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終焉狂想曲 NO.222
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オーブンを百七十度に設定する。
床が細かく震えている。
室温に溶かしたバターに砂糖を入れる。泡だて器で空気を含ませ、残りの砂糖を入れて、もう一度念入りに空気を含ませる。クッキー作りにはここが肝心。クリーム状になったところに卵黄を入れてまた混ぜる。
閉め切ったブラインドさえ透かせて、夕陽よりも鮮烈な紅の色した光が不気味に揺れる。
泡だて器をゴムべらに持ち替え、アーモンドプードルを加える。よく混ぜて後、薄力粉も加える。
大抵の音は通さぬはずの厚い壁を震わせ、空や地や海に溢れるナニカ達が吼える。その声の大きさに、
壬生 由貴奈
は眠たげな茶色の瞳を気だるげにしばたたく。
震えそうになる手をもう片手でそっと押さえ、ボウルの中、クッキーの生地を完成させる。本当は生地を冷蔵庫で休ませたいところだけれど、今日はその時間はなさそうだ。
「……急だよねぇ」
カーテンの向こうに広がっているはずの世界の終末に向け、息を吐き出す。
(万が一でも勝ちがあれば拾いに行くけど……)
少し柔らかめの生地のかたちを整え、厚めに切って天板に並べる。余熱完了したオーブンに入れてしまえば、焼き上がりまでは二十分。
(これはそういう、勝負ですらないんだよねぇ)
出来上がりを待つまで、リビングに設置したパソコンに触れる。クッションを抱いて前に座り、画面に現れる文字列を眺め、画像を眺め、
「どうあっても、助かりそうにないよねぇ……」
言葉とは逆、どこか悟りきった静かな声音で呟く。
パソコン画面の端に記された時刻を見遣る。世界の終焉まで、残された時間は僅か。これまでの生を懐かしむ時間も、未来に馳せる時間も残されているようには思えない。
画面の向こう、ネットの住人たちの声を拾う。終末を信じえぬ者、言葉途中で送信して後は一切の音沙汰ない者、事態を哂う者、それぞれがそれぞれに終末の時を過ごしている。
地球の裏側の中継映像を拾い、世界の何処であっても同じ状況であることを確かめる。
オーブンの電子音に立ち上がろうとして、激しく揺れる床にたたらを踏む。空に舞う化物がマンションの何処かの壁にでも突っ込んだのか。高級マンションなだけあって、随分と頑丈なこの建物も、やはりそう長くは保たなさそうだ。
終焉の世界にあって、いつも通りの生活を過ごそうと、いつも通りの生活の中で最期を迎えようとしていて、
(……あぁ、)
由貴奈は密やかな嘆息を零す。これが最期であるのならば、
(せめてお墓参りしておこうかなぁ)
最期を迎える場所はあのふたりの傍がいい。
オーブンからクッキーを取り出しながら、由貴奈はちらりと首を傾げる。
(エレベーターは生きて、……なさそうだよねぇ)
焼き立てのクッキーを手提げに詰め、部屋を出る。勝手知ったる廊下を渡る。分厚い壁に囲まれた非常階段を目指そうとして歩き出した直後、行く手を遮るかたちで近隣の家の扉が勢いよく開いた。
素肌にシャツを羽織り、ダメージジーンズのベルトを締めながら現れた、高級マンションには似つかわしくない派手なピンク頭の男に、由貴奈は眠たげな瞳を瞬かせる。
「頭いてー……」
酒の臭いに粘つく口を歪め、
三夜 雷一
は二日酔いの頭を抑える。首元に銀の光をちらつかせるドッグタグを鬱陶しげに指で弾き、室内を振り返る。
一夜を共にした見知らぬ女が、クイーンサイズのベッドの上、終末を映すテレビを眺めながら酒瓶をあおっている。女は自室のベッドで最期を待つのだと豪快に笑った。
最初は悪い冗談かと半笑いを浮かべたが、テレビ画面に映し出された世界は確かに崩壊しつつあった。窓の外の街を満たす赤く濁った光に、割れる地面に、空を泳ぐ怪物の姿に、漸く事態を理解した。
足元が激しく揺れる。
「……マジか」
「そうみたいだねぇ」
手提げからクッキーを取り出し、泰然と齧る少女を琥珀色のカラーコンタクトの瞳に映し、雷一は足を踏み鳴らす。
「くそっ、ちんたらやってる場合か!」
茫然自失の態にも見える少女の手を有無を言わせず掴む。名も知らぬ少女は、けれど妹たちと同年代に見えて、放ってはおけなかった。
「走っぞ、ねーちゃん!」
「あぁ、壬生由貴奈。その角を右、突き当たりに非常階段」
「ユキちゃんな!」
壁にナニカが激突するのか、激しく揺れる床に足を取られながらも非常階段の前に辿り着き、雷一は思い出したように由貴奈に自身の名を伝える。
「……みっちゃん」
「せめてライチで」
「じゃあライっち」
五秒で考えたあだ名で呼び合いつつ、ふたりは五階分の階段を駆け下りる。重い鉄の扉を押し開け、瞳に押し入る空の赤に雷一は唇を噛む。
街に溢れる怪物達に足を止める雷一のピンク頭を見上げ、由貴奈はのんびりと掴まれた手を解く。終焉にあっても眠たげな瞳を変えぬまま、惨劇の街へと躊躇いのない歩を進める。
「じゃあね、ライっちー」
「っ、おい!」
「最期の場所くらいうちが決めたいからねぇ」
ひらひらと手を振りながらののんきな口ぶりの中に少女の堅固な意志を読み取り、雷一は唇を引き結ぶ。手を振り返す。
「じゃあな」
崩壊する街を眺めて歩いて行く少女の背中から顔を逸らす。此処が何処だかも判らなくなるほどに怪物共が暴れているけれど、どうやら星ヶ丘であることは確からしい。
(最期の場所、か)
世界が終わる時、一緒にいたいのは誰だろう。
ほとんど同時に浮かんだのは、星ヶ丘に住む離婚した妻子と旧市街に居を構える実家の親兄弟。
――なんで私を責めないの
耳朶に蘇ったのは、離婚届に判を押した時の嫁の声。泣きながら詰られて、
――あなたの双子のお兄さんと二股掛けたの。長女はどっちの子だかもわからないの!
