瞳に映ったのは、甲板からゾンビもろとも海に落ちる、円の緑の髪だった――！

　焔はぎゅっと目をつぶる。
「退却よ。未月ちゃん、紅梟号から人を呼んできて。アーチャーちゃんと小山内ちゃんを運ぶわ」
「円お姉ちゃんは？」
「残念だけど……こんな荒れた海に落ちてしまったら……」
　唇を噛む。
「さ、早く行って！　時間がないわ！」
　未月は頷いた。宝探しどころではないようだ。未月は助けを呼びにロープを伝って紅梟号へ渡る。

　焔は雨ざらしのブリジッドと海にコートを掛け、彼女たちを揺れや風雨から守りながら船首楼の方を見る。
「御剣くん、尾鎌くん……！」