責めてよ、と叫ぶ妻を前に頭が真っ白になったことを思い出す。
(いっそキレちまえばよかったのに)
その癖、愛した妻子を喪うのが怖かった。調子よく笑ってその場を誤魔化した。
今もそれは変わらない。現実と向き合うの嫌さに道化を演じてばかりの、
(とんだ腰抜け)
己を罵ることで己の尻を叩き、雷一は実家に背を向ける。別れた妻のマンションを目指し、地を蹴る。
最期くらいは自分に正直に終わりたかった。死が定められているのなら、大事なものを守りたかった。
(俺は父親だから子供を守らなきゃ)
別れた嫁に会えたら、あの時のことを謝ろう。どちらの子供であろうがそれでもいいと伝えよう。
(愛してる、やり直したい)
家族として終わりを迎えるために、きちんと向き合おう。いつものように平手を食らっても、今度こそ逃げ出したりするものか。
アスファルトを割って噴き出す黒煙を突っ切り、燃え盛る屋敷や高級マンションの脇を駆け抜ける。愛するものの元を目指し一心に駆ける彼に、お調子者のいつもの姿は無い。
喉が焼けるように痛い。
咳き込む息に血の味がする。
(あの煙か)
それでも、妻子の元に辿り着くまで身体が保つのなら、後はどうなろうと構わなかった。
口の中の血を唾液ごと地面に吐き、唇を手で拭って、
「おかあさん!」
地面から噴き出す黒煙の中に倒れる女と、女の手を必死の形相で引く子供を目にした。目にしてしまった。
倒れ伏す女が母の姿と被った。
泣き喚く子供の姿が娘や弟妹と被った。
「ああくそ、何やってんだ!」
黒煙が有毒であると理解していても、身体が勝手に動いた。瓦礫に足を滑らせながら駆け寄る。煙を吸って咽る子供の手を引く。
「俺様ちゃんに任せとけって」
おどけて言い、黒煙に身体を突っ込む。煙の苦さと熱に顔を顰め、倒れ伏して動かぬ女を引きずり出す。息の有無を確かめる余裕もなく、女を背負う。子供の手を引き歩き出そうと踏み出そうとして、子供が膝をついた。咳き込む口を押さえる指の間、血が溢れて落ちる。
「しっかりしろ、おい」
大量の血を吐く子供の小さな背中を擦りながら、包丁を突き立てられたように痛む胸を押さえる。そうして気付いた。己の口からも夥しい血が零れている。
子供が地に伏す。雷一の背に負われていた女の遺体が転がる。
「は、……」
地面に蹲り、雷一は嘆息まじりに笑う。胸元で鬱陶しく揺れるドッグタグを片手に握る。
揃いのドッグタグを提げた、己と同じ顔した兄の姿が脳裏を過ぎる。
(俺らしいっちゃ、らしいか)
震える指先で、ジーンズのポケットから妻子の写真を引き出す。
家族との絆を握り締め、雷一は淡く優しく瞳を和らげる。
(悪くねえ、よな)
祈るように、目を瞑る。
父と母の名が刻まれた墓標に、熱帯びた額を押し付ける。
「父さん、母さん。先立つ不幸を……」
いつもに増して強い眠気に襲われながら囁いて、由貴奈は面白くもなさそうに黒い瞳を瞼に閉ざす。
「って、もう先立たれてたんだった……」
冷たい墓標が震えて、由貴奈は睫毛をもたげる。容易くは死なせてくれない終焉の世界へと視線を広げる。
「なあんにも、見えないねぇ」
小高い丘にある墓地は、けれど今は無数に走る地割れから噴き出す黒煙に包まれ、黒一色に塗りつぶされている。それでも、それはそれで逆に良かったのかもしれない。少なくとも、ここに来るまでに見た残虐な終焉の世界を、ここからは見ずに済む。
父母の腕に抱かれるように、父母の墓に寄りかかる。
本土から寝子島に引っ越す時に、両親の墓も一緒に移して来て良かった、と心底思う。
黒煙に混ざって感じる、鼻につく鉄の臭いだけが気に喰わなかった。この臭いは『あの時』の臭いによく似ている。
倒れた父と母と、後輩の身体から流れ出す血の臭い。
『あの時』に似た空気を感じながら死ぬなんて、
「いい気がしないよぉ」
呟いた声にも血の味が混ざって、これはいよいよだなと由貴奈は苦しい息を吐く。
(アイツのとこにも行っておきたかったけど……)
あの時、父母と一緒にいなくなった彼を思う。
後輩である彼の墓は本土にある。今からでは到底行けそうにない。
(まぁ、いいか)
血の溢れ出す唇で微かに笑み、父母の墓に甘えるように頬を寄せる。
「だって、ねぇ」
(もうじき、そっちへ行くわけだし……ね……)
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3人まで
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冒険
SF・ファンタジー
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定員
15人
参加キャラクター数
16人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2015年06月06日
参加申し込みの期限
2015年06月13日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年06月13日 11時00分
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